GoProの身売り騒動で大注目。米中大手3社による「アクションカメラ三国志」を解説!

取材・文・撮影/高口康太 写真/AFP/アフロ

アクションカメラ市場を開拓したGoPro。一般用途だけでなくテレビのロケでも定番となったが......!?アクションカメラ市場を開拓したGoPro。一般用途だけでなくテレビのロケでも定番となったが......!?

体や車両に装着、片手で持っても迫力ある映像を手ブレなしで簡単に撮影できるアクションカメラは2010年代から急速に普及した。米中の大手3社がどのように市場を開拓し、先進的な製品開発を行なってきたのかをジャーナリストの高口康太さんが解説します!

* * *

【追っかけリーチで中国が勝てたワケ】

アクションカメラの代名詞「GoPro」が身売りした。2026年9月1日、米国の光通信スタートアップ、スターマン・オプティカルが2億8500万ドル(約456億円)での買収を発表した。

GoProの設立は2002年。創業者のニック・ウッドマンはサーファーで、「波に乗る自分の姿を自分で撮りたい」という一心で立ち上げた会社だ。

趣味人の思いつきから生まれた製品がアクションカメラというジャンルそのものを生み出し、最盛期には時価総額100億ドル超という企業を生み出した。

映画になりそうなステキなストーリーだが、結末は悲しい。GoProの事業は継続するものの、AIインフラや航空宇宙事業など法人向けビジネスが中心になるもようだ。

中国・深圳のInsta360ストア。スマホでは体験できない360度撮影を手軽に楽しめる中国・深圳のInsta360ストア。スマホでは体験できない360度撮影を手軽に楽しめる

ドローンでも注目されるDJIは、山のようにそびえ立つフラッグシップストアを中国・深圳で営業ドローンでも注目されるDJIは、山のようにそびえ立つフラッグシップストアを中国・深圳で営業

ここ数年、アクションカメラの世界では三つどもえの戦いが繰り広げられていた。GoProに挑むのは中国のDJIとInsta360だ......というとカッコいいのだが、結果はGoProのボロ負け。2024年に27%だった世界シェアが、今年第1四半期にはわずか6%にまで落ち込んでいる。

ハンドヘルド・スマートカメラ(アクションカメラやジンバルカメラ、360度カメラ)の出荷台数は2025年、前年比83%増と爆成長しているのに、GoProの出荷は25.9%減。市場全体が伸びている中でのマイナス成長という無残な敗北である。

米国企業が新市場を切り開いても、追っかけリーチをかけてきた中国勢に負ける事例は多い。昨年12月にはロボット掃除機の元祖「ルンバ」を販売する米アイロボットが破産を申請した。

ロボロックやエコバックスなど中国のロボット掃除機はお安く、かつ超優秀。床拭き、モップの自動洗浄・清掃、ベッド下に入れる薄型、段差乗り越えなどの機能で圧倒した。

実は、Goproを倒したDJIは以前にもドローンで同じことをやっている。民生用ドローンは仏パロット、米3Dロボティクスが市場を切り開いたが、後発のDJIが圧倒的な性能と激しい値下げ戦略で王者となった。

ドローンからブレのない映像を撮影するには優れたジンバル(安定化装置)技術が必要になる。この技術でジンバルカメラを開発し、カメラにも手をつけちゃったからとアクションカメラにも進出し、本気でカメラをやるならと超高級カメラメーカーのスウェーデン・ハッセルブラッドを子会社化し......という積み重ねで、DJIは現在の地位を築いている。

それにしても、なぜ中国企業はこんなに強いのか。中国は14億人の人口大国であり、かつ教育熱心で理系思考が強い。というわけで、安い給料で優秀なエンジニアの頭数をそろえられ、めちゃくちゃな勢いで働いてくれる。

良い製品を生み出すには「72時間連続で働く執着心が必要」と話したのがDJIの創業者フランク・ワン。日本では1988年のCMソングで「24時間戦えますか」というフレーズがヒットしたが、日本のモーレツ社員と比べても中国は3倍ブラックというわけだ。

