高口康太
たかぐち・こうた
高口康太の記事一覧
1976年生まれ。ジャーナリスト、翻訳家。中国の政治、社会、文化を幅広く取材。独自の切り口から中国や新興国を論じるニュースサイト『KINBRICKS NOW』を運営。著書に『幸福な監視国家・中国』(梶谷懐との共著、NHK出版新書)、『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。
中国・広東省東莞市にあるファーウェイの研究開発拠点。欧州12都市の街並みを再現
大手家電量販店のスマートウオッチコーナーには木村拓哉さんのポップが設置され、巨大な販売エリアを占有するほど好調なファーウェイ製品。海外でもウオッチやイヤホンがバカ売れ中だという。
そんなファーウェイの超絶技術力、スマホやEV、そして半導体開発の現在についてジャーナリストの高口康太さんが解説します!
中国の田舎町にヨーロッパ風のお城がある。そびえ立つ城、石畳の路地、アーチ橋、レトロな電車、『ハリー・ポッター』に出てくるような図書館......まるでテーマパークのようだが、実は通信機器・端末大手のファーウェイ(華為技術)の開発拠点だ。
ディズニーランドならぬファーウェイランドと呼ばれ、「世界の工場」こと、中国広東(カントン)省の東莞(ドンガン)市に立地している。
スマホからラブブ、さらにアダルトグッズなど、どちらかというとローエンドの工場が多い地域の真ん中にメルヘンな城があるのだから違和感が半端ない。
この拠点には創業者・任正非(レン・ジェンフェイ)氏の哲学が反映されている。技術者たるもの浮ついた世事にかまけず、仕事に没頭せよ。時には散策しながらアイデアを深めよと、遊び場のない田舎町に巨大研究施設を造った。......といっても、やはりメルヘンにした理由は謎すぎる。
フランスのパリ市役所をモチーフに建造された巨大な建物
これはハリボテじゃなく、内部は図書館となっている。ちなみに内部のデザインはフランス国立図書館をモチーフとしている
ちなみに遊ぶ場所はないが、喫茶店だけは大量にある。これまた、「一杯のコーヒーから宇宙エネルギーを吸収できる」という任氏の哲学に基づくもの。喫茶店での雑談から新たなアイデアが生まれるという意味らしい。なお、この城に来た出張者には「宇宙エネルギー券」という名称でコーヒー代の補助が出るのだという。
外観はメルヘンでも、ちゃんとした仕事場だ。地下には巨大駐車場があり、車通勤が多い。ファーウェイの自動運転技術で、人間が降りると車は勝手に駐車位置に向かう。
石造りの建物も、ドアが開くと中は最新設備が詰まった研究施設だ。そのひとつ、オーディオラボを見学した。イヤホンなど音響機器の音質や、ノイズキャンセリングのテストが行なわれている。ロボットアームがマネキン人形にイヤホンを装着するというSF的な工程もあった。毎回同じ位置に装着するためにロボットを使っているそうだ。
城の美観のためなのか、機密保持のためなのか、建物には看板が出ていない。ただ、セキュリティランクが高い建物は黄色い窓、最高機密は赤い窓と色分けされているという。そんな説明を聞いていると、メルヘン空間にスパイ映画的な空気が漂い始めた。
研究施設で働くのは技術者ばかり。質問に答えるのもコンパニオンではなく開発者というルールがあるらしい。みんなガチ技術者なので、宣伝はドヘタ、マニアックな技術の話ばかりする。
TDLの約3倍の面積を誇るランド内には電車も運行!!
