奥窪優木
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フリーライター。1980年生まれ、愛媛県出身。上智大学経済学部卒業。ニューヨーク市立大学中退。著書に『ルポ 新型コロナ詐欺 経済対策200兆円に巣食う正体』(扶桑社新書)、『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)など。
くら寿司の従業員が「ちいかわ」とのコラボグッズを横領してメルカリに出品し、ファンからの批判が噴出。同時に、それらの出品を許すプラットフォームへの疑念も高まり、「まるで窃盗品を売りさばく闇市だ」という声も上がった。なぜ、こんな事態になっているのか? システムの穴に迫った!
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「いくら回しても出てこない」
8月末、回転ずしチェーン「くら寿司」で始まった「ちいかわ」とのコラボ企画に、そんな不満が噴出した。店舗での注文数に応じて回せるガシャ式のゲーム「ビッくらポン!」で、景品のキャラクターグッズの当選率があまりにも低いことがSNS上で話題となったのだ。
一方で、問題のグッズが大量に目撃されたのはフリマアプリの「メルカリ」だった。景品のグッズだけではなく、同コラボ第2弾のノベルティ「オリジナル湯呑み」が配布開始予定日を待たずして出品され、実際に取引が成立しているものも少なくなかった。
SNS上の不満は、そんな状況を前に「〝中の人〟が横流ししているのでは?」という疑念へと変わっていった。
そして9月5日、くら寿司は「当社の従業員による不正行為が判明した」と、店舗スタッフによる景品の横領を認め、同コラボの中止を発表した。
くら寿司にはちいかわファンたちの怨嗟の声が当然のごとく向けられたが、それ以上に非難の声が上がったのがフリマアプリのメルカリに対してだ。
Xには「さすが闇市」「平気な顔して手数料取って、自分たちだけ儲けてる」など、結果的に盗品取引の場を提供したことへの批判が相次いだ。
メルカリで盗品取引が取り沙汰されたのは、今回が初めてではない。今年2月、北海道の公立高校の野球部の部室から、野球道具や現金など計約8万円相当が盗まれた事件でも、被害品のグラブがメルカリに出品されていたことが判明(後に容疑者は逮捕)。
また昨年11月にも、神戸市立の特別支援学校に勤務していた30代の男性教諭が、備品の絵本約100冊やプリンター用インク、生徒の教科書などを盗んで一部をメルカリで販売していたことが発覚。懲戒免職処分となっている。
さらに直近では、教え子と共に民家に侵入し、金品を盗もうとしたとして逮捕された20代の都立高校の男性教諭が、盗んだ品物をメルカリに出品するよう教え子らに〝指南〟していたとも報じられている。
何やら〝泥棒業界〟では「盗品を売るならメルカリで」というのが常識となっているようだ。
関西地方に住む倉橋さん(仮名・62歳)は、盗難被害に遭った自身の高級時計がメルカリで売却された経験を持つ。
「約2年前、自宅に空き巣が入り、ロレックスと現金、ブランド品など400万円相当を盗まれました。事件から4ヵ月後、『時計が見つかった』と警察から連絡があり、警察署に出向き確認したところ、確かに私のものでした。
警察によると盗難事件の直後にメルカリに出品されており、タイミングなどから出品者は空き巣の実行犯かその関係者だろうとのこと。その後、購入者が真贋の鑑定を兼ねて中古買い取り店に持ち込んだところ、シリアルナンバーから盗難の被害届が出ていることが判明し、警察に通報があったようです。
ただ、その購入者は盗品と知らずに購入していたことが証明されたため、時計の所有権は彼のものとなり、私に戻ってくることはありませんでした」
しかも、空き巣の実行犯は今なお捕まっていない。
「警察によれば、犯人らが中古買い取り店に時計を持ち込んでいればその場でシリアルナンバーが確認されるため、逮捕につながっただろうとのことでした。しかし多くの窃盗犯はそれを避け、メルカリをはじめとするフリマアプリで売却するそうです。
また、出品に使われていたアカウントは他人名義のもので、名義人の外国人はすでに帰国済みだったそう。警察からも『これ以上の捜査は困難だから諦めたほうがいい』とさじを投げられました」
確かに他人から譲り受けたいわゆる「飛ばしアカウント」さえ用いれば、ノーリスクで盗品売却が可能。メルカリは犯罪者にとっても実に便利なツールと言えそうだ。
現在も、メルカリには盗品を疑われる商品が少なからず出品されている。
複数のアカウントから大量に出品されている、ANA国内線プレミアムクラスなどの機内ヘッドホンもそのひとつだ。これらは「持ち帰り不可」の貸与品であることから、ネット上でも出品者の入手経路について疑惑の目が向けられている。
