はじめまして、漫画家のおぎぬまXと申します!
今回は初回ということで、僕がなぜこんな企画を持たせてもらえることになったのかというご説明あたりから......。
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●ア○ゾンの借りを『週プレ』で返す!
僕は少年期にたまたま手に取った『キン肉マン』の面白さに衝撃を受け、憧れて自分の作品を描くようになってようやく2年前、念願の赤塚賞を受賞、漫画家デビューへの道が拓けました。こんな栄誉に与(あずか)れたのは99.9%くらい『キン肉マン』のおかげだと今でもマジメに思ってます。
どうしても僕は、その恩返しがしたくなり、最初は某通販サイトで全巻再購入し、同サイト上で全巻レビューを果たす計画を立てました。ところが、いざレビュー活動を始める直前、「同じ集英社で仕事をする作家がそんな方法で同社商品の宣伝活動をするのは規約違反では?」との指摘を受け、泣く泣く計画を断念。書きたいことは山ほどあったのに、悔しくて仕方ありませんでした。
するとある日、その話を耳にした『週プレ』さんから「その熱意をウチの誌面で発散しませんか?」とのご提案が! ふたつ返事でOKして実現したのがこのページです! ということでこの連載では当初の僕の思惑どおり、第1巻から最新刊まで順番に全巻レビューを目指していきたいと思ってます。
記念すべき初回は第1巻。後に大名作となった今を知るファンの間では、賛否が大きく分かれるパートではありますが、僕に言わせるとその後40年以上にわたる『キン肉マン』の魂の原点は、すでにこの巻からいくつも見て取れると思うのです。その具体例を、僕がこの巻で選ぶ好きな話ランキングという流れで読み解いていきたいと思います。
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『キン肉マン』第1巻
レビュー投稿者名 おぎぬまX
まず、おぎぬまが選ぶ第1巻の好きな話、第3位は「恐怖のバスジャックの巻」。初期のキン肉マンは基本的にドジだのアホだの言われおどけてばかりなんですが、この連載9話目でいきなり予想外の超シリアスストーリーが描かれます。
なかでも印象的なのは敵のザンギャク星人とキン肉マンが闘う後半シーン、ふたりが対峙してから決着まで一切セリフなし。ひたすら緊張感だけ保って一気に見せていく。しかも幸運が絡んでの勝利がお約束のキン肉マンが、この回は実力のみで完勝。異常ずくめの回で、キン肉マンが初めて見せた異常な強さ。
しかし、まさにここに今やキン肉マンという男に誰もが抱く安心感の原点があると思うんです。本気を出せばめちゃくちゃ強い。読者はここでその事実を知ったから、どんなに追い込まれても逆転を期待してハラハラできる。キン肉マンの強さと臆病さの二面性が確立された、記念すべき一話だったと僕は思ってます。
続いて第2位は「孤独のドジ怪獣の巻」。『キン肉マン』の世界で僕が今も昔も一貫して怖いと思うのは人間ですね(笑)。出てくるのは落ちこぼれ怪獣ナチグロン。でも、人間は彼が弱いとわかった途端、容赦なくイビリ始めて本当にひどい。でもそんなナチグロンに同じ落ちこぼれヒーローのキン肉マンだけは同情し、逆に人間から守ってあげる。
弱い者にはどんな立場の壁も越えて手を差し伸べる。今も続くキン肉マン最大の魅力だと思いますが、芯になるその個性は40年前のここですでに発揮され、以降もずっとブレてない。すごいことですよ。最後の夕日のシーンもきれいで最高です。
●漫画家にとってこれは最高の教科書ですよ
そして第1位は「アメリカからきた男の巻」。このテリーマン初登場回は、史上最高の一話完結ストーリーだと僕は思ってます。まずキン肉マンより先行して怪獣を倒したテリーマンが「それではビジネスといきましょう」と、いきなり金を取り始めるテンポがすごい(笑)。これだけで彼がどんなヤツかわかります。
そこからつながる後半屈指の名シーン、小銭しか払えない子供を蹴飛ばすテリーマンをキン肉マンが即座に無言で殴り倒す。並の漫画なら説教くさいセリフのひとつふたつここであると思うんです。でも、ゆで先生はそうしない。キン肉マンは子供のほうだけ向いて「父さんを助けにいこう、坊や!」。こんなカッコいいヒーローがいますか。そして、その後のテリーマンもひたすら無言。最後に「おれもいくぜ!!」でキン肉マンの救援に向かう背中でおしまいなんて、ギャグ漫画の終わり方じゃない!(笑)。
しかも、こんな重厚なストーリーがわずか15ページ!? これは漫画好きを自称する万人に読んでもらいたい一話ですし、漫画家という自分の立場から言えば、最強の教科書。構成力がずばぬけてます。
以上が僕のベスト3ですが、そのほかにもここで語り尽くせない魅力満載でまさに珠玉の短編読み切り集。だから、僕はあえて言いたいのです。この第1巻を読まずして『キン肉マン』を語るなかれ、いや、漫画そのものを語るなかれと。
漫画って長編シリーズになるほど最初から読むのはおっくうですけど、こと『キン肉マン』に関してはぜひともこの第1巻から読んでいただきたいと、僕は強く推奨したい一冊ですね!
●おぎぬまXのキン肉マン4コマ
こんな見どころにも注目!
あらゆるコミックスを手に取るたびに、僕はカバー袖の著者コメントを読むのが大好きなんですが、この巻のコメントが古今東西のこのスペースでぶっちぎりランキング1位なんじゃないですかね(笑)。変に気取ってない新人らしいストレートさもあるし、夢にあふれてて、これを見るだけでゆでたまご先生の人柄がわかる! しかもすごいのはその後の未来でここに書いた夢が全部叶ってるっていう。時空を超えた奇跡の著者コメントですよね。震えます。
●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を現在も好評連載中。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!
●『キン肉マン』第75巻、好評発売中!!
おぎぬまX先生、初めてのコミックス『謎尾解美の爆裂推理!!』第1巻、好評発売中!!
●8月16日(月)発売『週刊プレイボーイ』35号には、「おぎぬまXのキン肉マンレビュー」の最新コラムを掲載!!