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34歳という若さでニューヨーク市長に就任したゾーラン・マムダニ氏(民主党)。出生地はアフリカのウガンダだ
今年1月に米ニューヨーク市長に就任したゾーラン・マムダニが掲げるのは、民主主義を通して社会主義を実現しようとする政治思想「民主社会主義」だ。土地などの資産を国や自治体が管理し、貧富の差をなるべく小さくする社会を目指す社会主義は、規制をなくし、自由な競争をもとに経済を発展させる資本主義のアンチテーゼと言える。
そんな"アメリカっぽくない市長"は、就任から半年がたった今、ニューヨーカーたちからどのように評価されているのだろうか? アメリカで活動する日本人スタンダップコメディアンが現地で徹底聞き取り!
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今年6月、NBAのニューヨーク・ニックスが1973年以来となる優勝を果たした。53年ぶりの栄冠に、ニューヨークは街中に大量の紙吹雪が舞い、行き交う車がクラクションで祝砲を上げるお祭り騒ぎとなった。そんなニューヨーカーたちの歓喜の中心にいたのは34歳の若き市長、ゾーラン・マムダニだった。
53年ぶりにNBAを制覇したニューヨーク・ニックスの祝勝会の様子。マムダニ市長と同チームのエース、ジェイレン・ブランソン(左)
「ここはオレたちの街だ! そして(優勝したのは)オレたちのチームなんだ!」
祝賀パレードでマイクを握ったマムダニが、そう力強く語りかけると、詰めかけた観衆からは大声援が上がった。
その様子をバーのテレビで見ていたニューヨーク在住30年のエドワードさん(男性、47歳)は、目を細めてこうつぶやいた。
「やつは必ずニューヨークをいい街に戻してくれるはずだ」
今年1月、第112代ニューヨーク市長に就任したゾーラン・マムダニ。就任から約半年がたった今、自身が掲げた公約は達成されたのか。そして実際に市民の暮らしは上向いたのだろうか? 現地ニューヨークでのインタビューをもとに、現時点でのリアルな評価をお届けしたい。
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ゾーラン・マムダニは世界的に著名な政治学者のマフムード・マムダニと、アカデミー賞にもノミネートされた映画監督であるミーラー・ナーイルの長男として91年にアフリカ・ウガンダで生まれた。
7歳の頃ニューヨークに移住し、大学卒業後は低所得者向け住宅相談員として勤務した経験を持つ。2020年にニューヨーク州議会議員として当選を果たすと、SNSを駆使する草の根的な政治運動で若者を中心に人気を博し、ついには市長選に立候補した。
25年の予備選で、大本命と目されていた元ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモを破ったことで全国的な知名度を獲得すると、本選でも勝利を収め、今年1月1日に市長に就任。
史上初の「イスラム教徒」で、初の「インド系」にして初の「ウガンダ生まれ」、そして初の「ミレニアル世代(81年から96年頃に生まれた人々のこと)」という初めて尽くしの市長となった。
今年1月1日、米ニューヨーク市庁舎で就任演説を行なったマムダニ市長。周辺の路上でその中継画面を見つめるニューヨーカーたち
先述の住宅相談員としての経験から、「家賃の高騰でニューヨークにはもはや〝普通の〟人々は住めなくなった」ことを問題視し、とりわけ市内の住宅問題を政策の根幹に据えた。
ほかにも、食料や公共交通、保育など、人々の「暮らし」に関わるトピックに重点を置く姿勢が特徴的だ。
富裕層への増税をはじめ、公共サービスの拡充や、医療や交通、教育への公的投資を積極的に行なうことを目指す姿勢は、「民主社会主義者(Democratic Socialist)」とも呼ばれる。
トランプ米大統領はやはりというべきか、マムダニ市長に批判的で、今年4月には自身のSNSで「マムダニ市長はニューヨークを破壊している」と投稿した
では、マムダニが就任時に具体的に掲げた政策にはいったいどんなものがあるのだろうか。
マムダニの看板政策といえば「家賃凍結」だ。ニューヨークには大家が自由に家賃を引き上げられず、市の委員会が契約更新時の値上げ上限を定める約100万戸の「家賃安定化住宅」が存在し、約200万人が暮らしている。