あるヘルスケア関係の社員に「ファーウェイのスマートウオッチって、ランニング時の接地時間や姿勢まで計測できるのがすごい。以前は靴にセンサーをつけていたのに」と聞くと、「商売上の理由です。本当は靴のセンサーのほうがより精度の高いデータが取れるが、売れないから販売中止になって残念です。研究所の計測にはちゃんと使ってます」と回答。ひたすらマジメだ。
極めつきはショールームのガイドだ。サーバー開発が専門なのか、光学通信の話になると超絶早口が止まらない。
「今は光モジュールでつないでいますが、故障が多い。そこで来年の新型はNPO(近接実装光学)です。NPO! チップのそばに光エンジンを置くことで通信が高速に! 似たような技術にCPO(光電同一パッケージ)がありますよね。
海外では有名ですが、あれは良くない。チップと一体だから壊れたら丸ごとパー。だからファーウェイはNPO! 5500個のNPOで光モジュール4万8000個を置き換え......」
同行の通訳は聞き取りを放棄。私もがんばったが、完全には理解できない。独演会が続いた。
このとんでもない拠点を持つファーウェイはどんな会社だろうか。創業は1987年、マンション起業の小さな会社が世界的な企業へと発展した。その原動力は「根性」と「技術への執着」だ。
『槍林弾雨中成長』(銃弾砲火の下での成長)という、ファーウェイ社員の奮闘を描いた本がある。新人社員のテキストだが、「強盗遭遇記」「蚊の竜巻」「北極圏での堅守」など、入社を後悔しそうな見出しが並ぶ。
先進国は日欧の大手が押さえていたため、しんどい新興国から始めるしかなかった。東日本大震災でもファーウェイ社員たちは現地に飛び込み、通信設備の復旧に当たったという。
そして技術への執着だ。人材を集め、ふんだんに研究開発費を注ぎ込む。2025年の研究開発費は1923億元(約4兆6000億円)。EUの調べでは、アマゾン、アルファベット(グーグル)、メタ、マイクロソフト、アップルに次ぐ世界6位につけている。

そのファーウェイは2019年から米国の制裁を受け、規制対象の技術や部品の購入には米国の許可が必要となった。スマホにはグーグル系アプリを搭載できず、翌年にはTSMC製半導体が購入できなくなった。
売り上げも約3割の減少となったが、そこでも根性と技術への執着が炸裂。制裁直前にため込んだ部品在庫でしのぎながら、逆張りで開発費を積み増し、対抗策を編み出した。そのひとつが伝説の「スペアタイヤ」プロジェクトだ。
輸入できなくなった部品と同じ性能を持つものを自社開発するというもの。制裁前から準備していたとはいえ、数千点ものスペアを開発するクレイジーなプランだ。
そして今、ファーウェイは大復活を遂げている。昨年の売り上げはほぼピーク並みまで回復、今年は過去最高(20年)を更新する勢い。一流人材に湯水のごとくつぎ込みまくった開発費がうなりを上げ、消費者からするとめちゃくちゃ面白い製品を作りまくっている。スマートウオッチなどの腕時計型ウエアラブルではAppleを抜いて今年上半期、出荷台数世界一を記録した。
ファーウェイのスマートウオッチやイヤホンの専用アプリをアンドロイドスマホで使うのは、ちょっと手間がかかる。グーグルプレイストア以外からアプリをダウンロードする一手間が必要だ。だが、その面倒くささを上回る魅力があるから売れている。
例えば、スマートウオッチでは、スポーツ好きに深く刺さる機能がすごい。ゴルフでは世界1万7000のコースマップを収録。自転車では速度やこぐパワーを推定するサイクルコンピューターの代替が可能。スキーではスキー場マップに加え、日本未発売のHUAWEI WATCH GT 7 Proではターンのデータも測定できる。
一般人にはまったく刺さらない機能だが、その競技の愛好家からすると専門機器よりもはるかにお安く購入できると、物欲が刺激されまくる。
スポーツだけではない。私の物欲が激しく刺激されたのがHUAWEI WATCH D2。スマートウオッチの血圧測定は精度が低い光学式か、正確だがひたすらに巨大なカフ型かの2択だったが、WATCH D2は時計レベルのコンパクトさと医療機器認証レベルの精度を両立した。
