オグマナオト
おぐま・なおと
オグマナオトの記事一覧
1977年生まれ。福島県出身。雑誌『週刊プレイボーイ』『野球太郎』『昭和40年男』などにスポーツネタ、野球コラム、人物インタビューを寄稿。テレビ・ラジオのスポーツ番組で構成作家を務める。2022年5月『日本野球はいつも水島新司マンガが予言していた!』(ごま書房新社)を発売。
敗退が決まり、ピッチを去る森保監督。8年間の集大成となった北中米大会はブラジルとの死闘で幕を閉じた
死闘の末、"王国ブラジル"をあと一歩のところまで追い詰めた森保ジャパン。気がつけば、日本代表は世界が認める存在になっていた。森保ジャパン発足から8年。その長い旅路がもたらしたものとは?
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「最高の景色」を目指し、8年間の集大成として北中米W杯に臨んだ森保ジャパン。だが、サッカー王国ブラジルの前に惜敗し、またも決勝トーナメント1回戦の壁を破ることはできなかった。
それでも、今大会での日本の戦いぶりは、海外メディアや各国レジェンドたちからの称賛が相次いだ。
改めて、日本が"ホンモノの強豪国"として世界に認識されるようになった要因はどこにあるのか?
「初戦の3日前にキャプテンの遠藤航(わたる)が緊急離脱したことで、もう一段階ピリッと引き締まりました」
こう語るのは、森保ジャパンを長く追い続け、今大会も現地で取材したスポーツライターのミムラユウスケ氏だ。
「長友佑都も語っていましたが、それまではどこか緩んだ空気もあったようです。仲間からもリスペクトされる存在だった遠藤が抜け、改めて一致団結するきっかけに。
また、こうした緊急時に備えてケガで呼べなかった南野拓実や前回大会キャプテンの吉田麻也をサポートスタッフとして帯同していた森保一監督のマネジメント力も光ります」
初陣となった2018年9月のコスタリカ戦に勝利した森保監督。ここから旅が始まった
危機感を共有できたからこそ、「全員守備、全員攻撃」という日本の強みがより発揮できたというわけだ。
「元スペイン代表チアゴ・アルカンタラも『誰かのために走ることができる』と称賛していました。"献身性"はやはり日本の強み。本来の役割を超えてチームのために動ける選手ばかりだからこそ、主体的にチャンスを生み出せる。
もちろん、他国にも献身的な選手はいますが、日本はそのレベルが一段高い。堂安律も献身性の意義をよく語っていますし、森保監督が強調しなくても自然とそれができる集団になったと言えます」
これまでも「献身性は日本の強み」といわれていたはず。それが今大会でなぜ海外からも称賛されるに至ったのか。
「以前の日本は、そもそも献身性以外のフィジカルやメンタル、経験値で負けていました。でも、今では選手個々が基本スペックを世界で戦えるレベルまで向上できたからこそ、献身性をより武器として際立たせることができた。この点は、日本サッカーの明確な進化と言えます」
森保監督の選手選考が献身性をより強固にした、と語るのは、戦術分析官としてYouTubeで人気を博し、自身もクラブチーム監督を務めるレオ・ザ・フットボール(以下、レオザ)氏だ。
「森保監督は献身性がベースにある選手を選び、それが欠ける選手はかたくなに呼ばない。だから、"頑張るチーム"が"もっと頑張れるチーム"になったと言えます」
オランダ戦で同点ゴールを突き刺した中村。世界の強豪相手に臆することなく牙をむいた
象徴的な選手に、WB(ウィンドバック)で攻守に奮闘した堂安と中村敬斗を挙げる。
「攻撃的な両WBがSB(サイドバック)的な守備もできるのは日本の特殊性です。ブラジル代表でいえば、エースFWのヴィニシウス・ジュニオールをWBで起用するようなもの。森保監督の場合、たとえヴィニシウスでも、そのポジションで守備をしなければ外す決断ができる。そこまで一貫したコンセプトで選手を選んでいます」
アディショナルタイムに逆転を許し、ピッチに横たわる上田。死闘を制することはできなかった
