"秘書目線"で見る高市「中傷動画騒動」の深層「善悪の概念が世の中と違うんですよ」

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参議院予算委員会で、自民党総裁選での「中傷動画騒動」報道について答弁する高市首相参議院予算委員会で、自民党総裁選での「中傷動画騒動」報道について答弁する高市首相

サナエトークン騒動に中傷動画騒動。高市首相を巡る疑惑の中心と目されるのが「秘書」の存在だ。いったいどんな仕事なのか? 勝手に問題を起こしているのか、それとも"親分"の指示に従っただけなのか? 知られざるそのリアルに迫る!

【運転から選挙対策まで秘書のリアルな実態】

「週刊誌の記事を信じるか、秘書を信じるかというと、私は秘書を信じます」

4月末の『週刊文春』の報道に端を発した「中傷動画騒動」を巡って高市早苗首相はこう述べた。昨年秋の自民党総裁選において、高市陣営が対抗馬の小泉進次郎議員や林芳正議員を中傷する動画を作成したのではないかと疑われており、特に高市首相の秘書の動きについて国会で議論が紛糾している。

「サナエトークン騒動」に続き、何かと話題に上る「秘書」という言葉。果たして国会議員の秘書とはどのような存在なのか。その実態について、環境大臣時代の小池百合子氏(現東京都知事)の下で秘書を務めた経験を持つ小倉健一氏はこのように語る。

「秘書の仕事といえば、運転や事務所に来られた方にコーヒーを出して雑談することから、選挙の作戦を練ることまで、いろいろなことが含まれます。ただ、ひと口に秘書と言っても、その役割にはいくつか種類があります。

まずひとつは電話番などを担当する、いわゆる『ロジ』を行なう秘書で、要するに政治家の動線を管理する仕事です。議員がこの人と会って、次にこの人に会う。だからここのレストランを予約しなきゃ、というようなことを管理するわけです。

また、自分の先生をどう出世させるかをバックで考えているような秘書もいますし、期数の若い政治家さんのケースでは、『選挙でどう勝つか』を考えるための秘書もいます。

大物になってくるとこういったことの比重は下がって、国会に重きを置くようになりますが、政治家にとって最初のうちは選挙に勝てるようにすることがすごく重要なんです」

秘書の仕事のうち、特に問題になりやすい金銭の管理についてはどうか。

「議員にもよりますが、お金の管理も秘書が全部やっているパターンもあります。政治家にはお金が大好きな人もいますが、全然関心がない人もいます。ただ、政治家も秘書も、そもそもお金の管理が苦手な人が集まっていることが多いと思います(笑)」

また、秘書という仕事を志す人のタイプについては次のように言えるという。

「3タイプあると思います。まずは最終的に政治家になりたいという人。ふたつ目は秘書の道を究めたい、自分は全然人前に出たくないというタイプ。3つ目は取りあえず仕事が欲しい、食っていけないから助けてくれ、みたいなタイプ(笑)。でもやっぱり、いずれ自分が選挙に出るためという人が多い気がします」

【善悪の区別が崩れる永田町の論理】

秘書が特殊なのはその職務内容だけではない。永田町独特の論理にのみ込まれていく職業でもある。小倉氏は秘書という仕事の核心についてこのように指摘する。

「政治家の秘書にとっては、基本的に善悪の概念が世の中と違うんですよ。長年秘書をやっていると『善悪なんて関係ないんだ』と思い始める瞬間があります。

例えば、実際にある政治家Aは選挙で現金を配ったという理由で捕まったんですが、実は別の政治家Bもほとんど同じことをやったことはみんなわかっているわけです。でもAさんだけ捕まって、Bさんは今でものうのうと『増税だ! 増税だ!』と言っているんですよね。

結局その違いは何かというと、検察が裁量で適当なことをやっているだけなんです。こういうことを間近で見ていると、何が正しくて何が悪いのかがわからなくなってきます」

秘書と政治家の間に生まれる、ある種の絆が善悪の区別を見失わせることもある。

「加えて〝親分〟への忠誠心というのもあります。どこの事務所でも親分を選挙に勝たせたい、総理大臣にさせたいという思いは日々強くなってくるものですから。そうなると、『法律さえ守っていれば何をしてもいい』と思うし、そのうち『法律なんてどうでもいい、ばれなきゃいいだろう』というふうになっていきます」

政界独特のやり方に触れ続け、政治家への忠誠心を燃やすことで秘書の振る舞いがエスカレートしていくのだ。だが、秘書が暴走してしまうのにはほかにも理由がある。

「秘書の世界は基本的に〝はめ合い〟なんです。お互いに嘘をついて、だまし合う。例えば、自分の派閥から総裁選に立候補者を出そうとすると、別の派閥内の秘書のドンから電話がかかってきて、『あと1日だけ立候補を待ってくれればこちらの派閥の票をまとめられそうだ』なんて言うわけですけど、実際には1日たつと、そっちの派閥から先に候補を出してこちらが出にくいようにしてくる。

