まるで室町時代!? 英雄不在で混沌化する現代を生き抜くための一冊!(『室町「下剋上」サバイバル』著:清水克行)

取材・文/南ハトバ 撮影/金子シェリー

「室町時代は絶対的ヒーローが存在しない『カオスの時代』。将軍や幕府の重鎮でも先行きがわからないほど、全員のベクトルがバラバラでした」と語る清水克行氏「室町時代は絶対的ヒーローが存在しない『カオスの時代』。将軍や幕府の重鎮でも先行きがわからないほど、全員のベクトルがバラバラでした」と語る清水克行氏

新しい時代は〝混沌〟から生まれる―――?

地味で難解な時代と目されがちな「室町時代」。その豊かなカオスぶりに光を当て、〝室町ブーム〟を牽引するのが歴史学者の清水克行氏だ。

最新著書『室町「下剋上(げこくじょう)」サバイバル』では、中世史のトピックにとどまらず、清水氏自身の学者修業時代を描いた自伝的エッセーも収録されている。

その過酷な修業環境に、読者からは「室町時代以上に、歴史学者の歩みそのものがアナーキーだ」との声も。研究対象をも凌駕する(?)ハードボイルドな歴史学者の実態に迫る。

* * *

――本書を読んで、歴史学者になるまでの道のりがこれだけ険しいとは!と驚きました。

清水 学者という職業自体が狭き門ですが、特に歴史学は昔から苦労の絶えない道なんです。研究を志しても職を得られる保証がないため、近年は大学院への進学者数も激減しています。

だからこそ、「こんな感じでもやっていける」という実際の学者のライフステージサンプルを示したいという意図もありました。

若いうちは先が見えない不確定な環境だと、どうしても優秀な人ほど将来の厳しさが見えて途中で辞めてしまう。

逆に、少し抜けていて周囲から「もうちょっと自分の将来を見つめ直せよ」と言われるようなタイプのほうが、ずぶとく残っていたりしますね(笑)。

――先生ご自身も、後者のようなタイプだった?

清水 いえ、私は無駄にプライドが高くて自分で自分の首を絞めるタイプでした(笑)。

論文をどれだけ書いても認めてもらえない。研究職の公募があれば片っ端から応募書類と論文を送りつけるのですが、読まれた形跡すらなく、まっさらな状態で送り返されてくる。

そんなことを何年も繰り返して心が折れそうになり、「なぜ自分はこんなに不遇なのか」と悔しさとやるせなさを抱えていましたね。

――そんな苦労の渦中、先生はかつて男子高でも教えていたそうですね。

清水 相当やんちゃな高校でした(笑)。しかも私の担当は工業科の生徒たちで、歴史に全然興味がない。

教科書を音読させると、頼朝を「よりあさ」と読むような環境でした。そんな彼らにどう歴史の面白さを伝えるか、試行錯誤する中で相当鍛えられました。

――そんな生徒たちの心を、どのようにしてつかんだのですか。

清水 「今の自分たちの生活と歴史がつながっている」と実感したときに、歴史嫌いな生徒も目を輝かせて聴いてくれるんです。

例えば「通学路にあるあのお寺、何宗か知ってる? 実は......」といったように、彼らの身近な日常に引き寄せます。

織田信長のエピソードなどをどれだけドラマチックに語っても、講談師ではない私たちが語るには限界がありますから。

この経験は、専門知識をわかりやすく伝える一般書を執筆する上でも生かされています。

――その後、3年任期の研究職に就かれますが、順風満帆とはいかなかった?

清水 そうですね。その任期中に成果を出して大学の専任教員になれれば......と思っていたのですが、結局ダメ。論文を書いても評価されず、任期満了が迫る。人生で一番やさぐれていた時期でしたね。

――そのどん底から抜け出せたきっかけは?