ほかのポジションに目を向ければ、レオザ氏は大会前からワントップの上田綺世(あやせ)、ボランチの佐野海舟、GKの鈴木彩艶(ざいおん)という「チームの"背骨"の選手たちが鍵を握る」と語っていた。実際、この3選手が出色の出来だったのは誰もが認めるところだろう。
「この4年間の飛躍という点で象徴的なのはGKの彩艶です。各試合での好セーブも印象的ですが、キックの飛距離と精度の高さも欠かせない要素。彩艶からボールをつなぐこともできるし、一気に陣地を回復することもできる。
2024年のアジア杯でミスを連発しても起用し続けた森保監督の我慢が実った、という点でも特筆すべき存在です」
ブラジル戦で先制ゴールを叩き込んだ佐野(左手前)。ベンチからも選手が駆け寄り、歓喜の輪が広がった
佐野はW杯後のビッグクラブ移籍も噂されている。守備での貢献はもちろん、ブラジル戦の先制ゴールでさらに評価を高めたはずだ。
「佐野の素晴らしさはもちろんですが、鎌田大地も田中碧(あお)も、ボランチで世界最高水準のプレーができる。攻守でハブとなるボランチの質の高さは日本サッカーの強みです」
上田はチュニジア戦で2ゴール1アシストと爆発。ただ、レオザ氏は得点シーン以前のポジショニングに注目する。
チュニジア戦でチーム2点目を決めた上田。500本超のパスをつなぎ、4ゴールを挙げ、完封に抑えた
「これまでの上田はオフサイドライン際で張っていることが多かったものの、今大会では中盤まで下りてくるように。チュニジア戦での伊東純也へのアシストが典型的です。
これまでも瞬間的に下りてくることはありましたが、今大会では意識的に下りるように変化。チーム全体の攻撃にアクセントが加わりました」
その攻撃面で不安視されていたのは、南野と三笘薫の不在。加えて、久保建英(たけふさ)も大会初戦オランダ戦で負傷するなどアクシデントが続いた。そんな状況でも得点を重ねられた要因は?
「興味深いのはシュート決定率。グループステージでは出場48チーム中1位の26%を記録しました。南野、三笘、久保不在でもこの数字を出せた要因はカウンター。しっかり守ってボールを奪い、全員が連動して相手守備が整う前に一気に攻め立てた。日本の成長を語る上で重要なデータと言えます」(ミムラ氏)
8年間の森保体制を振り返れば、ずっと右肩上がりだったわけではない。それでも、世界の強豪国と渡り合えるようになったターニングポイントはどこにあったのか?
「第1次体制では、カタールW杯直前のカナダ戦での敗戦。あれで危機感を共有できた。その上で、カタールW杯初戦ドイツ戦で一方的に攻め込まれながら、前半を0-1で我慢できたのも大きかった。
もし守備が崩壊していたら、後半の逆転劇も、その後のスペイン戦勝利もなかったはず。解任危機とされる試合でいつも勝つように、ここぞの粘り強さは森保監督の勝負運と言えます」(レオザ氏)
前回カタール大会では強豪ドイツ、スペインを撃破。その2試合で同点弾を叩き込むなど堂安が躍動した
ドイツとスペイン相手に勝利できたその経験が何よりも大きな転機となった。
「森保ジャパンの成績を振り返ると、勝率は高くともアジア杯も含めてタイトルを獲(と)ったことがありません。それでも、W杯で優勝経験国のドイツとスペインに勝てたことは何よりの実績。その後の4年間を戦う上でも大きな自信になりました」(レオザ氏)
第2次体制では、W杯優勝経験国のブラジルとイングランドにも勝利。特に、昨年10月の親善試合でブラジルに初勝利を飾った経験は、今回のW杯でも勝利を信じたくなる要因になった。ただ、「ブラジル戦初勝利」に至るまでにはまた別の転機があった、とミムラ氏は振り返る。
「昨年9月のアメリカ遠征では、メキシコ戦が0-0、アメリカ戦が0-2と厳しい結果に。この遠征では試合序盤からハイプレスを仕掛ける狙いがありましたが、選手たちから否定的な声も出たようです。ここで改めて問題意識と危機感を共有できたことが、翌月のブラジル戦での歴史的勝利につながった側面はあると思います」
2024年のアジア杯敗退からW杯最終予選前に攻撃的3バックへとシステム変更した点も転機にはなったのか?
