インドネシア・ボゴールにて。すごい色の夕景。インドネシアはなんというか、今まで訪れたことのあるどの国とも違う、不思議な「魔力」のようなものすら感じる場所だった。
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第194話
インドネシア・ボゴールで研究者たちと意見を交わす。コウモリ研究とウイルス研究を結びつける、新たな連携の可能性を探る。
* * *
【ボゴールの研究事情】
ボゴール2日目。私と宮崎大学のSは、また別の打ち合わせに臨んだ。
昨日の私の打ち合わせの相手は「コウモリのプロ」だったが、この日の打ち合わせの相手は「ウイルスのプロ」。
私が訪れたインドネシアの研究機関「BRIN」は、それぞれの部署が独立した縦割りの構造になっているらしい。そのため、「コウモリのプロ」と「ウイルスのプロ」のあいだに接続はなく、それを繋ぐところから始める必要があった。
構図としてはちょうど、「コウモリのプロ」のトンさんと、「ウイルスのプロ」のNIHE(国立衛生疫学研究所)のチームとが協働しているベトナムのそれに似ている(187話)。しかしベトナムでは、NIHEのチームとトンさんの間には、深く長い経験と実績がすでにあった。ベトナムでの私は、その歴史あるつながりにあやかって活動しているにすぎない。
しかしここインドネシアでは、そのような構造を私がいちから作る必要があった。経験上、それを持続的に動かすためには、「立ち上げ」のための打ち合わせだけではダメで、その関係をきちんと「維持」していくための仕組みが必要になってくる。
【ボゴールの飲食事情】
打ち合わせを終えた後、軽い打ち上げも兼ねて、宮崎大学のSとふたりで飲みに出かけてみることにした。
しかし193話でも述べたが、イスラム教の色濃いインドネシアでは、アルコールは基本的に御法度。バーもあることはあったが、人知れず見えないようなところにひっそりとあった。
アルコールを飲める場所は、こんな感じで薄暗く、また外からは入り口がどこかわかりづらい仕組みになっていることが多かった。
それからシメに、麺を食べに行こうということになった。ラーメン屋などもあるにはあったが、おそらく日本人の経営ではないであろう、怪しいものばかり。そんな折、「ボゴールには丸亀製麺がある」という情報を、宮崎大学のSがどこからか仕入れていた。
プノンペン(163話)以来の「東南アジアの丸亀製麺」。しかしインドネシアでは、アルコールが御法度であるせいで、うどんつゆに「みりん」が使われていないらしい。
みりんが使われていないうどんつゆとははたしてどんなものなのか。実地調査も含めて宮崎大学のSとふたりで足を運んだのだが、貧乏舌の私には、日本のうどんとの違いはなかった。
(左)ボゴールの丸亀製麺。かけうどんにかき揚げ、海老フライ。これで900円くらい。普通においしかった。が、インドネシア仕様に、トッピングにはチリが置いてあった。(右)配膳から会計までの列。10分以上待ったが、いったいなににそんなに時間が......?
うどんを食べた後、すこし飲み足りなかった私は、ホテル併設のショッピングモールでインドネシア国産の「ビンタンビール」を買い込み、ホテルの部屋でひとりゆっくりと晩酌を楽しんだ。
インドネシア国産のビール「ビンタンビール」。軽くて薄くて飲みやすい。東南アジアにぴったりのビール。
【「カオス」ふたたび】
翌朝、ホテルをチェックアウトして、Grabでひとり、首都ジャカルタへ向かった。この長いアジアの旅も、これが最後の目的地である。
1年前のマレーシア、コタキナバルの夜の記憶(126話)が色濃く脳裏に刻まれていた私は、旅の締めくくりには、海沿いのビーチのテラス席でビールでも、と思い、空港近くの海沿い、都心から離れた北ジャカルタ地区に宿をとっていた。
しかし、これまで繰り返し書いているように、インドネシアではアルコールへの敷居が高い。ビーチ沿いにビールを出してくれるテラス席などあるはずがないのである。
そして北ジャカルタ地区は、「大都会ジャカルタ」を連想させるような街並みではまったくなかった。肩透かしを食らうも、とりあえずお土産だけは買っておこうと思い、ホテルのフロントで、近くでお土産を買えるところを訊いてみた。
歩いて10分ほどのところにショッピングモールがある、というので、そこまで歩いて向かうことにした。しかし、外は30度を超える熱気。教えてもらった「ショッピングモール」に到着する頃には汗だくだった。
はたして到着したその場所は、私の知る「ショッピングモール」ではなかった。エチオピア・アディスアベバの「メルカト市場」(118話)、あるいは、つい最近訪れたばかりの、バングラデシュ・ダッカ(184話)の喧騒を想起させる「カオス」そのものだった。
(左)ホテルのフロントで教えてもらった、お土産が買える「ショッピングモール」。数日前のダッカを思い出させる喧騒。まさかジャカルタに、こんなカオスな喧騒があるとは......。ジャカルタは大都市ではないのか? (右)これは「ショッピングモール」とは呼ばない。
約2億8000万人の人口を抱えるインドネシアのGDP(国民総生産)は、ASEAN諸国の中でダントツの1位を誇る。2024年のランキングでも世界16位(日本は4位)。
ASEANのトップ集団を走るインドネシア、そしてその首都ジャカルタであるが、そのときの私の眼前に広がっていた景色は、私のイメージからはおよそかけ離れたものだった。
タイやマレーシアを上回るGDPから、インドネシアの首都であるジャカルタは、バンコクやクアラルンプールよりもさらに大きく発展した大都会を想像していた。しかしこれまでのところ、そのような空気を感じることはできていない。「大都会」としてのジャカルタよりもむしろ、193話でも述べたような「混沌に満ちた街」、というのが、ここまでこの街を見てきた私の素直な印象だった。
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