独自アンケートで経験者の明暗を徹底深掘り「早期退職」の光と影

取材・文/渡辺ありさ 写真/Adobe Stock アンケート/Freeasy

約8割の人が「後悔していない」一方、再就職の困難さに直面する人も......約8割の人が「後悔していない」一方、再就職の困難さに直面する人も......

40~50代での早期退職の制度が広まり、定年を迎える前に会社を辞める人が増えてきた。経験者は何をメリットだと感じ、何を不満に思っているのか? アンケートと取材から意外な実態が浮かび上がってきた!

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【退職金は減少するも納得感はある結果に】

コストカットや社員の若返りを目的に行なわれる「黒字リストラ」が増加中。これは、企業が最終利益で黒字を計上しているにもかかわらず、リストラや退職者募集によって人員削減を行なうことを指す。最近では、パナソニックHDや三菱電機など好業績を維持する大手企業が数千人規模の早期退職を募り始めた。

今回は、現在50代の早期退職経験者300人にアンケートを実施。会社で働く誰もが今後、人ごとではいられない早期退職の〝光と影〟に迫った。

まず、早期退職に至った経緯について。約4割が「一部の対象者向けに募集があり、自ら応募した(36.7%)」と答える一方で、2割近くが「ほぼ強制的に退職を促された(16.3%)」という。早期退職とは名ばかりの、実質的な整理解雇に遭った人も少なくないようだ。

続いて退職金のリアルを調査。退職時にもらえた金額は「500万円未満(20.3%)」が最も多く、全体の4割が「1000万円未満(41.3%)」という世知辛い結果に。不景気のせいか、全体的に退職金もコストカットされているようだ。この結果を裏づけるように、早期退職後も半数以上の人が「フルタイムで働いている(51.7%)」と回答した。

一方で、早期退職を決断した理由は「退職金に納得した(102人)」が最多と、減少傾向にある退職金に納得している人が多いこともわかった。

現在55歳で、早期退職の募集をかけたメーカーに勤める男性はこう話す。

「うちは完全に経営が傾いていたので、社員全員が『このままじゃマズい』と理解していました。なので、早期退職の募集があったときは何も驚かなかったし、募集条件を見たときも『うちにしてはよく頑張ったな』というのが率直な感想でしたね」

「早期退職したことを後悔していますか?」という質問には、なんと8割以上の人が「後悔していない(まったくしていない:55%/あまりしていない:27.7%)」と回答。「後悔している(少ししている:11.7%/とてもしている:4.3%)」を大きく上回った。

早期退職を後悔していない理由は、「生活に余裕ができ趣味などに時間を使えるようになった」が最も多く、次いで「お金に困らず生活できている」など。悠々自適な生活を送っている人も一定数いることがわかる。

これに対し、早期退職を後悔している側の理由としては、「お金に困っている」「再就職できなかった」という声が多く聞かれ、厳しい現実に直面している人もいる。

では、もし自分が働く会社で早期退職の募集があった場合、決断に向けてどのような準備をしておくべきなのか。早期退職に向けた準備は、約3割の人が「不足していた(あまりしていなかった:58人/ほとんどしていなかった:17人)」と回答し、中でも「税金などお金の知識」「再就職先の見通し」が不十分だったという。

印刷会社に勤める現在58歳の男性は、早期退職後に準備不足を実感したことに後悔の念を漏らす。

「長年同じ会社で働き続けていると、井の中の蛙になります。早期退職する前、自分はよく物を知っていると思い込んでいましたが、それはあくまでも自分の仕事や会社員としての生活にまつわる知識だけ。今の時代は、投資や資産運用などの勉強も不可欠だと思い知らされました」

【再就職先探しで精神が摩耗】

ここからは、56歳のときに早期退職をしたAさんの実体験を紹介。住宅設備や建材の卸と販売事業を手がける会社の営業販売だったAさんは、部長、本部長代理を経験。

役員の一歩手前まで上り詰めたが、副社長による部下へのセクハラ行為を許せず、周囲に不満を漏らしていたところ、本部長代理を外されてしまったという。

「降格後は、社内で新規事業部を立ち上げました。反骨精神で頑張ったものの、なかなかうまくいかず。さらに安価な中国メーカーの台頭により会社全体の数字が落ちていたことも重なり、総務から早期退職を勧められました。当時はまだ新しい制度だったので少し驚きましたが、『ついに来たか』という感覚もありましたね」

