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かつてロンドンの地下を走っていた郵便専用列車メールレール。今は小さな車両に大人が乗ってる姿がかわいらしい
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「メールレール」について語る。
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廃駅や秘密の地下壕ごう、未解決事件など、多くのミステリーや都市伝説が眠っている英国・ロンドンの地下。世界最古の地下鉄網や地下空間には、郵便だけを運ぶための地下鉄が走っていました。その名も「Mail Rail(メールレール)」。
名前だけでも十分に心がざわつきませんか? 通常、鉄道は人を運ぶもの。しかしこの路線は、「乗客ゼロ」を前提に設計された鉄道。運転士も車掌もいない完全自動運転で、小さな電車が手紙と小包だけを積み、ロンドンの地下約20m以深を黙々と走り続けていました。1927年から2003年まで活躍し、最盛期には1日に約400万通もの郵便を運んでいたそうです。
世界を見渡しても、都市の地下にこれほど大規模な「郵便専用鉄道」を敷設し、長期間運用した例はありません。100年近く前に無人運転を実現しているのもすごい。自動運転と聞くと最先端テクノロジーを思い浮かべますが、メールレールは「それ、もうだいぶ前にやりましたけど?」という顔をしています。この「未来が過去にある感じ」が、実にロンドンらしい。
メールレールが生まれた理由も、なんともロンドン的。地上は馬車や自動車で大渋滞。郵便が思うように届かない。それなら地下に専用線を掘ってしまおう、という発想。都市計画というより、「混んでいるなら地下に行けばいいじゃないか」という豪快な力業です。
しかし、その大胆さが英国の郵便網を何十年も支えました。まるで都市の毛細血管のように、人知れずロンドンの東西を結んでいたのです。東京でたとえると、新宿→丸の内→日本橋→上野→浅草と大きな郵便局が地下専用鉄道で結ばれていて、首都高や中央通りが大渋滞していても、地下では郵便だけが時刻表どおりにスイスイ走っているような感覚ですかね。
現在は「The Postal Museum」(郵便博物館)の展示のひとつとして、一部の区間を体験乗車できます。私も先日乗ってきました!
車両は、実際に目の前にすると、驚くほど小さかったです。一応1両に4人座れる仕様になってたけど、細身気味女子2人でぎゅうぎゅうでした。人間用じゃないから、乗ると郵便物になった気分! ホームを離れると照明は暗くなり、狭いトンネルをくぐり抜け、当時の郵便局の様子を再現した映像や音響演出が現れます。テーマパークのアトラクションのようでもあり、産業遺産ツアーのようでもあり、絶妙にその中間でした。
鉄道好きには「営業運転していない地下鉄に乗れる」というだけでご褒美ですが、歴史好きやデザイン好きにも十分楽しめる完成度でした。私は配線や複雑な分岐をもっと見たくて、2回連続で乗りました。楽しかったー。
"大インターネット通販時代"の今、再び活用できないのかな、とも考えましたね。ウーバーイーツとか? ごはんにホコリ入っちゃうけど。自転車レーンやドッグパークとしても地下ロードはいいな、と思ったけど、もはや鉄道が関係なくなるので却下。
何はともあれ、メールレールの小さな列車に乗ると、ロンドンという街が少しだけ深く見えてきます。ロンドンに行く際はぜひ!
●市川紗椰
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ここ数回続いてるヨーロッパ視察シリーズ、まだ続くかも。公式Instagram【@its.sayaichikawa】