死亡事故を招くだんじりの"高速化"が止まらない!?

取材・文/武田和泉 写真/共同通信社

大阪府岸和田市で披露された、だんじりの「やりまわし」。祭りは地域にとって重要な観光資源でもある大阪府岸和田市で披露された、だんじりの「やりまわし」。祭りは地域にとって重要な観光資源でもある

大阪南部・泉州地域の秋の風物詩であるだんじり祭りで、死亡事故が続発した。SNSでは打ち切りを叫ぶ声も上がっている。

一方で、祭りは町ごとの結びつきの中で受け継がれ、地域を牽引する文化。灯を消せば共同体そのものが痩せ細りかねない。勇壮に疾走するだんじりにつきまとう課題を追った。

【1日に2件の死亡事故】

10月10日、だんじり祭りの見せ場である「やりまわし」で悲劇が立て続けに起きた。大阪府泉佐野市で午前11時頃、だんじりが交差点を直角に右折した際に右に横転。側面に乗ってバランスを取る「たかり」を務めていた同市の会社役員の男性(51歳)が下敷きになり死亡、10代から50代の男性7人が重軽傷を負った。

同府の泉大津市でも午後1時20分頃、交差点での右折時にだんじりが横転。たかり役だった和泉(いずみ)市の会社員男性(48歳)がその場で死亡し、男性9人が負傷した。事故の撮影動画はSNSで拡散され、追悼のメッセージを踏み潰す勢いで「危険だからいいかげんやめろ」といった祭りへの批判的な声があふれた。

過去にも死亡事故が起き、関係者が罪に問われたこともあるだんじり祭り。こうした事故はどのように取り扱われるのか? 元神奈川県警刑事の小川泰平氏が語る。

「立件が必要と判断されれば、業務上過失致死傷の容疑で刑事部門が捜査します。ポイントは、安全管理が適切だったかどうか。例えば、主催者がカーブを曲がるときにどのような安全措置を講じていたか。また、事前に危険を予見できていたかなどです」

だが、一般的に祭りのトラブルを警察が積極的に事件化するケースは多くないというのが小川氏の見方だ。

「小競り合いが起きても、相手をケガさせてやろうという犯意があるわけではない。いちいち犯罪として捕まえていたら、日本の祭りが成立しなくなってしまいますよ。法律や条例で縛るのではなく、地域ごとにルールを厳格に設定してもらうのが現実的です」

【「飛び込み歓迎」が招くだんじりの暴走】

では、現場はどのようにだんじり祭りを運営しているのか。大阪の泉州地域でだんじりを曳(ひ)いて育った村本康介さん(仮名・42歳)が語る。

「今は事務方に回っているので、達成感を得られるのは参加者がケガなく無事に終えられたときですね。

だからこそ、安全管理には留意しています。地元の警察とは当日の曳行(えいこう)のスケジュールを協議します。昔は祭りの最中にケンカが起きたりしましたが、今はご法度。そんなことが起きたら、翌年の曳行時間を削られますからね」

一般的なだんじり(地車)の重さは3~4t。これを、200~500人ほどで曳く。車輪に当たる木製のコマは4つで、前方にしか進まない。晴天用と雨天用とで併用され、1回の祭りで3、4回交換する。細かい仕様は町ごとの門外不出の〝秘伝〟だ。

本番の1~2週間前には「試験曳き」を行なう。今年はスピードがどのぐらい出るか、路面にくぼみなどがないかなどを確認して本番に臨む。

村本さんが懸念するのが、少子高齢化による曳き手の減少と、これを解決しようとして誘発される事故だ。

「うちの町は住民以外の参加を認めていないのもあって、30年前のだんじりの動画を見ると、今より参加者が多くて速度が断然に速い。

ですが曳き手が足りなくなった一部の地区は、地域外から応援を募ったりする。曳き方やブレーキのかけ方も含め、だんじりは地域ごとの独自ルールで運営されているのが実情です。

もちろん、地域外の人でも試験曳きに参加した上で本番に出てくれれば問題ないでしょう。危ないのは、飛び込みの当日参加です。曳き手の数が大幅に増えれば試験曳きよりも速度が増して〝高速化〟するし、違った走り方をする。実際にこうして事故になったという話も聞きます。

今回の事故の動画を見ても特別危険な走行には見えませんでしたが、当日に何かイレギュラーなことが起こった可能性は高いです。

そして、ほかの町よりもカッコよく速く曳きたいという思いは、私も含めてだんじり祭りに参加する者はみんな持っているでしょう」

10月10日に死亡事故が起きた泉大津市の横転現場付近。祭りの責任者や警察、行政らが協力して再発防止策を検討する必要がある10月10日に死亡事故が起きた泉大津市の横転現場付近。祭りの責任者や警察、行政らが協力して再発防止策を検討する必要がある

死亡事故が起きても、一部の批判にさらされても変わらぬ〝だんじり魂〟の根底について、こう打ち明ける。

「うちの町では男性は皆、高校に入ると青年団に入り、地域の草刈りや盆踊りの運営、消防団活動、献血などをこなします。それは、だんじりを曳きたいから。だんじり祭りがなくなれば、地域コミュニティは一気に崩れます。

それに今のコマは、異なる木材を組み合わせることで地面との接地面が減って可動性が高まり、ブレーキも利きやすくなっています。だんじりは年々進化しているので、各地域がルールを厳格に設定すれば、安全に祭りを行なうこともできると考えています」

だんじり祭りのような祭礼が続いてきた歴史的な背景について、民俗学者で日本大学非常勤講師の中里亮平氏が解説する。

「祭りの本質は非日常です。日常の秩序が逆転する場だから、過激さや危険、地域によっては暴力も組み込まれた。

実は祭礼における事故は、だんじり祭りに限らずほかの地域でも断続的に起きているといわれています。ただ、祭りでの負傷ではないことにしたり、わざわざ別の地域の病院に運んだりして目立たないようにしているとされます」

背景にあるのは、「ケガと弁当は自分持ち」という全国共通の〝符丁〟だと中里氏は語る。

「当事者としてはケガをするのは恥ずかしいこと。まして、公表されれば祭りや地域に迷惑がかかる。だから伏せてきたし、見逃されてきました。

ただ、今はスマホとSNSの時代。映像が拡散して、昔は見逃されていた部分が世界中に公開されてしまうようになったのです」

その上で、中里氏は事故防止に向けた取り組みを説く。

「見物客のような部外者を巻き込む事故は、さらに大きな批判を招きやすい。安全の心得のようなチラシを配ったり、危険なポイントに立ち入らせない工夫が重要です。

そして責任者を明確にして、万一事故が起きた際には、警察や行政、有識者が加わる会議で再発防止策を論じ合うべきです。実際にかつて事故が発生した祭礼では、そうした取り組みを実践し祭りを存続しています」

曳き手のかけ声とだんじりの轟音(ごうおん)が再び町に響く来年の秋までに、関係者は何を検証し、何を変えるのか。だんじりの適切なブレーキのかけ方が求められる。

  • 武田和泉

    武田和泉

    風俗・飲食業界を得意分野として月刊誌や情報誌に寄稿。座右の銘は「夜の住人は十人十色」。

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