清水 とにかく食べていかなければならないので、今度は女子高で非常勤講師のバイトを始めたんです。3年ぶりに教壇に立ったら、生徒たちの反応が非常に良くて楽しかった。どんなにいい授業をしても、男子はシャイで反応が薄いのですが、女子は反応が大きいんです。

男子高とはまた違った形で「教えることの面白さ」を再発見して、「このまま高校の先生として生きていくのもいいかな」と思い始めていた矢先、ありがたいことに今の明治大学の公募で採用が決まったんです。

――苦難を経て今に至るわけですね。本書では「人妻好きの足利義満」や「自分にムチ打つカルト信仰にハマる大衆」など、室町時代のカオスな姿が満載です。なぜ今、こうした時代が注目を集めているのでしょうか。

清水 現代の社会構造が、室町時代に似てきたからかもしれません。昔から言われますが、信長・秀吉・家康の人気は時代の空気によって変わります。

高度経済成長期のような右肩上がりの時代は秀吉、社会が安定すると家康、閉塞感が強まると現状打破を求めて信長の人気が高まる、といった具合です。

――時代の空気によって、人々が求めるヒーロー像が変わる?

清水 そうです。一方、室町時代は絶対的ヒーローが存在しない「カオスの時代」。英雄はおらず、将軍や幕府の重鎮でも先行きがわからないほど、全員のベクトルがバラバラでした。

現代も「AIの時代だ」と言われつつ手探りが続く〝生みの苦しみ〟の時代ですよね。その予測不能な雰囲気が重なり、共感できるのかもしれません。

――「混迷の室町時代」から学べる生き方のヒントとは?

清水 室町人の過激な行動をそのままマネすると危ない気もしますが(笑)。

当時、「怠け」を意味する「懈怠(けたい)」と「懶惰(らんだ)」という言葉が使われていました。前者はやるべきことを明日へ延ばすこと、後者は明日やることを今日やってしまうことです。

現代では前倒しで仕事をこなす人が「真面目」とされますが、本来は「その日その日の課題に向き合うこと」こそが真面目さであり、過度な前倒しは一種の逃避と考えられました。

――「今日やるべきことに集中して生きる」のが、まさに室町人の美学だった。

清水 はい。これは過密な現代を生きる私たちへの大きな示唆になります。明日の仕事を今日こなせば、次は明後日の仕事が前倒しで降ってくる。

結果、際限なく仕事に追われる。それは決して幸せな生き方とは言えません。

今やオンラインでどこでも手軽に会議ができるようになりましたが、便利になった半面、仕事の量はむしろ増えている。

室町の人々は、そうした過剰な効率化や先取りの危うさを知っていたんじゃないかな。

500年前のまったく異なる価値観だからこそ、室町時代には現代人の心をふっと軽くしてくれるヒントが詰まっていると思います。

●清水克行(しみず・かつゆき)
1971年生まれ、東京都出身。明治大学商学部教授。専門は日本中世史。立教大学文学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『室町社会の騒擾と秩序[増補版]』(講談社学術文庫)、『喧嘩両成敗の誕生』(講談社選書メチエ)、『日本神判史』(中公新書)、『耳鼻削ぎの日本史』(文春学藝ライブラリー)、『室町は今日もハードボイルド』(新潮文庫)、高野秀行氏との共著『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社インターナショナル)など多数

■『室町「下剋上」サバイバル』
文藝春秋 1980円(税込)
カオスな時代を生きるヒントは中世に学べ!「新宿歌舞伎町のトー横より過激だった"花の御所"跡」「人妻掠奪の常習犯・足利義満の大スキャンダル」「元祖トップスター世阿弥が明かす芸能界サバイバル術」など、室町ブームの火つけ役による痛快日本史エッセー53本を収録

★『“本”人襲撃!』は毎週火曜日更新!★

  • 南ハトバ

    南ハトバ

    みなみ・はとば

    文筆家・漫才師・僧侶。上智大学法学部国際関係法学科、大正大学大学院仏教学研究科を経て、現在は実家の寺の副住職としての活動をしつつ、芸人としても舞台に立つ。趣味は暗闇ボクシング・テレビ鑑賞・パワースポット巡り・念仏。得意分野はエンタメ全般・プロレス・ドイツ憲法・二十五三昧会。

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