本体の中に小さなポンプが内蔵され、薄いカフを膨らませる。機械として超高精度という点がグッとくる。海外では次世代機WATCH D3も先日発表された。こちらも期待大だ。
Appleを抜いて腕時計型ウエアラブル市場で爆勝中。血圧測定ができる製品シリーズ3世代目の「HUAWEI WATCH D3」
「HUAWEI WATCH D3」
もうひとつ、ほれ込んでいる製品がクリップ型イヤホンのFreeClip 2である。落っこちない程度に締めつけるが、耳が痛くならないという絶妙な着け心地が素晴らしい。
イヤホンもクリップ型が大ヒット。その独自性は他社を大きく引き離す
日本で発売されない製品にも、変態ガジェットがゴロゴロある。最新のフラッグシップスマホがMate 90シリーズ。搭載の半導体は微細化レベルでは旧世代なのに、「タウ・スケーリング」という神秘の技術で性能を向上、省電力を実現したとの触れ込みだ。
一部海外メディアのテストではアップルやクアルコムには及ばないものの、グーグルの最新スマホチップとほぼ同等の性能を示している。ファーウェイがすごいのか、グーグルが情けないのか。
そして世界の度肝を抜いたのが光学10倍外づけカメラユニット、睿影(ルイイン) Z10だ。外づけ望遠レンズは最近の中国スマホでは流行のオプションだが、このユニットはイメージセンサー内蔵で、画像処理だけをスマホ本体が担当。カメラを外づけするようなものと言ってもいい。
今年10月にはイメージセンサーを搭載したレンズユニットを装着できる「HUAWEI Mate 90 Pro Max コレクター版」発売。スマホ事業でも圧倒的な開発力を誇る
そして、中国でバカ売れしているスマホがPura X Viewだ。iPhone Duo、Galaxy Z Fold8とパスポート型のフォルダブルスマホの発売が続くが、その元祖は2025年発売の同シリーズ初代機である。タブレットと似た縦横比で、ディスプレー全体を使って動画を表示できる。
このパスポート型スマホの最新作では、度肝を抜く新機軸が採用されている。それが「折りたたまない折りたたみスマホ」。訳のわからない説明だが、ウソではない。パスポート携帯を広げたサイズ感で、折りたたみ機能を排除した製品だ。
「でかいスマホはいいけど、折りたたむ必要ないじゃん」という声に対応したところバカ売れし、品切れ続出の人気機種となった。追いかける立場のアップルも、来年には折りたためないiPhone Duoを出しているかもしれない。
パスポート型のフォルダブルスマホはAppleより先行して昨年から発売済み
もうひとつの成長分野が自動車である。ファーウェイは自動運転やスマートコックピットなどのシステムを自動車メーカーに提供するサプライヤーだが、自社ショップでの展示販売というセールスサポートも行なっている。めちゃくちゃ目立つ黒子である。
トヨタまで採用するなど、今や多くのメーカーがファーウェイと手を組むが、最初から歓迎されていたわけではない。
中国国有自動車メーカー・上海汽車の陳虹董事長(チェンホンとうじちょう)は2021年、「ファーウェイと組めば魂を持っていかれる」と提携を拒否した。
中国内の大手自動車メーカーと提携し、車体製造は自動車屋にお任せ。ファーウェイは自動車用の半導体と自動運転などのソフト面を担当。EV部門は中国内だけでなく海外市場も狙うが、これがバズりすぎるとまた米国からの制裁も!?
提携企業が広がらない中、ファーウェイは実力のない中堅メーカーと手を組み、その製品をバカ売れさせる。電源管理は携帯電話基地局で培った技術、運転席周りのディスプレーや音声操作はスマホ由来、自動運転に必要な通信技術はファーウェイのおはこ......と、別分野で培ってきた技術が車に結集した。
というわけで、自動車メーカーは魂を取られても仕方がない、とファーウェイと組むようになり、続々と提携先が決まった。あの上海汽車もファーウェイと新ブランド「尚界(シャンジェ)」を立ち上げている。
復活のファーウェイ、ねじの外れた技術屋たちがともかく面白い。