こういった策略は政治家と秘書の〝阿吽の呼吸〟というか、はっきり言って秘書が勝手にやっている場合が多い。それくらいの信頼関係がないとそもそもやっていけないんです」

【「秘書が勝手にやる」ことは十分にありえる】

 政治家と強固な信頼関係を築き、時には政治的に対立する勢力とぎりぎりのだまし合いまで行なう秘書たち。このような〝秘書目線〟に立つと、今回の中傷動画騒動はどのように見えてくるのか。

「総裁選当時がどういう状況だったかというと、投開票の数日前に『小泉陣営がニコニコ動画でステマしている』という報道が出て、小泉さんが謝罪するということがありました。

この件について秘書目線で考えると、『報道された部分は謝っているけど、ほかにもまだまだやってるんじゃないか』としか思わないわけです。秘書なんていう職業の人は、そもそも誰も信用していないわけなので(笑)。高市陣営も、『こっちもやらなきゃやられちゃう』と考えた可能性はあります。

そんなふうに考えれば、今回の件はお互いにやり合ってエスカレートしていったのだとみることもできます」

昨年秋の自民党総裁選で牧島かれん元デジタル相(左)の事務所が、ニコニコ動画に小泉防衛相(右)を称賛するコメントを投稿するよう陣営関係者や支持者に要請していた「ステマ問題」。小泉氏は報道の内容を認め謝罪した昨年秋の自民党総裁選で牧島かれん元デジタル相(左)の事務所が、ニコニコ動画に小泉防衛相(右)を称賛するコメントを投稿するよう陣営関係者や支持者に要請していた「ステマ問題」。小泉氏は報道の内容を認め謝罪した

だが、当然ながら今回の騒動のように水面下の策略が明るみに出ると、政治家本人にも追及が飛び火してしまう。

「自分たちに批判の矢が向けられることになった高市陣営は当然、『これはやばい』となるわけで、関係者全員で集まって弁護士も含めて対策しているはずです。ところが、肝心の高市首相の発言が二転三転してしまっています。

ここでもまた秘書目線で考えてみると、秘書が独断でやってしまっていた、そして本当のことを報告していなかった、というふたつの間違いが起きているんじゃないかと思います。

永田町の秘書ってとてもさめていて、善悪のことよりも、どうやったらメディアの報道が一番小さく収まるかしか考えないんです、本来であれば。そのためには、わかっている話は一回で全部発表したほうがいいんですね。ところが実際にはそうなっていないところを見ると、高市さんの秘書は総理大臣の秘書としては一流ではないとも言えます」

しかし、ここまで大きな騒動となるような動きを政治家に無断で行ない、その後も何も報告しないということが現実にありえるのだろうか。

「『対抗陣営が何か仕掛けてきたから、政治家には何も言わずにやる』ということがありえるのは十分理解できます。何か伝えてしまうとボスが共犯になってしまいますから。陰で秘書がやっていることを知らないほうが、政治家は自信満々でいてくれるということもあるかもしれません」

【秘書の厳しい現実と「政治とカネ」の未来】

近年「政治とカネ」について透明性の確保を目指す流れが強まる中、「秘書とカネ」についてはこのように語る。

「秘書と呼ばれていても、まともな給料が出ていない人も多いです。公設秘書ならちゃんともらえますが、一方で出ていくお金も半端ない。そして特に最近は、政治資金報告書などでお金の動きが全部ガラス張りになってしまっているので、何か必要なことがあっても『自腹を切るのが一番いいよね』となってしまう状況もあります。

給料も安いし朝も早く、ブラック企業の最たるものなわけで、入れ替わりも激しくてみんな辞めちゃいます。ただ、ブラックであればあるほど、ある種の中毒性も生まれてきます。みんなで声を出して、『いつかこの人を総理にするんだ!』などのモチベーションを見つけて、自分のやっていることを正当化しないとやっていけない世界なんです」

次々と形を変えて現れてくる、"怪しいカネ"のやりとり次々と形を変えて現れてくる、"怪しいカネ"のやりとり

一方で、環境が変わっても変わらないように思えることもあるという。

「でも、政治とお金については、時代が変わっても根本的には変わらないような気もします。昔、ある事務所の大物秘書さんが業者にお金を渡されそうになったときに、『ダメだよ! 絶対ダメ! 絶対持って帰れ!!』と叫びながらお金をポケットに入れる場面を見たんです。そうすれば万が一録音されていてもバレないかもしれませんから(笑)。

今はスマートウオッチとかスマホとか、いくらでも便利な録音方法が出てきたわけですけど、ツールが進化してもそれをくぐり抜けてお金を渡す方法もいくらでも発明されます。

有権者は腐敗が起きるべきじゃないと思っているし、もちろんそれは正しいんですが、同時に秘書的なさめた視点だと、『そりゃ、お金の変な動きなんてあるよ』と思ってしまうんです」

謎に包まれた秘書という職業。世間の常識とかけ離れた、秘書目線の世界が垣間見えた。

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