沖縄は基地を笑えるか? 抗わず、迎合しない「お笑い米軍基地」の挑戦【第1回】

取材・文・写真/中村計


「お笑い米軍基地」。毎年夏に行われる公演がチケット完売を重ねるコント集団を知らない沖縄県民は、恐らく少数派だろう。他方、県外でその存在を知る者は驚くほど少ない。だが、独特のお笑い文化を築き上げた沖縄にあっても、戦争を、基地をネタに県民の喝采を攫う彼らは異色の存在だ。

2026年夏、去る3月に辺野古沖で起きたあまりに不幸な転覆事故を経て、沖縄県民と米軍基地は間違いなく揺れていた。お笑い米軍基地はこの夏、どんな答えを出したのか。沖縄の笑いを追うライター、中村計が3回にわたってリポートする。

20XX年、沖縄の夜のネオン街――。2人の客引きが若いサラリーマンらしき男を奪い合っている。

「お兄さん。うちは60分で5000円です。安いでしょう。どうすか?」
「うちは生ビール一杯、サービスしますよ」
「うちは女の子2名、つけます。保証します。どうすか?」

男は新たなサービス内容を持ちかけられるたびに、そちらの方へ気持ちが傾き、なかなか決め切れずにいる。最終的に男の気を引いたのは、こんな口説き文句だった。

「うちは平和学習、つけます」

男の目がにわかに輝く。

「えっ! 平和学習? 飲み屋で平和学習ついてくるんですか。でーじ(すごく)、気になる!」

男の気持ちは固まった。嬉々とした様子で客引きについて店内に入っていくと、2人の老人が出迎えてくれる。沖縄戦を体験した「おじー」と「おばー」だった。

男は最初こそ「せめて女の子にしてくれませんか?」と抵抗を示していたものの、事情を聞くうちに店内に漂う妙な真剣さに取り込まれていく。

時代は変わった。平和を説くことすらも偏った思想かのように見なされ、平和学習と称される活動が疎んじられる世の中になってしまった。そのため、戦争体験者たちは地下に潜伏し、そうしてこっそりと活動を続けていたのだ。

――という設定のコントである。


沖縄に「お笑い米軍基地」という舞台がある。毎年、6月になると、米軍基地や戦争関連の時事ネタなどを素材にしたタイムリーなコントを新たにつくり、県内3か所で新作公演ツアーとして披露している。

沖縄のお笑い系のライブで事前に前売り券がはけることはほとんどない。県民性でもあるのだろう、そもそも沖縄では前売り券を買うという文化が根付いていない。ところが、お笑い米軍基地は、会場のキャパにもよるが、ほとんどの会場で前売り券が完売するほど人気ぶりなのだ。もはや、沖縄の夏の風物詩と言ってもいいかもしれない。

同コント集団の企画・脚本・演出を担当しているのが「まーちゃん」こと、小波津正光(こはつ・まさみつ)である。芸歴33年になる、沖縄に根を張る芸人だ。

小波津の口癖は「芸人は職業ではなく生き様」。その言葉を体現したかのような業の強さを感じさせる人物である。

沖縄は「芸人の島」だ。お笑い系の大きな事務所が3つあり、それらの事務所が雑妙な均衡状態を保っている。小波津が所属するFEC、スリムクラブを輩出したオリジン、そしてお笑い界の巨大体帝国、吉本興業だ。沖縄は吉本が進出し、唯一、制圧できなかった土地であるというのがお笑い界の通説だ。それくらい独特なお笑いが息づいている島なのだ。
小波津はそんな沖縄においても、異質な存在である。その違いをひと言で表現するなら使命感の有無である。もっと言えば、沖縄県人としての血の濃さだ。

「僕はこういう芸人になりたくてなったんじゃなくて、沖縄に作られたって思ってるから。沖縄のせい。俺がこうなったのは」

「お笑い米軍基地」の企画・脚本・演出を担当する「まーちゃん」こと小波津正光「お笑い米軍基地」の企画・脚本・演出を担当する「まーちゃん」こと小波津正光
2005年に旗揚げされたお笑い米軍基地は過去21年間で、200本以上のコントを作ってきた。

「米軍基地」というワードが入っていると、イコール「基地反対派」ととらえられがちだが、お笑い米軍基地はそんなに単純なステレオタイプに収まる集団ではない。

初期の頃にこんなコントがあった。基地反対行動の内の一つに米軍施設の周りを手を繋いで取り囲む「人の鎖」という運動がある。その鎖がつながりそうでつながらない状況で、ドタバタ喜劇が繰り広げられるわけだが、最後、ようやくつながったところで、1人が帰ると言い出す。その理由を聞くと「嘉手納カーニバル」に行くからだと言うのだ。そこで大爆笑が起きる。

小波津が語る。

「沖縄の人たちって、矛盾だらけなんです。基地反対といいながら、基地内でやるカーニバルなんかには喜んででかける。本土の人からしたら『どっちなんだ?』と思っちゃう。でも、どっちもウチナーンチュ(沖縄県民)なんです。どっちも本音。俺らのコントは、そんなウチナーンチュを描いてもいる。

だから、沖縄の人たちはお笑い米軍基地を観て、自分たちを笑っているところもあるんです。基地とか戦争って物騒なイメージがありますけど、そこにも理想と現実のギャップがあり、そこに笑いが潜んでいる。人って笑うことで、引いて見ることができるようになるじゃないですか。客観的になれる。お笑い米軍基地の一つの役割もそこにあると思っているんです」

小波津は、そうして現在進行形のニュースを賛成か反対かという二元論で括るのではなく、その間でこぼれ落ちがちな本質を抽出し、笑いに転化してきた。

通販番組で普天間基地が商品として出品されるネタ、電話相談で新基地建設が進む辺野古の海に住んでいるジュゴンに「僕はどこへ行けばいいのでしょうか」と相談されるネタ、あるいは米軍のオスプレイに「僕って嫌われてます?」と悩みをぶつけられるネタ等々。また、近年は強国の独善的な大統領を思わせるキャラクターが頻繁に登場し、舞台をかき回す。その様子は喜劇なのだが、ふと現実はすでにコントを超えてしまったのではとハッとさせられもする。


小波津はときおり「自分には芸がない」とこぼすが、それは芸に対してどこまでも貪欲であることの証でもある。

「世の中で起こったもの、その素材をどう料理するか。それが芸人の腕の見せ所。なのに最近の芸人は、すぐSNSで発信してしまう。わざと過激なことを言ってみたり。刺激、刺激だから。刺激的なことをやればいいんだったら、裸になって、チンコを見せるのと同じじゃないですか。芸って、飲み込んで、咀嚼して、栄養にしてから吐き出すもんだと思うんですよ。でも今は口に入れたと思ったら、すぐ吐き出しちゃう感じ。だから、芸と呼べるものがどんどん減ってきている」

  • 中村計

    中村計

    なかむら・けい

    1973年、千葉県船橋市生まれ。ノンフィクションライター。
    『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』(新潮社)で第18回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』(集英社)で第39回講談社ノンフィクション賞を受賞。
    他に『クワバカ クワガタを愛し過ぎちゃった男たち』(光文社新書)、『笑い神 M-1、その純情と狂気』(文藝春秋)など。
    『言い訳~関東芸人はなぜM-1で勝てないのか~』(集英社新書、ナイツ塙宣之著)では取材・構成を務めた。
    好きな生き物の鳴き声ベスト3はヒグラシ、カジカガエル、アカショウビン。

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