沖縄・米海兵隊の暴虐非道のウラにある「米軍内格差」の現実

取材・文/安藤海南男 写真/共同通信社 時事通信社

沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場内に並ぶ輸送機「MV22オスプレイ」。普天間から辺野古への基地移設については、沖縄県知事選挙で大きな争点となった沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場内に並ぶ輸送機「MV22オスプレイ」。普天間から辺野古への基地移設については、沖縄県知事選挙で大きな争点となった

「歴史は繰り返す」。10月3日、沖縄で起きた米兵による強盗殺人事件は、誰もが一度は耳にしたであろうこの言葉を象徴するような悲劇だった。なぜ沖縄は、在日米軍関係者が起こす凶悪事件の舞台であり続けるのか?

神奈川・横須賀基地の米軍兵や司法関係者らに取材して浮かんできたのは、「海兵隊」という軍隊が抱える病理だった。

【繰り返される米兵による凶悪事件】

「お亡くなりになった方に謹んで哀悼の誠(まこと)をささげ、ご遺族に心からお悔やみを申し上げます。このような凶悪事件の発生は極めて遺憾です」

高市早苗首相は10月5日、国会での所信表明演説の冒頭でこう述べた。

高市首相が神妙な面持ちで演説に臨む直前の4日、メディア各社は沖縄県那覇市のホテルで39歳の女性が殺害され、所持品が奪われた事件について大きく報じていた。

沖縄県警が同日、強盗殺人容疑で米海兵隊・普天間基地所属のデビン・ジェイコブ・バラード容疑者(20歳)を緊急逮捕したことが明らかになったのだ。

「3日午前4時20分頃、那覇市若狭(わかさ)のホテルの一室で女性の遺体が発見されて事件が明らかになりました。

ホテル周辺の防犯カメラ映像にバラード容疑者とみられる外国人男性と女性が一緒にいる姿が映っていたこと、ホテルの利用料金の会計に米軍関係者向けのクレジットカードが使われていたことなどから、同容疑者の関与が浮上しました」(地元メディア関係者)

関係者らによると、沖縄県警は事件覚知の直後から那覇署に特別捜査本部を設置し、捜査に着手した。

そして、女性の遺体発見から24時間もたたない3日午後11時半、県警の捜査員が沖縄市の歓楽街「ゲート通り」付近にいたバラード容疑者を発見。女性を殺害した上で所持品を奪ったとする強盗殺人容疑での緊急逮捕に至ったという。

米海兵隊員によって繰り返される女性を狙った凶悪事件に、首相官邸前では抗議集会が開かれた米海兵隊員によって繰り返される女性を狙った凶悪事件に、首相官邸前では抗議集会が開かれた

言うまでもなく、沖縄では今回の事件に限らず、米兵やその関係者による凶悪事件が繰り返されてきた。1995年9月、米兵3人が本島中部の金武町(きんちょう)で12歳の少女を拉致し、性的暴行を加えた少女乱暴事件。

さらに2016年4月、米軍を除隊後に在沖米軍基地で勤務していた軍属の男(32歳・当時)が、うるま市でウオーキング中の20歳の女性を襲い殺害した事件など、枚挙にいとまがない。

事件の衝撃が広がる中、ひとつの問いが浮かぶ。どうして、米兵による凶悪事件は沖縄ばかりで繰り返されているのか?

防衛省によると、基地を含む在日米軍専用施設は76ヵ所に及び、その7割超が沖縄に集中している。一方で本土にも多くの施設があり、首都圏には米空軍が司令部を置く東京都下5市1町にまたがる横田基地、米海軍が海上自衛隊と共同使用する神奈川・厚木海軍飛行場などがある。

ところが、首都圏近郊では沖縄のように米兵絡みの事件・事故が大きく報じられることは少ない。いったいなぜなのか。

その疑問への答えを見つけるべく、筆者は沖縄での事件からちょうど1週間後の10月10日、米海軍第7艦隊が拠点とする「米海軍横須賀基地」の門前町である神奈川・横須賀に向かった。

事件を受けて那覇市の歓楽街を巡回する米軍の憲兵。基地内の治安維持や警備を担当する軍事警察だ事件を受けて那覇市の歓楽街を巡回する米軍の憲兵。基地内の治安維持や警備を担当する軍事警察だ

【「あいつらは酒を飲んだらすぐキレる」】

東京駅からJRと京浜急行を乗り継いで約1時間。夕刻、降り立った横須賀中央駅には心地よい潮風が吹いていた。通りに出れば、戦前の「水兵さん」を思わせる真っ白い制服に身を包んだ海上自衛官であろう男女の列。

潮の香りを手がかりにさらに海岸へと歩を進めると、海自の若者とは対照的なTシャツ短パン姿の屈強な外国人に出くわす。

なじみのある外食チェーンやコンビニに交じって、外貨両替ができることを示す「MONEY EXCHANGE(マネー・エクスチェンジ)」などと書かれた看板が目に入るようになると、ここが海自と米海軍が共存する「基地の街」であることを実感する。

「Navy(ネイビー/海軍兵)がいるかって? まだちょっと時間が早いね。『ドブ板』に行けばいっぱいいるよ」

時刻は午後9時。西アフリカ出身のオーナーが経営するというクラブで聞いた話を頼りに、地元で「ドブ板通り」と呼ばれる歓楽街に向かった。

通りには、いずれも駐留米兵を目当てにした水たばこを楽しめるシーシャバーやフィリピンパブ、タトゥーショップなどが並ぶ。横須賀基地を正面に見据えており、米兵向けのバーやクラブが立ち並ぶ沖縄市の「ゲート通り」とも重なる歴史をたどってきた場所だ。