以前、DJIで働く日本人社員の話を聞いたことがある。夜中に呼び出されて「明日までにサンプル作ろうぜ!」と、突然のデスマーチが始まるのもざらなのだとか。さすがに米企業のGoProにはまねできない働き方だ。

そして、もうひとつ、重要なポイントがサプライチェーンだ。中国はともかくプレイヤーが多い。世界最大の電脳街、広東省深圳(しんせん)市の華強北(ファーチャンペイ)をのぞくと、DJIやInsta360だけではなく、聞いたことがないメーカーの商品が並ぶほか、防犯カメラや顔認証システム、さらにはスマートフォンなど部品が共通する電子機器製品がごまんと並ぶ。

そうした製品の中身、部品を作るサプライヤーが無数に存在し、それらのパーツをかき集めて組み合わせることで、超高速かつ低価格で商品を作ることができる。

このエンジニアの頭数とサプライチェーンの優位を生かせば、世界のどこかで何か優れた新プロダクトが生み出されると、速攻で追っかけリーチをかけて類似商品を作ることができる。「山寨死(シャンツァイスー)」――後発のノンブランド企業に模倣されて潰れる現象――という言葉があるほどだ。

このプレイヤーの多さを痛感させられるのが、中国のサードパーティ市場の充実っぷりだ。DJIやInsta360のカメラに装着するレンズやリグ(補助機材を装着するフレーム)、無線キットなど、第三者企業が無数の製品を発売している。

創業当初は産業用ドローンを主軸とし、続いて民生用も大ヒット。そして現在ではジンバル搭載カメラのOsmoシリーズもドローンと並ぶ稼ぎ頭に成長創業当初は産業用ドローンを主軸とし、続いて民生用も大ヒット。そして現在ではジンバル搭載カメラのOsmoシリーズもドローンと並ぶ稼ぎ頭に成長

便利そうなものもあれば、「ジンバルカメラに巨大な外装をくっつけて、テレビカメラサイズに巨大化させてみました」という謎アイテムも出現している。軽くて、片手でも簡単に使えるジンバルカメラをなぜこんなに重くするのか......と疑問でしかないが、世界のどこかには必要な人がいるのだろう。

ともかくプレイヤーの数が多く、カメラ本体からアクセサリーまで、「こんなものまで作っちゃいました」のバリエーションが無限に展開されていく。ここまでのサードパーティ市場を作れなかったのも、GoProの敗因のひとつだろう。

【中国企業も逃れられない泥沼】

というふうにまとめると、「中国勢スゴー!」という話で終わってしまうのだが、実は中国企業も先進国の企業に勝てばそれで安泰というわけではない。アクションカメラ三国志がその好例だ。

2006年に創業し、10年からドローンで躍進し、世界的な企業に躍進したDJIと比べると、Insta360は新参者だ。創業は2015年。創業者の劉靖康(リウ・ジンカン、通称・JK)は南京大学を出て1年後、まだ20代前半でこの会社を立ち上げている。

最初のヒット商品はiPhoneにオプション的につけられる360度カメラ。ちょっと面白いが、イロモノ的な扱いのニッチ企業だった。だが、そこからじりじりとポジションを高めていく。

写真は2016年、中国・深圳の家電ショップ。チープなノーブランドの防犯カメラが並ぶが、このような商品群から成り上がったのがInsta360写真は2016年、中国・深圳の家電ショップ。チープなノーブランドの防犯カメラが並ぶが、このような商品群から成り上がったのがInsta360

Insta360の劉靖康CEOInsta360の劉靖康CEO

武器となったのが創業者、劉靖康の奇抜なアイデアだ。DJIは実用的で初心者にも扱いやすい、こなれた操作性やソフトウエアを強みとするが、Insta360はガジェットオタクをとりこにする遊び心全開の多機能が売りだ。

スマホジンバルでは真っ先にスマホからのリモート操作機能を取り入れ、アクションカメラでは部品ごとにモジュール化し、入れ替えるだけで機能を追加できる製品を立て続けに投入した。

