【緊急現地ルポ】"やな大臣"「お仕置き政治」の代償「あの"恐喝発言"は止めることができたはずなんです......」

取材・文・撮影/興山英雄 写真/共同通信社 朝日新聞社

衆議院予算委員会で質問を聞く簗和生氏衆議院予算委員会で質問を聞く簗和生氏

選挙で自分を支持しなかった首長のいる自治体の交付金は大幅にカットする――。そんな"恐喝発言"をかましたことで農相辞任に追い込まれた簗和生(やな・かずお)氏。

彼の地元の反応を取材するため栃木3区へ行ってみると、そこには交付金の給付対象であった道路工事の停滞に苦しむ町の姿が。さらには"やな大臣"の現地での不人気ぶりも見えてきて......。

【いろんな意味で話題の町に】

栃木県那須烏山(なすからすやま)市は人口約2万2000人。昨年生まれた子供は50人程度で、20年前の約4分の1に減った。コロナ禍以降、飲食店の閉店が相次ぎ、36年間親しまれた「クローバーステーキハウス」も今年9月末に店を閉じた。

そんな地方の小さな町が、この秋、全国の注目を集めた。

9月中旬には『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ系)で那珂(なか)川のアユが紹介され、同26日には『笑ってコラえて!』(前同)の「ダーツの旅」で地元のソウルフード、ササミフライが登場。

さらに月末には、人気バンド「Mrs. GREEN APPLE」が市内の「どうくつ酒蔵」でイベントを開き、全国から若者が押し寄せた。

そんなさなかの9月30日、今度はまったく別のニュースで、町の名前が全国に知れ渡ることになる。

地元選出の簗和生氏が、自らを支持しない自治体の道路予算を大幅に減らしたと発言していたことが報じられ炎上、その結果、農林水産大臣を辞任することになったのだ。

「せっかく町がいい形で有名になれたのに、なんでこんなオチがつくんだ」

取材で街を歩くと、そんな落胆と怒りの声にぶつかった。

簗氏は今年2月の衆院選で、同じ選挙区(栃木3区)から立候補した渡辺真太朗氏(無所属)に小選挙区で敗れ、比例復活で当選した。栃木3区は那須烏山市、那珂川町、大田原市、那須塩原市、矢板市、那須町の4市2町からなる。那須烏山市と那珂川町では、渡辺氏が簗氏を上回る票を集めていた。

簗氏は5月、自民党内の懇親会でこう述べていた。

「まず、那須烏山市、那珂川町の令和8年度の道路予算については大幅にカットしました。これは当たり前ですね」

続けて、減額の理由についてこうまくし立てる。

「ひとつは、首長が自民党の国会議員はいらないという行動を取ったわけですから、それが要因1。ふたつ目は『票数』。多くの市民町民がそういう判断をしたということですから。那須烏山市については前年度の64%減、那珂川町は54%減にしています」

そして、こう念を押した。

「今度、私がこの選挙区からいなくなったら、完全に予算が切られます」

簗氏が「カットした」と語った道路予算は、実際に大きく減っていた。

那須烏山市の工業団地内の市道は交付金減額で拡幅工事は見送りに。沿道の除草も予算不足で年3回から1回に減ったという那須烏山市の工業団地内の市道は交付金減額で拡幅工事は見送りに。沿道の除草も予算不足で年3回から1回に減ったという

国が自治体に配分する「社会資本整備総合交付金(道路関係分)」を見ると、那須烏山市の今年度の内示額は約2427万円。前年度の約6535万円から62.9%減った。那珂川町も約4934万円から約2262万円へ、54.2%のマイナスである。

「これほどの減額幅は記憶にありません」

那須烏山市建設課の担当者も戸惑いを隠さない。

一方、今年2月の衆院選で首長が簗氏を応援した那須塩原市は前年比約11%増、那須町は約34%増だった。

同じ選挙区、同じ交付金。簗氏の発言に符合する配分の差が現実に生じていた。ただし、簗氏が実際に予算配分に介入したかどうかは明らかになってない。

【「道が狭すぎる!」】

道路予算が削られた町で、何が起きているのか。

那須烏山市の中心部から、車で山のほうへ。10分ほどで住宅が減り、周囲に畑が広がる。ため池を回り込み、曲がりくねった道を進むと、山中に工場がぽつぽつと姿を現す。富士見台工業団地だ。

団地内の市道は両側から枝や草が張り出し、道幅をいっそう狭く見せていた。工場へ向かう道をたどると、一部がコンクリートで補強され、土嚢(どのう)が積まれた斜面が現れた。

