ロシアによる9月28日のキーウ爆撃では、9人が死亡し、80人以上が負傷した。自爆ドローンが直撃して炎上する科学アカデミー(飯柴氏撮影)
9月28日、ウクライナの首都キーウにあるウクライナ国立科学アカデミー幹部会館に、ロシアのジェット推進型ドローンシャヘッドが直撃した。その時、すぐ近くにいたのは、当コラムに何度も登場している飯柴智亮氏だった。アフガンで実戦経験を積み、元米陸軍情報将校にもなった飯柴氏にその時の様子を聞いた。
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その日のロシア軍(以下、露軍)大規模ドローン攻撃はいつもの夜間ではなく、朝から夜まで断続的にウクライナを襲った。
計120機、その内90機がジェット推進型ドローンシャヘッド。ウクライナ軍はその57%を迎撃したが、39機が本土に着弾。その内の一機が13時30分頃、科学アカデミーに着弾。飯柴氏はたまたま、とある仕事でその至近にいたのだ。
「最前線では空からの脅威に対しては、ドローンも迫撃砲弾も基本的に同じ行動を取ります。最初にその脅威を察した兵が、『Incoming=砲撃だ!!』と叫びます。次の瞬間、遮蔽物に身を隠すか、その場に伏せます。その後、指揮官は砲弾の来る方向・距離・様子を瞬時に判断し、安全と思える場所を示して、そこまで全力疾走します」
首都キーウは最前線ではないが、常に爆撃されている。
今まで飯柴氏は夜間爆撃を何度も経験してきた。時速150~180キロで飛ぶプロペラ推進式無人自爆機は、接近時にブーンと音がする。しかし、今回着弾したジェット推進式シャヘッドは、最大時速500~600キロ、弾頭重量50~90kg。高度5000~8000mから速度500~600キロで急降下自爆する。ちなみにお値段は一機1540万円。
これまで幾度となく見ていたプロペラ推進式無人自爆機とジェット推進式シャヘッドは、何から何まで違う。
「自分の耳にはジェットエンジンの音は聞こえませんでした。大都市の騒音に紛れていたからだと思います。なので、突然、爆発音がしました。その音は10号玉の花火が地上で爆発したような感じでした」
10号玉花火は、夜空に直径300mの大輪の花を咲かせ、花火大会の目玉にもなるサイズ。それほどの音がしたという。当然、その威力も大きい。
「シャヘッドの火力は155mm砲弾とほぼ同等で、遮蔽物がなければ50m四方は即死、150m四方は負傷です。私はこの時、爆心地から約200m離れていて、着弾音と共にとっさに近くの遮蔽物に向かって伏せたので、無事でした」
炎上する建物の窓には、助けを求める館員の姿が視認できる。飯柴氏は、道をひとつ隔てた地点で被爆したので助かった(飯柴氏が撮影した動画より)
実戦経験者でも、被爆の恐怖を感じたのではないだろうか。
「私は恐怖を感じません。もし、直撃していたら、恐怖を感じる暇もなく即死でしょう。当たった時は当たった時と割り切っています。
しかし、あえて言うならば、怖いのは負傷による失明です。アフガンではIED(即席爆破装置)で多数の戦傷者が出て、ワシントンのウォルターリード病院に見舞いました。片手片足がない負傷者もいましたが、一番、自分がなりたくないと思ったのは、両目を失明した負傷者です。はっきり言いますと、死ぬより怖いです」
首都キーウに展示されているプロペラ式自爆ドローンシャヘッドと飯柴氏(写真提供/飯柴氏)
ウクライナ空軍(以下、ウ軍)の報告によると、ウ軍の露軍各種空爆に対しての迎撃率は低下し続けている。巡航ミサイルに関しては、今年4月の迎撃率は90%だったが、8月には40%台に落ちた。弾道ミサイルは、2023年6月は90%だったが、今年8月には0%になっている。原因は地対空迎撃ミサイル・パトリオットの不足だ。
そしてこの日、ジェット推進型ドローンシャヘッドを57%迎撃している。ジェット推進式シャヘッドは、ウ空軍F16搭載の20mm機関砲弾で撃墜するのに有効だからだ。それでも一機撃墜するのに150発、1日5000~6000発が必要とされる。ゼレンスキー大統領は「F16戦闘機用の弾薬を事実上世界中から調達している」と言っているが、膨大な量が必要だ。
「現在、キーウの防空体制は良くありません。迎撃ミサイル不足でダメージが深刻化しています。今回ウクライナでは、初めてウクライナ国境付近のポーランド領内で空襲警報を聞きました」
戦域は広がっている。露軍ジェット推進自爆ドローンシャヘッドは、ウクライナ戦争の切り札となり、ロシア勝利で終戦となるのでは?
「ジェット推進式シャヘッドは切り札にはなりません。戦場は多くの歯車が回る精密機械のようなもの。ひとつの新型兵器が影響を与えることはありますが、切り札にはなりません」
報道によると地上戦では、ウクライナが大胆な作戦を決行した。
東部ドンバス地方で重火器を搭載したロボットUGV(無人地上車両)を、露軍最前線後方10キロに空中投下。前線正面では、大量の爆発物を搭載した露軍旧式装甲兵員輸送車を接近させて爆発。
この作戦で露兵捕虜250人を確保した。ウ軍の地上戦では反撃開始となるのだろうか......。
「このUGVも切り札になりません。ちなみに露軍ジェット推進式無人自爆ドローンも生産コストが高く、使用する側の経済的ダメージが大きくなります」
この戦争の行く末はどうなるのだろうか?
「ウクライナが自国領の土地を奪還しても、それは局地的な勝利でしかない。依然として国土の20%を占領されています。日本ならば、国土の22%にあたる北海道を失ったのと同じです。
戦争に勝利するには、作戦レベルの軍事行動が必要となります。戦史を振り返っても、戦局をひっくり返したのは常に作戦です。第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦、朝鮮戦争の仁川(インチョン)上陸作戦など、それに等しい作戦行動が必要です」
弾道ミサイルとジェット推進式シャヘッドの空爆に対して、弾不足に悩むウ軍にそんな作戦は期待できない。
一方の露軍も、これまでの死傷・行方不明者は推計約140万人、戦死者は推計約40万~45万人。今年の月間新規兵員よりも損失兵数が多いという状況。こちらも戦局を変えるような作戦は期待ができない。
「今後、この消耗戦の状態はあと2年ほどは続くと思います。大きく戦況が左右されるとすれば、次の米大統領が誰になるかによってでしょうね。
このウクライナ戦争は、バイデン前大統領が『アメリカはウクライナに軍隊を送らない』と発言したことから始まった戦争です。米大統領が世界情勢のカギを握っているのは間違いないでしょう」
そのカギは2年後に、次期大統領に渡される。そのカギで新たな戦争の扉を開けるのか、それとも、厳重にその扉を施錠して閉鎖するのか、それはわからない。しかしそれまで、すさまじい戦争は続いていく。