「それもひとつの転機ですね。3バックのほうがビルドアップ時に選手の入れ替わりで自由度が少なくなるため、自分たち自身が混乱せずにプレーしやすい。カタールW杯でも3バックが功を奏しましたが、あのときはつけ焼き刃でしたし、奇襲的意味合いも強かった。自分たちのスタイルを確立した上で今大会に臨めたのは大きかったです」(レオザ氏)
チームとしての変化以外に、森保監督自身にはこの8年間でどんな変化があったのか?
「森保監督の役割が"ヘッドコーチ"から"マネジャー"に変わり、攻守共に細かい部分はコーチに任せるようになった。これが一番の変化であり、進化です」(ミムラ氏)
第1次体制から守備面を見てきた齊藤俊秀コーチと下田崇GKコーチに加え、第2次森保体制スタートに合わせて名波浩コーチと前田遼一コーチが入閣。さらに2025年に長谷部誠コーチ、今年からは中村俊輔コーチも加わった。
「森保監督は『遅刻厳禁』『選手にはこんな振る舞いをしてほしい』といった行動面での哲学は強い半面、『こんなサッカーがしたい』という哲学が強いタイプではありません。だからこそ、コーチに委ねることができる。第2次体制以降、コーチ陣が増えたことで、よりマネジャーの側面が強くなりました」(ミムラ氏)
スウェーデン戦で先制ゴールを奪った前田。堂安、上田との流れるようなコンビネーションから生まれた鮮やかな得点だった
興味深いのは、任せたい役割があって人を選んだのではなく、呼べるコーチに合わせて役割をつくっていった点だ。
「名波コーチは攻撃全体をマネジメントし、セットプレーは前田コーチが担当。そこに、新たに加わった中村コーチがさらに味つけをする。長谷部コーチは守備を再強化する。適材適所とも言えますが、こうした臨機応変さは、サッカーの哲学が強くない森保監督だからこそ、とも言えます」
コーチ陣の重要性については、レオザ氏も同様の意見だ。
「鎌田が、所属するクリスタル・パレスのハイプレス戦術を提案したこともひとつの転機ですが、選手と監督をつなぐ役割として長谷部コーチの存在は大きかったですね。
そして守備が安定したからこそ、シャドーが動き回ったり、前線がポジションチェンジを繰り返したりする名波コーチが目指すサッカーがより機能するようになった。遠回りや紆余曲折はありつつ、最終的には登りたい山の頂上近くまでは来られた、と言えます」
戦術的な部分はコーチに任せて変化を重ねても、選手選考での"森保監督らしさ"にはブレがなかった。
「一時期、起用法に不満をためていた堂安を呼ばないことがありました。そこで見放すのではなく、対話できるのが森保流。当時オランダでプレーしていた堂安の元をわざわざ訪ねたといわれています。
こんなことができる監督はなかなかいません。その堂安が今では誰よりもチームのためにプレーできる選手へと飛躍しました」(レオザ氏)
こうした森保流リーダーシップを、レオザ氏はある戦国武将になぞらえる。
「たとえるなら徳川家康。三方ヶ原の戦いで武田軍に惨敗したことを教訓としたように、アジア杯での失敗を糧にする。徳川四天王という忠臣がいたように、優秀なコーチを周りに配置する。頼りにしたい武将や大名にマメに書状を送っていた家康の姿も、堂安を訪ねた森保監督に重なります」
仮に森保監督がこのまま続投した場合、次のW杯まで指揮を執れば12年の長期政権になる。日本代表の未来のためにはどうあるべきなのか?
「続投はアリだと思います。もちろん、緊急時の修正力など課題はありますが、監督自身がアップデートできなくても周りにアップデートできる人材を置くでしょうし、何かを積み上げていくことが得意な国民性ともマッチしています。何よりも、選手という素材が次々育っていくのが日本の強みですから」(レオザ氏)
ミムラ氏は、今大会で本気のブラジルと戦えたことを次に生かしてほしい、と語る。
「決勝トーナメントで、優勝経験国と真剣勝負ができたのは今回が初めて。しかも、会場のほとんどがブラジルを応援する環境で戦えた。次こそトーナメントを勝ち上がる上で、この経験を生かしてほしいです」
世界の一流国相手に"互角に戦える"ことは示した。次は勝ち続けてより上の景色を見るために......。日本代表のさらなる進化を期待したい。