市建設課によると、大型化する車両に対応するため、団地内の市道幅を広げる計画だったが、今年度は交付金が足りず、予定していた工事を見送ったという。近くの会社の関係者は、以前から拡幅を求めてきたと話す。

「もともとの計画は10年以上前からあります。役場に相談しても『予算がない』『いずれやります』と言われるばかりで、なかなか進みません」

数年前には大雨で斜面が崩れ、補強工事が始まった。会社側は、それを機に道路の整備も進むものと期待していた。

「こちらまで整備してもらえると思っていましたが、途中で止まってしまいました」

工事の再開時期は未定だ。

続いて、隣の那珂川町へ。那須烏山市では簗氏と渡辺真太朗氏のポスターが交互に現れたが、町境を越えると様子が変わった。沿道で目につくのは渡辺氏の顔ばかりなのだ。

那珂川町の沿道では、渡辺真太朗氏のポスターばかりが目についた。地元住民からは「以前は簗氏のポスターもあったが、外されたようだ」との声も那珂川町の沿道では、渡辺真太朗氏のポスターばかりが目についた。地元住民からは「以前は簗氏のポスターもあったが、外されたようだ」との声も

町役場のある一帯を抜け、山間部へと車を走らせる。道路は広くなったり狭くなったりを繰り返し、新しく舗装された区間が終わると、センターラインのない細い道に逆戻り。その先に集落があった。

町建設課によると、この生活道路も交付金不足で、今年度予定していた拡幅工事を見送らざるをえなかったという。

沿道で農作業をしていた女性がこうこぼす。

「通勤や買い物で毎日使う道ですが、車の擦れ違いが本当に大変。ミラー同士がぶつかる接触事故が多く、私の車にも傷がついています。バックしないと擦れ違えない場所もあるし、冬は路面が凍結するので運転が怖いです」

さらに、周辺では夜になると、ミミズを求めてイノシシが現れ、畑を荒らすという。

「こんな狭い道でイノシシとぶつかったら大変ですよ」

そう話す近所の男性によれば、道路の拡幅計画について役場から説明を受けたのは、はるか昔のことだという。

「工事が始まるって言ったのは30年前の話なんだよ。役場に集められて、地図を広げて『3年で終わる』と説明を受けた。3年どころじゃねえ、もう30年だ!」

待ち続けた道路整備が、また遠のいた。

【人気格差】

では、国の道路予算は本当に、地元の国会議員を支持するかどうかで左右されるものなのか。交付金が減額された自治体の担当者は、こう説明する。

「事業の必要性や緊急性など、国が評価する項目は細かく設定されていて、その基準に沿って判断されるので、政治的な意向が入り込む余地は考えにくいと思います。ただ悔やまれるのは、要望の際に路線ごとに改良工事の必要性や緊急性を書く欄があるのですが、そういう部分の説明が少し弱かったかな、と」

ところが、地元で取材を重ねると、簗氏の発言に驚くどころか、「あの人ならやりかねない」という声が少なくなかった。

「支持者にはいい顔をするけど、支持しない人には挨拶もしない。無視することもある」

そんな人物評も聞かれた。12年の簗氏の初当選を支えたある地元市議も、今では距離を置く。当時をこう振り返る。

「栃木3区で議席を守ってきた渡辺喜美さんが自民党を離れ、組織が割れたとき、公募でやって来たのが簗さんでした。かばんひとつでね。東大大学院卒の感じのいい若者で、スーツもくたびれていたから、新しいのを買ってやろうか、なんて話したくらい」

当時33歳。支援者が自治会長らに紹介して回り、本人も祭りや運動会で名刺を配った。

「でも、当選を重ねるうちに変わってしまった。『ここは直したほうがいい』と忠告しても、『なんであんたにそんなことを言われなきゃいけないんだ』と反発する。嫌気が差して、昔からの支援者も離れていったんです」

先の衆院選では、小選挙区で敗れて比例復活したものの、集まった支援者への挨拶もなかったという。別の地元議員によれば、票が伸びなかった責任を県議らに押しつけ、叱責したという話もある。

さらに、秘書が次々と辞めていったという話も聞かれた。

「公設・私設秘書が20人くらい入れ替わったと聞いています。人前ではいい顔をするのに、身内には厳しい。秘書を怒鳴りつけた豊田真由子さん(現参政党の衆議院議員)を思い出します」

一方、簗氏を破った渡辺真太朗氏は地元で人気を集める。

「子供たちの間では『しんたろうカード』が人気なんです」

地元のPTA関係者によれば、渡辺氏の名刺をランドセルの登下校確認用カードケースに入れる小学生が多く、学校では〝選挙ごっこ〟まで流行。11月の地元中学校の創立記念式典にも、渡辺氏が来賓として招かれているという。