毎年、市の「家賃ガイドライン委員会」がそれらのアパートの家賃値上げ率を決める仕組みなのだが、近年家賃は上がり続け、厳しい住宅事情が取り沙汰されていた。
ニューヨークの集合住宅。問題視されていた家賃の高騰をマムダニ市長が止めた
そんな中、マムダニは「値上げを凍結(freeze)させる」と選挙中から主張。この「凍結」という表現は大きな話題を呼び、例えばテレビや舞台でも多くのコメディアンらがネタにしてきたが、本人も就任直後、国民的トーク番組『トゥナイト・ショー』にサプライズ出演すると「今日のニューヨークは寒すぎて、家賃のほうから勝手に凍結しちゃったよ」と大寒波とかけたジョークを飛ばした上で、公約実現に自信を見せた。
その言葉どおり、市長就任後すぐに自身の方針に近い市議会議員を登用する人事を行ない、6月には、ついに委員会に家賃凍結を承認させた。
また、市長就任当日の1月1日、マムダニは借家人の権利保護や悪質な大家への取り締まりを担う「市長室・借家人保護局」を再始動させ、アパートの修繕や改善を怠る大家への法的措置を強化。これにより100日間で6000戸以上の住宅の環境が改善されたと市は発表している。
市内を走るバスの改革もマムダニの大きな政策だ。ニューヨーカーにとって重要な交通手段であるバスの高速化と、将来的な無料化をマニフェストに掲げた。
渋滞などの影響で、全米でも平均速度が遅いことで知られるニューヨークのバス事情。「移動時間も生活費の一部だ」と唱えるマムダニは、高速化のために、バス専用レーン拡大を発表。一方で無料化には年間約7億ドル(約1120億円)規模の財源が必要とされ、その実現は中長期の目標へと修正された。
保育の拡充にも力を入れる。ニューヨークでは、保育園の費用が年間約2万ドル(約320万円)に達するところもあり、共働きを諦めざるをえない市民も多い。
「子育ては個人ではなく社会全体で支えるべき」と主張するマムダニは、保育を小学校以降の公共教育と同じインフラに組み入れる計画を実現すべく、州との協力で約12億ドル(約1920億円)規模の予算を確保することに成功した。
その上で、約10万人いる2歳児の保育料を無償にする「2-Kプログラム」を開始したが、今後対象年齢や対象地域を段階的に拡大していくためには、保育士や施設の不足が障壁となりそうだ。
インフレの影響が深刻な「食料問題」にも切り込んだ。卵やパン、牛乳などの生活必需品が値上がりを繰り返し、市民の生活を逼迫させている中、かねて明言していた、市が運営し原価で販売する「直営スーパー」の建設が発表された。27年度中に1号店が開店し、任期中には5つのエリアへ展開する予定だ。
このように、家賃凍結や保育拡充の第1段階など公約をすでに実現していると言えるものもあれば、バス無料化や市営スーパーの全面展開など、具現化に向けて課題を残す政策もある。これらの政策の実現に必要な財源の確保も今後の課題だ。
マムダニ自身は富裕層への増税、高額不動産への課税強化、法人への課税見直しで可能だと主張するが、こうした税制の変更には州政府の協力が必要で、市長の権限だけでは実現できないものも多い。
今年4月、ニューヨークの労働組合「32BJ SEIU」に所属する建築サービスの労働者1万人が賃金の引き上げなどを求めてデモを実施し、マムダニ市長も参加した
さて、こうしたマムダニの半年間の滑り出しにニューヨーカーは何を思うのか。日頃からアメリカで最も政治の議論が繰り広げられるともいわれるバーでは、酒の力も相まって、たとえ初対面でも人々が「本音」で酌み交わす。
ニックスの優勝に沸く6月、ニューヨーク市マンハッタン区の西側にあるエリア「ヘルズ・キッチン」にある、薄暗いアイリッシュパブを訪れた。
カウンターでテレビから流れる優勝パレードの様子を見つめながら、ひとりウイスキーを飲む前出のエドワードさんに話を聞いた。高校卒業後ニューヨークに移住し、現在は配達員をしている彼は、興奮気味に語った。
「ようやくオレたちの市長が誕生したんだ。正直に言ってオバマが大統領になったとき以来のワクワクだな。今までニセモノをたくさん見てきたけど、やつは暮らしを本当に良くしてくれる気がしている」
エドワードさんは、現在の「暮らし」の苦悩を話す。
「俺がニューヨークに越してきた30年前はこんなんじゃなかった。飯も食えたし、酒も安く飲めた。家も安かった。でも、今ニューヨークはめちゃくちゃだ。
