
坂口孝則
Takanori SAKAGUCHI
坂口孝則の記事一覧
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!
ウクライナが6月に公開したウェブプラットフォーム「トロフィーラボ」。戦場で鹵獲したロシア製兵器の情報を公開し、多角的な分析を共有する仕組みだ
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「日本製品」について。
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「明日にでも食料が止まってもおかしくない」
先日、テレビの討論会に参加した。私は日本の買い負けに危機感をもっているものの、不安を煽(あお)ってはいけないとする立場だ。
海外からの食料輸入が止まるくらいの状況ならエネルギーも枯渇するので、どのみち国内で農業機械も動かせないじゃん。それに、半導体向けのウエハーやフォトレジストが日本から輸出されなくなったら世界中がマヒするよね。世界が日本の遮断を望むか?
すると「半導体はわからない」だってさ。とにかく日本で食料を作れ、と利権を代表する論者が多い。
話は変わるようだが、ウクライナが「トロフィーラボ」を立ち上げた。戦場で鹵獲(ろかく)したロシア兵器を公開し、皆で分析し、結果を共有するプラットフォームだ。
発想がすげえ。サイトは認証制で、対象はウクライナの研究機関やパートナー国の防衛関係者だ。書き起こした設計図、仕様、技術データ、そして部品メーカー名などが共有される。
たとえば自動車産業ではライバル企業のクルマを買い、分解してVA・VE(コスト削減)に活(い)かすティア・ダウンが実施される。その武器版だ。武器はディーラーに行かずとも、飛んでくる。
敵兵器はシンボリックな戦利品から、対抗・開発サイクルを短縮するための研究材料になった。しかも、ロシアは攻撃すればするほど武器が奪われ、分析される確率も高まる。
戦争の犠牲者にはお悔やみを申し上げる。そのうえでいえば、ウクライナはドローンだけでなくミサイルや無線機といった分野の技術力も向上させるはずだ。ロシアも基板にマウントされた半導体チップの表面をレーザー照射するなどしてメーカー名や入手ルートを秘匿しようとしているらしいが、それでもウクライナは回路パターンから明らかにする。
しかし、日本企業にとって困った"事件"も起きた。ロシア製の巡航・弾道ミサイル等のうち9割が日本製の部品を使っていたというのだ。
日本企業は間接的にロシアを支援したことになり、「殺戮(さつりく)の片棒を担いだのか」との批判も上がった。報道もセンセーショナルなトーンだった。
ただ、これは全部品の9割じゃなく、日本製部品1点以上を含む兵器が9割って意味だ。しかも転用された部品の大半は、世界中で民生用として流通している電子部品だ。ロシアはパッチワークのように混ぜて武器を生産しているのだ。なお点数でいうと部品の大半が米国製だが、これは過失というより、米国がそれだけ同分野で強いからにすぎない。
日本製部品を使っていたと騒ぐのは無知。原材料レベルまで遡(さかのぼ)れば、冒頭で挙げたウエハーにフォトレジスト、セラミックコンデンサ、水晶振動子など、「日本製」はあらゆるものに搭載されている。
さらに半導体製造装置をカウントすれば、日本はすべてに関わるのでは。「食料輸入が止まって日本人が餓死する」論者は知らないだろうが、日本は世界と分かちがたくつながっている。
もちろん無策ではダメだ。メーカーが第三国に部品を輸出する際、「軍事目的には使用しない」と簡易的にチェックさせるだけでは入手が容易になる。輸出管理は厳密化されるべきだろう。
根絶はできなくても減らす。出元を絞って、鹵獲品(トロフィー)を分析し、敵を裸にする。兵器が雄弁にロシアを追い込むとは。