市川紗椰が「大相撲パリ公演」をリポート【後編】「日本人も相撲をそんなに知らない」

パリ公演の会場、アコー・アリーナの外でパリ公演の会場、アコー・アリーナの外で

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「大相撲パリ公演」について語る(後編)。

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先週にお話しした大相撲パリ公演リポートの前編では、会場の様子や、来場していた観客の声を紹介しました。その中でも個人的に一番印象的だったのは、「柔道は世界のスポーツになったけど、相撲はまだ〝日本〟のまま残っている」というフランス人柔道ファンの言葉。実はこの言葉から、ロンドン公演とパリ公演の興味深い違いが見えてくる気がします。

パリに先立って昨年10月に行なわれたロンドン公演の会場は、ロイヤル・アルバート・ホールという伝統的な劇場で、チケットは完売。全体として、本場所をYouTubeやNHKで追い、日本へ観戦旅行までするようなヨーロッパの相撲ファンの祭典、という印象でした。

観客の話題も、「本場所と比べてどうだったか」「誰が優勝するのか」「つり出しが多かった理由」など、競技そのものに関することが中心。つまり、スポーツとして相撲を見ている前提の感想が耳に入ってきました。

しかしパリの観客は、相撲をオペラやバレエに近い感覚で見ていたと思います。だから、「なぜ塩をまくのか」とか、「どうして全員同じ髪型なのか」という会話も交わされていたのかと。ロンドンでは「これは本場所と比べてどうか」が語られ、パリでは「こんな文化がまだ生きているのか」と語られる。同じ海外公演でも、入り口がまったく違うのは興味深かったです。

もちろん、パリにも相撲好きはいました。手書きの決まり手ノートを持ってた人や、宇う良ら関の顔が印刷されたオリジナルTシャツを着た人、ノルマンディーの相撲クラブのグループなど。なぜか、武将風の甲冑(かっちゅう)を着た男性も仲間にいましたけど。

力士の人気順(声援調べ)は、おおむね日本と同じでしたが、ウクライナ出身の安青錦(あおにしき)関と獅司(しし)関への応援は熱かったですね。ストーリー込みで応援する感覚は、世界共通かもしれません。

フランス語の口には気持ちいい四股名も。場内アナウンスで「若隆景(わかたかかげ)〜」と読み上げられるたびに、「wa ka ta ka kaaa geeee」と楽しそうに叫ぶフランス人(特に子供)の数が増え、語呂的にフランス人版「声に出したい日本語」なんだな、と思いました。特に子供たちに人気で、「wa ka ta ka〝ta ka ta ka〟ka ge」と「たかたか」増し増しで歌ってました。

もうひとつ印象的だったこと。パリ公演は巡業なので、トーナメントの前には相撲甚句(力士がアカペラで歌う伝統的な七五調のはやし歌)、大相撲のルールを面白おかしく紹介する初切(しよっきり)、そして、ちびっこ相撲が行なわれました。

ちびっこ相撲は地元の子供たちが力士と相撲を取る、巡業ではおなじみの催し(パリキッズはまわしの下に普通のブカブカのジャージをはいており、日本の少年相撲キッズでは見たことないビジュアルでした)。その写真を日本の友人に送ったところ、「海外公演って、そんな触れ合いイベントまであるんだ!」と驚かれました......。

いや、違う。これは海外仕様ではない。日本の巡業では昔から普通にやっているよー、と。ロンドンとパリの人の相撲観をあれこれ考えてきましたが、案外、日本人も相撲をそんなに知らないんだよね。そう実感した瞬間でした。どすこい。

●市川紗椰 
米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。パリ公演の夜、力士の得意技やプロフィール、個人的な印象を瞬時に組み合わせて役を作るカードゲームを、相撲友達と一緒に手作りした。公式Instagram【@its.sayaichikawa】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!

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