50歳近いってのに、働きづめでもひとりじゃ住めなくて、ルームシェア。大学生じゃあるまいし情けねえ。このジェムソン(アイリッシュ・ウイスキー)だって1杯15ドル(約2400円)もする。もっと酔いたいけど酔えやしない」
ちょうどそのとき、ニックスのオーナー、ジェームズ・ドーランのスピーチが始まった。テレビを見ながらエドワードさんはさっきよりも強い口調でまくし立てる。
「見てみろ、こいつを。今やニューヨークはこいつみたいな金持ちのための街でしかない。それにこいつはオレたちのことなんてこれっぽっちも考えちゃいねえ。自分が儲かりゃそれでいいんだ。だから今、〝オレたち〟のマムダニが必要なんだ。やつは必ずニューヨークをいい街に戻してくれるはずだ」
同じバーで飲んでいた大学生のグループにも話を聞いた。
名門ニューヨーク大学に通っているという男女4人組にマムダニのこれまでを尋ねると、最近21歳(アメリカでお酒を飲めるようになる年齢)になったばかりのオーウェンさん(男性)はビールのグラスを持ちながら、こう語った。
「彼の政策には賛成しますね。今、民主党が失いつつある若年層の支持を集めているのもわかる気がする。特に福祉や教育、公共サービスに対する政策には期待が持てます。SNSでの発信もクールですしね。それに実は彼、意外といいラッパーでもあるんですよ」
オーウェンさんとマムダニがラップをする映像をスマホで見ていると、隣でほろ酔い気味のステイシーさん(女性)が話しかけてきた。オーウェンさんの交際相手だそうだ。
「マムダニはとってもホットなの。冗談抜きに世界で一番イケメンの市長だと思う。私も彼が大好きなの」
横に立つオーウェンさんは少し複雑そうな表情を浮かべていた。
「ちょっといいか?」
次の瞬間、どこからともなくやって来たケイシーさん(男性、52歳)が会話に割って入ってきた。市内のマーケティング会社に勤務するという彼は、満杯のコロナビールのボトルを2本抱えながら、「マムダニについて会話しているのが聞こえたからよ、ひとこと言いたくなっちまって」と熱っぽく語り始めた。
「そもそもなんでそんなにどいつもこいつもマムダニを持ち上げるんだ? どう見たって政治の経験が不足してるじゃねえか。それなのにみんな救世主扱いして。実際、あの『社会主義の市長(Socialist Mayor)』のおかげでなんか変わったか?」
この「社会主義の市長」という表現は、マムダニを批判する記事を頻繁に掲載するニューヨーク・ポスト紙などが見出しでよく用いる言葉だ。
「確かに!」
そんな相槌とともにセスさん(男性、年齢・職業不詳)も乱入してきた。
「金持ち連中は確かにクソ野郎だが、この街に税金を落としてく。でもマムダニのせいでみんなニューヨークを出ていくことになるさ。オレの金持ちの友達もみんな『出ていく』って言ってたし。
企業だっていなくなる。そしたら税収が減って、ニューヨークはデトロイトみたいに危険な街になるさ。80年代のヘルズ・キッチンみたいな『地獄(Hell)』に逆戻りさ。それもこれもニューヨーカーがコミュニスト(共産主義者)を選んだばっかりにね」
黙って話を聞いていたオーウェンさんが「彼は共産主義者ではなく、民主社会主義者です」とすかさず反論する。
「なんでもいいさ。キッズは向こうでビールでも飲んでな! ほら、行った行った!」
そう言い放つセスさんの横でうなずきながら笑うケイシーさんのコロナビールのボトルは、いつの間にか両方とも空になっていた。
彼らが散り散りに元の場所に戻っていった後、一連のやりとりを見ていたニューヨーク・メッツの帽子を目深にかぶったアンドリューさん(男性、40歳)が話しかけてきた。
「私は生粋のニューヨーカーを自任しているし、政治的立場でいえばリベラルだが、マムダニはまだ何も実現はしていない。というか何もやりたいようにはやらせてもらえないように見える。
ここはニューヨークだ。世界最大の街だ。世界最大の街をひとりで変えるなんてことを求めるのは酷すぎる。政治ではメッシ(サッカー・アルゼンチン代表)やチャールズ・オークリー(ニックスの元エース)みたいに、ひとりでなんでもやってのけてしまうようなプレーヤーは生まれない。
実際、私たちの暮らしは何も変わってないだろう? それを変える根本的な仕組みもまだ変わってないしな。でも私はそれでもマムダニに期待しているんだ。まだ1年たってない。これからどうなるか、お手並み拝見だな」
そう言うと、ポケットの中から取り出したしわくちゃの「I♡NY」のステッカーをなぜか私にくれた。