世界地図の"新覇権"争いが勃発! ダークホースは日本発の最強図法 「オーサグラフ」!?

取材・文/小山田裕哉 写真/共同通信社 図版提供/オーサグラフ株式会社

1999年に建築家の鳴川肇氏が考案したオーサグラフ図法の地図。面積比と陸地・海域形状を極限まで保ち、従来の地図ではいびつに描かれがちだった南北の極地も極めて正確に描く。地球温暖化問題や、地政学的観点から再び注目が集まる1999年に建築家の鳴川肇氏が考案したオーサグラフ図法の地図。面積比と陸地・海域形状を極限まで保ち、従来の地図ではいびつに描かれがちだった南北の極地も極めて正確に描く。地球温暖化問題や、地政学的観点から再び注目が集まる

球体の地球を96分割して多面体に写し、隙間なく長方形へと平面的に広げた展開図。面積や陸地・海域の形状を高い精度で保持可能球体の地球を96分割して多面体に写し、隙間なく長方形へと平面的に広げた展開図。面積や陸地・海域の形状を高い精度で保持可能

世界地図の"覇権"を巡る対立が、国連の場でついに表面化――。メルカトル図法の"ゆがみ"を正す新図法の可決に、各国の思惑と歴史認識が交錯!? そしてこの激震の真っただ中で存在感を増すのが、日本で開発された「オーサグラフ」だ。奥深き世界地図を巡る攻防の裏側に迫る!

* * *

【アフリカが主張する「認知的正義」】

今秋、国連総会で各国の面積を正しく反映した「イコールアース図法」の使用を促す決議が採択された。トーゴなどアフリカ諸国が主導し、日本を含む164ヵ国が賛成した。

これまで世界では「メルカトル図法」の地図が長らく使用されてきた。しかし、アメリカやロシアなど赤道から離れた国は実際よりも大きく、アフリカや南米の諸国は相対的に小さく描かれる欠点があった。

例えばメルカトル図法では、北極に近いグリーンランドがアフリカ大陸と同程度の大きさに見えるが、実際の面積ではアフリカ大陸のほうが約14倍も大きい。

こうしたゆがみが「無意識のうちに欧米中心主義的な世界観を人々に植えつけている」と、以前からアフリカ各国に批判されてきたのだ。

これに対し、新しく採択された「イコールアース図法」では、大陸や国の面積の比率を正確に表現することを優先しており、今回の決議案をアフリカ連合(AU)を代表する形で主導したトーゴのロベール・ドュセ外相も、「公正な地図は世界の地理を変えるのではなく、世界の見方を変える」と訴えた。

国連決議後、記者団の取材に応じるトーゴのドュセ外相。「公正な地図は世界の見方を変える」と訴え、アフリカの真のスケールを世界に示す決議を主導国連決議後、記者団の取材に応じるトーゴのドュセ外相。「公正な地図は世界の見方を変える」と訴え、アフリカの真のスケールを世界に示す決議を主導

ところが、この提案にウクライナなど6ヵ国が棄権しただけでなく、強固に反対した国もあった。アメリカだ。

ウクライナは面積比を正す趣旨には賛同しつつ、「ロシアによる占領地の描き方に容認できない部分がある」として棄権した。しかし、アメリカの反対理由は違った。

「国際平和や繁栄、良好な関係といった本当の問題に取り組まず、16世紀の地図の図法を議論している」と批判し、こうした決議こそ国連が信頼を失っている理由と断じた。

面積比を正確に描くイコールアース図法(上)と、角度と方角を正しく保つメルカトル図法(下)。イコールアースでは、メルカトルで小さく見えていたアフリカ大陸などがより正確な比率で表わされる面積比を正確に描くイコールアース図法(上)と、角度と方角を正しく保つメルカトル図法(下)。イコールアースでは、メルカトルで小さく見えていたアフリカ大陸などがより正確な比率で表わされる

なぜ、世界地図を巡り対立が起こるのか。一般社団法人日本地域地理研究所代表理事の瀧波一誠(たきなみ・いっせい)氏が、その背景を解説する(以下、同)。

「今回のアフリカ側の主張の根底にあるのは『認知的正義』という考え方です。植民地支配の歴史的経緯に加え、地図上で小さく描かれ続けたことが自分たちを軽視する見方につながってきたと彼らは主張しています。

さらにアフリカ連合は、これまでアフリカを相対的に小さく見せてきた地図の是正を、過去の不利益に対する『賠償を通じた正義』という大きな取り組みの一部に位置づけています。決議が指摘する『象徴的な矮小化』という偏見を正すこと――それこそが彼らの強い動機と言えます」

一方、なぜアメリカはこうも強く反対するのか。

「決議文の中に、まさにその『賠償』につながる言葉が含まれているからです。決議は面積の是正を『認知的正義と記憶の修復』と位置づけています。アメリカはこれを単なる地図の変更にとどまらない、賠償や『認知的正義』を推し進める、より大きな思想的取り組みと切り離せないとして反対したのです」

【面積精度と視認性の両立を目指したイコールアース】

そもそも世界地図の〝覇権〟を巡る対立は今に始まったことではないという。

「現在も広く使われるメルカトル図法は、1569年に大航海時代の航海用として生まれました。羅針盤で一定の方角を保って進む航路を、地図上に直線で描くことができるため重宝されましたが、赤道から離れ緯度が高くなるほど、土地の面積が大きく表示される特徴があります」