勧告から半年間粘ったが、新規事業で成果は出ず、Aさんは早期退職を受け入れることに。退職金は、本来の金額に約1年分の年収が上乗せされた2400万円が提示された。

「子供の学費でかかる予定の800万円と、残っていた家のローンの1600万円。これが退職金で全部賄えるなら、ちょうどいいと思いました。退職後はハローワークに行けばどうにでもなるだろうと考えていたので」

しかし、実際にやってみると再就職活動は思いのほか大変だったようで......。

「ハローワークに行っても50代の人間を雇ってくれる会社は見つかりませんでした。資格があったり、海外で事業を立ち上げるなどの実績がないと難しいようです。結局、昔の取引先から『うちで働いてみないか』と誘いを受けて、再就職することができました」

ハローワークで職業相談の順番待ちをする人たち。50代で再就職先を探すとなると、そう簡単には見つからないのが実情だ(写真/時事通信社)ハローワークで職業相談の順番待ちをする人たち。50代で再就職先を探すとなると、そう簡単には見つからないのが実情だ(写真/時事通信社)

その会社では約3年間、正社員として働いた後に退職。60歳を超えた今は、個人で仕事を受けながら、経理関係の仕事をする妻と共にのんびり生活している。

「自分はずっと仕事人間で、数字に追われる生活をしていました。娘はふたりいましたが、子供のことはずっと妻に任せきりで。本当に苦労をかけたと思います。

今は個人事業主なので仕事量を調節できるし、家族との時間が増えました。私は早期退職して良かったと思いますが、その前後の時期は精神的に苦しいことも多かったので、同じ経験をもう一度しろと言われたら絶対に嫌ですね」

【「沈みゆく船に乗り続ける」決意】

最後に、早期退職をせず、その後も同じ会社で働き続けている人の話も聞いた。大手メディア企業に勤めるBさん(現在51歳)はこう話す。

「メディア業界全体の売り上げが落ちており、弊社の業績も右肩下がり。そこで全社員の2割削減を目標に、数年前から社内で大規模な早期退職募集が始まりました。対象は40代後半の全社員で、条件は規定額の退職金と多少の追加手当。僕もギリギリ対象内で、説明面談を受けました」

Bさんはなぜ、そこで早期退職を選択しなかったのか。

「正直、すごく迷いました。僕が入社した頃は30代で年収1000万円超え、部長クラスで3000万円は当たり前の世界でした。でも業界全体の落ち込みに伴い、給料は激減。想像していた40代とは程遠い収入でした。

それでもありがたいことに、上司から『君は残ったら?』と引き留めてもらえたので、もう少し頑張ってみようかと思ったんです」

一方で、厳しい言葉で退職を突きつけられた人もいるらしい。

「戦力にならないと判断された人には、かなり強めの勧告があったそうです。会議室で怒号が飛び交うような日もありました。面接官だった部長は、自分がお世話になった先輩にも退職を迫らなくてはならないので、板挟みに苦しみ、最後にはうつ病を患ってしまったほどです」

大きな痛みを伴いながらも会社は目標の早期退職人数を達成。一時は黒字に回復したが......。

「業界自体が縮小し続けているので、またすぐ赤字に戻りました。会社を去った彼らのためにも頑張らなくてはと思いつつ、抱える課題の多さにへきえきしています。

そんなこんなで自分も50代に突入し、今からの転職は厳しい。このまま沈みゆく船に乗り続けるしかないと思うと、早期退職したほうが良かったかもしれないと考えてしまいます」

とはいえ、勤務の継続を選んだメリットも大きい。

「自分は勤続年数が長く、それなりの立場もあるので、働きやすい環境であることは間違いない。結局、何が正解かなんてわかりません。何歳になっても模索しながら生き続けるしかないですね」

早期退職で得るものと失うものを把握し、来たるべきときに最善の選択ができるようにしておきたい。

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