今回の出張のお供の、小林眞理子さんの『ソイ・ストーリー』と『タイのひとびと』という漫画。漫画という日本の誇るサブカルチャーで、アジアの国との連帯を図るというのは素晴らしい試みだと思います。応援しています!
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第169話
バンコクから車でおよそ3時間。タイ・チュラロンコン大学のメンバーたちと、チャシューンサオ県の自然保護地区に向かう。
* * *
【カンボジアラムと神保町の本屋】
――今回の出張の直前に、感染症に関する国際会議が東京・一ツ橋で開催された。私のカンボジアのカウンターパートである、カンボジアパスツール研究所のエリック(165話)がちょうどその会議に参加していて、そこで彼とふた月ぶりに再会した。
その後、彼を私のラボに呼び、彼がお土産で買ってきてくれたカンボジアのラムを囲んでパーティーをした。カンボジア産のコショウが漬け込まれたラムは、コショウのピリッとしたスパイスが効いていて、肉料理ととても合った。
それはラボメンバーたちにも好評で、このボトルは数日ですっかり空になってしまった(送別シーズンだったので、連日ラボパーティーが立て込んでいたということもある)。
(左)カンボジアラムとカンボジアジン。左がラムで右がジン。私は特にラムを気に入り、2度のラボパーティーで空にしてしまった。(右)エリックと私。私の教授室にて。
今回の出張の直前、私のラボでの送別パーティー終盤の一景。私が手にしているは、すっかり空になったカンボジアラムの瓶。
閑話休題。
一ツ橋に向かう途中、神田神保町の本屋に足を運んだ。「内山書店」という、アジアに関する書籍を扱う本屋である。これから「アジアの連帯(158話)」を進めるにあたって、もっとアジア、特に東南アジアのカルチャーを勉強したいと思ったのだ。
そこで、タイ・バンコクの日常を描いた漫画があることを知る。小林眞理子さんの『タイのひとびと』と『ソイ・ストーリー』という漫画である。
シンガポールのホテルのベッドに寝転びながら、あるいはバンコクに向かう機内で、この漫画をつらつらと読んだ。バンコクの空気に浸るにはちょうどいいゆるいテンションの、タイとタイ人に親しみが湧く漫画である。ほっこりするので、興味があればぜひ読んでみていただきたい。
【(さながら)ガールズトリップ】
さて、バンコクでの招待講演(168話)の翌朝。タイ人ポスドクCを含めたチュラロンコン大学チームのメンバーたちと、朝7時に集合する。みんなで1台のバンに乗り込み、日帰りの小旅行に出かける。
――高速道路をひたすら東へ。私が滞在するサームヤーン地区をはじめ、バンコクの都心は東京に比肩する大都会である。しかしそこから1時間も走ると、周囲には何もなくなる。シンガポールはずっとモンスーンの大雨だったので(168話)、ドライブの車窓からは、久しぶりの青空を仰ぐことができた。
その途中にあった定食屋で、みんなで朝食をとる。タイ料理はほとんどハズレがないし、自然と野菜が摂れるのがいい。
(左)道すがらにあった定食屋。数年前の私だったら、正直ちょっとギョッとして、こんな店には入れなかったのではないかと思う。タイを訪れる回数が増えたこと、私以外全員タイ人の旅路だったこと、そしてなにより、小林眞理子さんの漫画を読んでいたこともあって、抵抗感なく食事を楽しむことができた。(右)こんな感じのごはんを食べた。白米にカレーや具材を好きに盛り付けてもらって食べるぶっかけ飯風。ちゃんと旨い。
――と、道中で気づいたのだが、8人の参加メンバーのうち、男性は私とタイ人ポスドクCのふたりだけであった。日本から来た私たちに加えて、道中を共にするのは、私のタイのカウンターパートである、チュラロンコン大学のスパポーン女史と、彼女のラボの5人の女子メンバーたち。
「タイのアカデミア(大学業界)」には女性が多い、ということはこの連載コラムでも触れたことがあるが(12話)、今回もガールズトリップさながらである。
(左)ガールズトリップさながら。タイのカウンターパートであるスパポーン女史の研究チームからは6人が参加した。(右)今回のバンの内装。139話よろしく、今回もゴージャスな内装のバンだった。
道中のバンの中では、およそとりとめもないのであろうガールズトークが延々と繰り広げられていた。そのほとんどがタイ語だったので、何の話をしているのかは私にはさっぱりわからなかったが、途中でひとつだけ、ポスドクCが英語で私に訳してくれた。
それによると、「(私が)藤井風に似ている」というのである。タイでは藤井風が大変な人気であるらしく、この日帰り旅に同行していた女学生たちも、そのたいそうなファンであるらしい。たしかに、小林眞理子さんの『タイのひとびと』にも、藤井風の話題があったと記憶している。
余談だが、私の「似ている」は得てして2パターンあり、どちらも髪型に起因する。調子が良い場合には藤井風になり、斉藤和義になったりもする。一方で、調子が悪かったり、あるいは他意(や悪意)がこもっていたりすると、「タモリ倶楽部」の空耳アワーの安西肇になる。そして言うまでもないが、これまでの経験上、後者の頻度の方が圧倒的に高い。
【チャチューンサオへ】
今回の訪泰(タイは漢字一文字で「泰」)には、ふたつの目的があった。ひとつ目が、この前日にこなした、チュラロンコン大学での招待講演(168話)。
そしてふたつ目が、この日帰り旅行である。この旅の目的地は、バンコクから東に車で3時間ほど、隣のチャチューンサオ(Chachoengsao)県にある自然保護地区である。
そこには、研究目的で訪問した人が滞在するための宿泊施設があった。そしてなんと、そこには以前、秋篠宮殿下が宿泊したことがあるというではないか。
(左)秋篠宮殿下が宿泊したという、宿舎とおぼしき建物。(右)すっかり消えてしまっていたが、飾ってある額縁にはたしかに「秋篠宮文仁」の五文字の筆跡が残っていた。
――さて、車で3時間もかけてやってきたこのチャチューンサオの自然保護地区には、いったいなにがあるのか?
ここには、私のタイのカウンターパートであるスパポーン女史のサーベイランスポイントがあるのだ。つまりここに、私たちが研究対象とする、新型コロナウイルスやSARSコロナウイルスの起源ウイルスの宿主であると考えられている「キクガシラコウモリ」の生息地があることを意味している。
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