2019年に日本を訪問したJKにインタビューしたことがある。まだまだ実現できていないアイデアがあると熱く語り、「結局、いい写真ってカメラマンがいないと撮影が難しい。次はラジコンカーの上にカメラが載っていて、被写体を追いかけるカメラとかいいんじゃないかな」と突拍子もない発想を披露していた。

残念ながら、カメラマン代わりのガジェットは実現しなかったようだが、出てくる商品はどれもこれもおもろい機能が搭載されている。

今夏発売のジンバルカメラ「Insta360 Luna Ultra」はタッチパネル画面を取り外せるギミックがついている。これまでのリモート操作はスマホ経由が基本だったが、操作が面倒。しかし新製品ではもともとセット売りされている操作部をそのまま使えて楽ちん......という触れ込みだ。

もっともInsta360は、初期から今までガジェットオタク向けという路線が変わらず、操作がひたすらに難しい。「オタクだったら、これぐらい覚えられるやろ!」という圧力を感じる。

かくいう私も昨年、Insta360のスマホジンバルを買ったのだが、機能が多すぎて降参。今年はDJIのジンバルカメラに乗り換えた。

両社とも世界中の中小大企業を巻き込んで、アプリからオプションパーツまで膨大なアイテムを販売している。GoPro以上の超巨大なエコシステムを構築中両社とも世界中の中小大企業を巻き込んで、アプリからオプションパーツまで膨大なアイテムを販売している。GoPro以上の超巨大なエコシステムを構築中

違った魅力があるだけに、どちらを購入するかは消費者の選択だ。とはいえ、ドローン市場で覇者となったDJIと比べると、まだまだ若く小さいInsta360が互角に殴り合っているだけで驚きだ。

私が取材したときはまだまだ怪しげな、小さなベンチャーという印象だったが、見る見る世界的企業に成長し、2025年6月には上場。時価総額は700億元(約1兆6000億円)にまで成長している。

民生用ドローンでは欧米企業を蹴散らして一強となったDJIだが、追っかけリーチをかけてきた中国の後発企業を潰すことは容易ではない。

【政治的な綱渡りが続くDJI】

GoProがアクションカメラ三国志から脱落し、今後は2強の一騎打ちとなる。戦いはどう推移するのか。勝敗を左右するのが〝政治〟だ。

DJIは2022年4月、ロシアとウクライナ両国向けの販売を同時に停止することを発表した。同年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争で、DJIのドローンを砲戦観測や偵察に使うといった手法が横行していたためだ。

世界に民生ドローンを販売しているDJIにとっては政治に巻き込まれたくないとの考えだったが、間に合わなかった。米連邦通信委員会(FCC)は2025年12月にDJIを輸入禁止対象リストに追加した。通信機器としての認証が下りないため、ドローンはおろか、カメラなどほかの製品も新機種は米国では販売できなくなってしまった。

一方のInsta360は、まだ政治的圧力を受けるほどには有名ではない。DJIの米国での輸入禁止規制を見越していたかのように、2025年7月には「アンチグラビティ」というブランドでドローン事業を始めた。

一時はDJIのドローンに装着できる360度カメラを販売していたのだが、チャンスと見るや食いにかかる。まさに戦国時代だ。Insta360が快進撃を続けて目立ちすぎると、米国の制裁を受ける可能性もあるはずだが......。

心配性の日本人の不安をよそに、「大丈夫っしょ」と突撃するその姿はカッコいいやら心配になるやら。アクションカメラ戦争、今後もおもろい展開が待ち受けていそうだ。

  • 高口康太

    高口康太

    たかぐち・こうた

    1976年生まれ。ジャーナリスト、翻訳家。中国の政治、社会、文化を幅広く取材。独自の切り口から中国や新興国を論じるニュースサイト『KINBRICKS NOW』を運営。著書に『幸福な監視国家・中国』(梶谷懐との共著、NHK出版新書)、『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。

Photo Gallery

編集部のオススメ

関連ニュース

TOP