このゆがみは、しばしば政治的プロパガンダの文脈で語られることもある。

真偽は定かでないが、冷戦期のアメリカでは、ソ連が巨大に描かれるメルカトルの特性が「共産圏の脅威」を強く印象づける役割を果たしたともいわれる。

その後、長らく欧米主導で利用されてきた世界地図に対し、待ったをかける潮流が生じてくる。

「アジアやアフリカ各国の台頭に伴い、欧米中心の世界観に対する異議申し立てが地図の世界でも始まりました。

その代表が1973年提唱の『ガル・ピーターズ図法』です。これは面積を正確に描く一方、赤道に近い地域ほど陸地が南北に引き伸ばされ、アフリカや南米が縦長に見える欠点がありました。

ユネスコが普及を後押しし、イギリスの学校などで使われましたが、社会全体へ普及することはありませんでした。地図学者からは形のゆがみが大きいという批判も出ました」

以降、1979年には南を上にしてオーストラリア大陸を上側に配置した世界地図が登場するなど、世界地図の〝覇権〟を巡る異議申し立てはさまざまな立場から、幾度も行なわれてきた。

その中で登場し、今回、国連総会で使用が推奨された「イコールアース図法」は、2018年にアメリカの地図学者らが中心となって考案したもの。

「面積精度と教育的視認性の両立」を目指して誕生した、歴史的にも新しい図法である。

「イコールアースは世界的に見慣れた地図の外観を手本として、その自然な形に近づくよう数式を調整して作られました。

また、緯線が真っすぐのため、従来のメルカトル図法の地図と並べても違和感が少なく、教育用として非常に使いやすくなっています。

もちろん、欠点はあります。中央以外の経線は外側にいくほど大きく曲がるため、地図の周辺部や高緯度にある陸地の形にはゆがみが生じます。

角度の正確さも犠牲になっていますから、正確な方角の把握が不可欠な航海用や航空用の地図には向きません」

教育や各地域の面積比較に向いた図法で、まさに「各国の大きさに対する認知のゆがみを正すためのもの」だという。

【地政学的見地からも重要性を増すオーサグラフ】

一方、こうした世界地図の欠点を乗り越えるべく、日本で誕生した図法もある。それが「オーサグラフ」だ。1999年に建築家の鳴川肇(なるかわ・はじめ)氏が開発、2016年度にはグッドデザイン大賞も受賞している。

「オーサグラフは、地球儀を96個のブロックに切り分け、正四面体に投影して展開する『多面体図法』を採用しています。

面積のゆがみを抑え、従来の地図では北極や南極に偏りがちだったゆがみを地球全体に分散させるよう設計されています。海の広大さも従来の地図と比べてよくわかる。

北極や南極など極地が大きくゆがまずに描かれていることも非常に重要です。近年の地球温暖化、北極海の航路や資源開発、南極の観測など、現代の地政学を正しくとらえる上で、極域を含む世界全体を見渡せることは非常に大きな意味を持ちます。

ただ、地図の上下左右が東西南北に一定の対応をしていないため、方位を読むには経緯線を確認する必要はあります」

また、オーサグラフは特定の国を中心に固定しない構造になっているため、あらゆる国を中心に据えることが可能だ。

「イコールアース同様、日常のナビゲーション用途には向きませんが、世界の構造を正しくとらえ、『人々の認識の偏りを補正する』という点において、オーサグラフは極めて画期的で有意義な地図です。教育現場などでも、さらに活用が進んでほしい図法だと言えます」

オーサグラフのような革新的な図法が生まれ、国連でもイコールアースの採用推奨が決議された。今後、こうした新しい地図が世界の主流となっていくのだろうか?

「それでもメルカトル図法の覇権は揺らがないでしょう。一定の方角を保って進む航路を、直線で描けるという強みは今も変わらず、その点においてメルカトル図法を超えるものを生み出すのは難しい。

ただし、今回の国連決議を契機として、教育や外交などの場では、国や大陸の面積を比べたり、極域を含む世界全体を見渡したりするために、イコールアースやオーサグラフが併用される流れは広がっていくはずです」

そもそも「平面の世界地図に100点満点の正解は存在しない」と瀧波氏は語る。3次元の球体を2次元の紙や画面に落とし込む以上、面積・角度・距離・方位のすべてを同時に正しく保つことはできない。

「この一連の議論における最大の意義は、『目的に応じて地図を使い分ける』という視点が共有されることです。

唯一絶対の地図を求めるのではなく、スマホで経路を調べるときはメルカトル、国際情勢や地球環境を考えるときはイコールアースやオーサグラフを使う。

そうやって用途に合わせて地図を選択する『地図リテラシー』こそが、これからの時代のスタンダードになっていくのが理想的ですね」

知れば知るほど奥深き世界地図の世界。地図を巡る〝覇権〟争いの行く末はいかに――。

  • 小山田裕哉

    小山田裕哉

    おやまだ・ゆうや

    1984年生まれ、岩手県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映画業界、イベント業などを経て、フリーランスのライターとして執筆活動を始める。ビジネス・カルチャー・広告・書籍構成など、さまざまな媒体で執筆・編集活動を行っている。著書に「売らずに売る技術 高級ブランドに学ぶ安売りせずに売る秘密」(集英社)。季刊誌「tattva」(BOOTLEG)編集部員。

Photo Gallery

編集部のオススメ

関連ニュース

TOP