こうした「盗品の可能性のある商品」の取引に関わると、購入側も罪に問われる可能性がある。加藤・轟木法律事務所の代表弁護士、加藤博太郎氏が解説する。
「盗品であることや、そうである可能性を認識して購入すると、『盗品等有償譲り受け罪』として10年以下の拘禁刑および50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
問題は認識のレベルですが、『市場価格よりも大幅に安い』『非売品であるにもかかわらず売られている』という状況から、『もしかして盗品かも?』と合理的に疑うことのできる場合には、『未必の故意』が成立するとされた判例がある。
これは確定的な故意はなくても、『そうなっても構わない』と思って行なった行為について問われる責任です。
そういう商品をフリマアプリで見かけた場合は、手をつけないのが無難です。購入後に盗品と気づいた際にも、よけいな嫌疑をかけられないよう警察に通報することをオススメします」
そして、取引を仲介するメルカリ側にも刑事的責任が問われる可能性があるという。
「盗品であることや、そうである可能性を認識して取引を斡旋したフリマアプリ側も、『盗品等有償処分あっせん罪』に問われる可能性がある。
例えば、アプリ上で窃盗品が取引されているにもかかわらず、積極的な対応をせずに放置していると見なされれば、責任者には10年以下の拘禁刑および50万円以下の罰金が科される可能性があります」
むろんメルカリも、相次ぐ盗品出品に手をこまねいているわけではない。
筆者自身、過去にメルカリで中古車を約40万円で売却した際、取引終了後、2週間ほどアカウントがロックされる事態に直面した。
その際に連絡を取った窓口の説明によると、不正検知のAIに引っかかり、取引が正当かどうか確認するために時間が必要とのことだった。メルカリも、「怪しい取引」には目を光らせているということだろう。
その一方で、メルカリが導入するとみられる新機能に懐疑的な声も高まっている。商品ページのURLを知っている者のみが閲覧・購入可能な「限定公開機能」に、「不正取引の温床になるのでは」との懸念が高まっているのだ。
衆人監視の公開取引であれば、盗品であることが明らかな商品は出品しにくい。しかし閉鎖的な取引では、そうした抑止も効きにくいだろう。こうした危惧についてメルカリにぶつけてみた。すると、以下のような回答があった。
「限定公開機能は現在一部のお客さまを対象に実証実験を行なっているものであり、正式提供については未定です。
本機能については、不適切な利用を防ぐ観点から、出品者さまの本人確認が完了していること、一定以上の売却実績があること、販売価格が9999円以下であること等の利用条件を設けています」
ただ実際、限定公開と同様の取引はこれまでもフリマアプリで盛んに行なわれてきたという。事情に詳しいフリーライターが話す。
AIによる検閲に引っかからないよう、Xのアカウントが小さく表示されている。Xでやりとりして取引が成立した人に「専用出品」で購入してもらい、運営サイドに商品の中身を悟らせないようにする手法だ
「フリマアプリでは『専用出品』という慣行がある。出品者が『この商品は○○さん専用です』と宣言することで、事実上ほかのユーザーを排除して取引を行なうもので、限定公開機能とほぼ同じです。
もともとは価格交渉がまとまった後に、交渉相手以外に購入されることを防ぐ目的で行なわれていました。ですが最近は、アプリ外のSNSなどでまとまった商談に対して、メルカリのシステムを使って決済と匿名配送を行なう『メルカリ通し』の過程でも使われる。この方法では、商品の内容もはっきりと書かれていないことがほとんどです」
メルカリで「専用出品」と検索したところ、数百円の商品から数百万円の商品まで、数多くの出品例がある。
369万5000円でWi-Fiルーターの購入が成立したと表示されている商品画像。運営サイドから何かしらのチェックは入るとみられるが、このような怪しい商品ページは大量に出回っている
例えば、説明欄に「Wifiルーター」とだけ書かれてある商品は約370万円で実際に取引成立しているのだ。それほど高額なルーターがあるのかも怪しいが、説明がほとんどない状態の商品を質問もなく購入している人物がいるのも不可解だ。
そして、仮に成立した取引の中身が盗品、または何かしら非合法なものだったとしても、誰にも知るすべはないのである。
犯罪に悪用されかねないシステムの穴は、メルカリだけではなく多くのフリマアプリで共通している。しかし、知名度もシェアも抜きんでている存在だけに、メルカリには業界を率先してこの穴を埋めてもらいたいものだ。