ひろゆき、生物学者・小林武彦と考える「命」について⑩「DNAの修復能力を高めれば、寿命が延びるって本当?」【この件について】

構成/杉原光徳(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

「DNAの修復に関わる酵素は100種類くらいある。ひとつはもう見つけています」と語る小林武彦氏「DNAの修復に関わる酵素は100種類くらいある。ひとつはもう見つけています」と語る小林武彦氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。生物学者の小林武彦先生との対談の10回目です。老化を止めたり遅らせたりするには、DNAの修復能力を高めることが重要らしいです。では、実際はどんなことをしているのか。その最前線の研究内容を教えてもらいました。

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ひろゆき(以下、ひろ) 前回はDNAの修復能力を上げたらマウスの寿命が延びたという話でしたが、DNAの修復能力と寿命って、どう関係しているんですか?

小林武彦(以下、小林) 生き物によって寿命は違います。例えばマウスは約2年、人は約80年。この寿命の差はDNAの修復能力と強い関係があるんです。

ひろ 人間はDNAの修復能力が高いということですか?

小林 そうです。ほかの動物でも、修復能力が高いものほど長生きする傾向があります。

ひろ でも、DNAを修復するってどうやるんですか? 生命の設計図であるDNAが壊れてしまうと、正解がわからないですよね?

小林 DNAは2本の鎖が対になっているので、片方が傷ついてももう片方を見本にして直せます。

ひろ バックアップが一個残っているってことですね。

小林 そうです。そこで、長生きする生き物が持っているDNA修復に関わる遺伝子を、寿命の短いマウスに入れた実験があります。

ひろ それで本当に寿命が延びたんですか?

小林 マウスでは2割ほど寿命が延びました。

ひろ 2割は大きいですね。人間で考えたら、80年が96年になるわけですから。

小林 ただ、そこで別の問題が出てきたんです。DNAの修復能力を高めても、今度は別のところが限界になる。

ひろ ほかの部分がダメになって寿命が延びないと?

小林 そういうことです。車もエンジンを頑丈にしても、電気系統が先に壊れれば止まってしまいますよね。同じように、これまで目立たなかった部分が今度は寿命を決める要素になる。中でも重要なのが「幹細胞」でした。幹細胞は新しい細胞を作るための元になる細胞です。その幹細胞のDNAが傷めば、そこから作られる細胞にも大きな影響が出ます。

ひろ 元データが壊れていたら、新品を作ってもダメですもんね。

小林 だから幹細胞のDNAを、なるべくきれいな状態で保つことが重要になります。

ひろ じゃあ、その幹細胞の修復能力を高める遺伝子を見つければいいわけですね。

小林 そうです。そこで今やっているのが絞り込みです。DNAの修復に関わる酵素は100種類くらいあるんです。

ひろ でも、その100種類全部調べるのは大変ですよね。

小林 そこで、長生きする生き物と寿命が短い生き物の修復遺伝子を比べるんです。すると、長生きするほうで強く働いているものが見えてくる。

ひろ そこから寿命に効いていそうなものだけ当たりをつける?

小林 そうです。今は候補を絞っていて、ひとつはもう見つけています。最終的には重要なものを4つくらいまで絞り込みたい。

ひろ なんで4つなんですか?

小林 ノーベル賞を受賞した山中伸弥さんは、4つの遺伝子を体細胞に入れてiPS細胞を作ることに成功しました。その4つは「山中4因子」と呼ばれているので、私もDNA修復で重要なものを4つほど見つけて、「寿命延長4因子」にできたらいいなと。

ひろ 名前から先に決めるんですか(笑)。でも、それが4つそろったら、人間にも応用できるんですか?

小林 そこが難しいんです。人間はマウスのように遺伝子を簡単に操作するわけにはいきません。なので、現実的なのはもともと人間が持つ修復酵素の働きを薬で強める方法です。

ひろ 設計図を書き換えるのではなく、修理屋さんを元気にすると。

小林 しかも、これはAIと相性がいい。タンパク質の構造をAIに解析させると、どこを刺激すれば働きが強くなるかを予測できるんです。昔より薬の候補をかなり絞り込めるようになりました。

ひろ なるほど。でも、ここまでの話って「これ以上、体を老けさせないこと」ですよね。一方で、「すでに老けた体を若返らせること」の研究はどうなんですか? 若い人の血を入れると若返る、みたいな話もありますよね。

小林 マウスではあります。若いマウスと年を取ったマウスの血液を循環させると、年を取った側に若返りのような変化が見られる。ですから、人間でも若い人の血漿(けっしょう)や幹細胞を使えないかという話が出ています。例えば子供が生まれたときの臍帯血(さいたいけつ、へその緒や胎盤の血液)を保存するビジネスもあります。

ひろ そこには若い幹細胞が含まれているのですね。

小林 そうです。しかも拒絶反応が少ない可能性があります。ただ「本当に若返るのか」「安全なのか」「効果がどれくらい続くのか」はわかりません。実際に何年もやっている人がいるのに、明らかに若返ったというデータが出ているわけではありませんから。

ひろ やった人はみんな若返っているというほどではないんですね。

小林 少なくとも科学的に確立した若返り治療ではありません。

ひろ 豚の臓器を人間に移植する研究もありますけど、若返るのが難しいなら体のパーツを新品に交換するほうが早くないですか?

小林 それも研究されていますが、豚の臓器も老化します。仮に豚の臓器を老化させない仕組みがあるのならば、それを人間に使ったほうが早いという話にもなる。

ひろ そう聞くと、iPS細胞で自分の臓器を作るほうが早そうにも思えますけど......。

小林 iPS細胞も期待されていますが、細胞を扱う研究はコンピューターのように速く進まないんですよ。当初は「自分の細胞から臓器を作れる」と期待されましたが、実際はまだ一部の移植研究が進んでいるという段階です。

ひろ それこそ、AIやロボットなどで実験を自動化して、一気に加速させられないんですか?

小林 やってはいます。日本にも「まほろ」という実験作業を自動化するヒト型ロボットもある。ただ、生き物が相手だと状態を見極めながら進めないといけないし、やり方もいろいろと変わったりする。実験方法がどんどん新しくなりますからね。

ひろ なるほど。

小林 ただ、老化研究には今、ものすごくお金が集まっていて、研究の速度は上がっています。アメリカでは、巨大企業がこの分野で有名な研究者をどんどん集めています。

ひろ 成長産業なんですね。

小林 だから進み方は地道でも、この先どんどん新しい研究や実験方法が出てくると思います。

ひろ その中でも一番現実的なのは、やっぱりDNAの修復力を上げることなんですか?

小林 私はそう考えています。ただ、人に使えるようになるにはまだまだ時間がかかる。それでも、将来的には薬を飲むだけで修復能力を上げられるものができると思っています。

ひろ でも、それが10年、20年先だと待てない人もいますよね?

小林 そうですね。実は薬を待たなくても、老化に対してできることはいろいろあるんですよ。

ひろ それはちょっと気になりますね。次回以降で教えてください。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など 

■小林武彦(Takehiko KOBAYASHI) 
東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある

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  • 小林武彦

    小林武彦

    こばやし・たけひこ

    東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある

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