取材で米海軍兵らに話を聞いた、横須賀基地の正面にある「ドブ板通り」の近辺(撮影/安藤海南男)取材で米海軍兵らに話を聞いた、横須賀基地の正面にある「ドブ板通り」の近辺(撮影/安藤海南男)

沖縄での事件を受けて初めての週末となったこの日、ドブ板通りには米兵とみられる複数の外国人の姿があった。

コンビニ前で腹ごしらえをしていたひとりに、「Are You Marine(マリーン/海兵隊員か)?」と話しかけると、男性はすぐさま「No!」と否定し、「ⅠAm Navy(おれは海軍兵だ)!」と続けた。「海兵隊」というワードに過剰とも言える反応を示したのにはワケがある。

「沖縄にいる海兵隊の連中と一緒にしないでほしいな。あいつらはクレイジーだからね」

取材に応じてくれたテキサス出身の白人男性、トム(仮名)は、4年の任期で海軍に入隊したという。年齢は20歳。くしくも逮捕されたバラード容疑者とは同い年だ。

「これから、ここにタトゥーを彫りに行くんだ。いいだろ?」と、未完成な「筋彫り(アウトラインだけの入れ墨)」が刻まれた左肩を示してはしゃぐ様子に幼さを漂わせる。

ただ、「沖縄の海兵隊と君の所属する海軍とでは何が違うのか?」と尋ねたとき、その表情にははっきりとした嫌悪感が浮かんでいた。

「あいつらは明らかに問題を抱えている。おそらくそれは、酒に起因するものだろう。飲んだらすぐブチ切れる。バカの集まりだよ」

その話しぶりからは、同じ米軍内でも海軍と海兵隊との間には明らかな〝格差〟があることをうかがわせた。

粗暴な海兵隊への嫌悪感を隠そうともしないトムに沖縄の事件についてコメントを求めると、「Terrible(ひでえよな)」と繰り返して表情を曇らせ、こう続けた。

「あいつらは、Front Line(フロントライン/最前線)に行くからな」

トムは海兵隊を語るとき、「Gung-Ho(ガンホー)」という単語も口にした。死と隣り合わせの戦場に向かう部隊に対する俗称で彼らを呼ぶその口ぶりには、侮蔑の色が交じっていた。

トムと別れた後、通り沿いのバーで出会った海軍兵ふたりも、海兵隊に対して辛辣だった。艦船の維持管理を担う工兵の部隊に所属するというふたりは、こう口をそろえた。

「オレたちはつくる。でも、あいつらはただ乗るだけだ」

このふたりも、バラード容疑者と同じ20歳。同じ異国の地で軍務に就く同年の4人の命運ははっきりと分かれた。その無常を歓楽街の喧噪が際立たせていた。

【〝厄介者〟が押しつけられている】

「米軍内に格差がある」という彼らの指摘が「あながち間違いではない」というのは、沖縄で数多くの米軍事件を目にしてきた司法関係者だ。

「海兵隊は、サイドを短くそり上げた髪型から『High and Tight(ハイ・アンド・タイト)』などと米軍内で呼ばれ、その粗暴さがやゆの対象になることもあります。

陸軍・海軍・空軍・海兵隊の『4軍』に加え、新たに創設された宇宙軍と沿岸警備隊の6軍種で構成される米軍の中でも、戦場の最前線に急派される海兵隊はとりわけ危険で過酷な部隊であると言えます。

それだけに慢性的な人材不足で、入隊のハードルも年々下がっている。貧困や素行の問題を抱えて入ってくる若者も少なくありません。沖縄で米軍の犯罪が絶えない理由のひとつに、海兵隊の部隊が集中しているという側面があるのは否定できません」

事件を受けて記者会見に応じる古謝玄太沖縄県知事。先月、玉城デニー前知事を破って初当選した事件を受けて記者会見に応じる古謝玄太沖縄県知事。先月、玉城デニー前知事を破って初当選した

在日米軍基地の中でもとりわけ〝戦場〟と近い立場にある在沖海兵隊。それだけに、戦場でのリスクが増大するほどに彼らの心身の荒廃が進むのは道理でもある。

ロシアによるウクライナ侵攻、イラン戦争の勃発。不安定化する世界情勢と歩みを合わせるように、米軍関係者の事件の検挙件数も増加傾向にある。25年には101件と、03年の112件(沖縄県警発表資料より)以来の高水準になったという。

基地負担の問題を巡る言説で、在沖海兵隊についてよく用いられる「NIMBY(ニンビー)」という言葉がある。「Not In My Back Yard(ノット・イン ・マイ・バックヤード)わが家の裏庭には置かないで)」の頭文字で、彼らはまさに〝厄介者〟なのである。

「沖縄で基地負担について不満の声が上がるのは、そうした厄介者を本土から押しつけられているという意識もあるからです。もともと在沖海兵隊基地の一部は、山梨や静岡、岐阜の各県に置かれていましたが、沖縄が米軍統治下にあった1950年代に次々と沖縄に移駐されたという経緯もあります」

沖縄が海兵隊にとって特別な場所であることも、事態を複雑にしている。沖縄にある米軍キャンプ地のそれぞれの名称は、県民の4人に1人が命を落としたとされる沖縄戦で戦死した海兵隊員の名前に由来している。「自分たちが命懸けで分捕った陣地だ」という自意識を隠そうともしていないのだ。

沖縄で悲劇が絶えない理由。それは結局、この地がいまだに戦場の「Front Line」だからなのである。

  • 安藤海南男

    安藤海南男

    あんどう・かなお

    ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中。

Photo Gallery

編集部のオススメ

関連ニュース

TOP