簗氏が事務所を構える大田原市内の居酒屋でも、渡辺氏の評判を聞いた。店主は設備関係の仕事を本業とし、簗氏とも面識がある。

「渡辺さんは選挙に出る前から飲みに来ていました。よくしゃべるし、気さくな人です。簗さんも直接話して悪い感じはしないけど、あまり打ち解ける感じではないですね」

簗氏のお膝元、大田原市の飲み屋街。3軒を飲み歩いたが、店主も客も今回の発言には辛辣。地元でさえ、簗氏を擁護する声はほとんど聞かれなかった簗氏のお膝元、大田原市の飲み屋街。3軒を飲み歩いたが、店主も客も今回の発言には辛辣。地元でさえ、簗氏を擁護する声はほとんど聞かれなかった

渡辺氏の好感度が高い理由について、那須塩原市の自民党市議は、結婚間もない妻の存在も大きいと語る。

「福岡から来た明るい奥さんでね。結婚したばかりで、あちこち挨拶に連れ回されて、泣きながらも頑張っていた。そんな姿を見て、周りも『このコを泣かせちゃいけない』となったんです」

対照的に、今年2月の衆院選では、簗氏が地元のトヨタカローラの販売店に演説に来たという。居合わせた従業員がこう振り返る。

「鉢巻きをした簗氏を見て、『えっ、ここに来るの!?』と驚きました。真太朗さんは大勢の人を集めるのに、ここで演説を聞いていたのは従業員だけで15人ぐらい。そのときも政策より人脈や予算の話ばかりでした」

両氏に対する地元の反応の違いは、今回の騒動でも表れていた。

前出の居酒屋店主が所属する水道設備関係の組合では、今年の新年会に簗氏を招いた。来年も招くのかと尋ねると、こう返ってきた。

「もう呼べないですね」

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【「頼めば、すぐ動く」】

だが、簗氏の政治力を評価する声もある。

那須烏山市の市議は、那珂川から水を引き、田んぼに供給する古い農業用水路の例を挙げる。老朽化で崩落が進み、補強工事が必要だったが、国の予算確保は難航していたという。

「県議を通じて頼んでも、なかなか進まなかった。それが簗氏に頼んだら一発だった。そういう実績はあるんです」

簗氏を支持する那須町議も、その仕事ぶりを評価する。

栃木・茨城の県境にある鷲子山上(とりのこさんじょう)神社は、フクロウを幸運の象徴として祭っており、宝くじが当たる御利益があると評判の人気スポット。県外からも参拝客が訪れるが、山道は狭く、車の擦れ違いも難しかった。町議によれば、簗氏の働きかけで待避所の整備が進んだという。

さらに、国道4号沿いではトラックが捨てるゴミが田んぼに飛び込む問題に対し、国道事務所を動かしてフェンスを設置。大雨で冠水する場所には排水ポンプを備えるなど、地元の要望に応えてきた。

「とにかく頼むと、すぐに動いて問題を解決してくれる。私たちは、そこを信頼しているんです」(那須町議)

ただ、その手法には摩擦も伴った。

「地元の県議や首長が知らないうちに話が進み、中央官庁から『この件はどうなっていますか』と問い合わせが来る。地元の政治家にしてみれば面白くないでしょう。そうやって溝が深まっていったんです」(前出・那須烏山市議)

地元県議らとの調整を経ずに事業を進める。その突破力が地域の課題を解決する一方、政治的なあつれきも生んできた。そんな簗氏の姿勢に、ある有権者は一定の理解を示す。

「お仕置き政治なんて言われますが、国会議員に地元が期待するのは予算を引っ張ってくること。首長も有権者も、それを期待して誰を支持するか選ぶ。その選択には責任も伴うでしょう。支持してくれた地域に優先的に恩恵をもたらす。それもひとつの政治のやり方だと思います」

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もっとも、簗氏を支援し続ける前出の那須町議も、今回の騒動には胸を痛めていた。

「正直、テレビを見るのがつらいんですよ。今まで地元のために動いてくれた人が、あんなに苦しそうに話しているのを見るのは......」

町議には、悔やんでも悔やみきれないことがあるという。

「実は、今回問題になった発言が録音される前日、那須町の集会でも簗さんは同じような話をしていたんです。そこでの話が誰かを通じて伝わり、翌日の集会で『同じことを言うだろうから録音しておけ』という流れになったんじゃないか。

あの日、2次会で簗さんに『あんな話はよそでしないでくれよ』と注意していれば、こんな大問題にはならなかったかもしれない。それが本当に悔やまれます」

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