
山本萩子
やまもと・しゅうこ
山本萩子の記事一覧
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン。
タンパを出てニューヨークで乗り継ぎ、東京へ帰る機内です。人生で初めて経験したシャンパンファイトの、お酒と葉巻が混ざったむせかえるような香りが、今もまだ鼻の奥にツンと残っている気がします。きっと、これからも一生忘れることはないでしょう。
2026年のメジャーリーグは、ミルウォーキー・ブルワーズの球団史上初となるワールドシリーズ制覇で幕を閉じました。レギュラーシーズンで両リーグトップの勝率を誇ったチームが、ついにポストシーズンでも圧倒的な力を見せました。本当に強かった。
かつてイチローさんが米野球殿堂入りのスピーチで、「ブルワーズにはできている」と評した"考える野球"とは一体何なのか。自分の目で見て感じたものからその答えのひとつを探したくなり、対戦相手がタンパベイ・レイズに、つまりワールドシリーズの第3戦から5戦の開催地が決まった瞬間、思い切って航空券の「購入」ボタンを押しました。
バントや機動力を積極的に使う野球は「スモールベースボール」と表現されますが、それとはまた違うものだったように感じます。両軍とも支配的なピッチングをする投手、圧倒的なパワーを誇る打者もいる。その上で状況に応じた"野球のうまさ"を兼ね備え、選手たち自身が常に「何をすべきか」ということに向き合っていました。
その様子が、試合はもちろん練習で選手たちが発する言葉にまで、随所に感じられました。メジャーリーグの、そして野球の真髄のようなものに触れられた、素晴らしいワールドシリーズのマッチアップだったと思います。
ブルワーズは、球団初のキャプテンに任命されたイェリッチ選手や、ワールドシリーズMVPにも輝いた球界を代表する捕手・コントレラス選手といった経験豊富な選手や、若い選手も多く擁しています。チームのどこを切り取っても穴がないだけではなく、みなが同じ方向を向き、何をすべきかわかっている。だからこそ驚異的な粘り強さがあり、チーム力も高い。
その強さを引き出す大きな要因のひとつは、間違いなくパット・マーフィー監督の存在でしょう。
印象的だったのは、第3戦の後に見た選手たちのクラブハウスでの様子でした。10対1の大勝で世界一に王手をかけた直後にも関わらず、音楽こそかかっていたものの、選手たちの表情はみな驚くほどに引き締まっていた。誰ひとり浮かれる様子もなく、あと1勝することだけを考えているようでした。
マーフィー監督は試合中、どんな時でもまったく感情を表に出さずに動じない監督ですが、会見では絶妙なシニカルさを存分に発揮し、笑いをかっさらうのが常。この日の試合後の会見でも、落ち着いたトーンで話し終えたあと、去り際にドアの近くで、あるシーンについて話し始めました
大差がついた試合終盤の8回裏、レイズの攻撃で1アウト走者なしの場面で、ライトを守るフリリック選手がダイビングキャッチをしました。そのことについて、「あれは一歩目の判断が悪いよ。そうじゃなければ飛びつく必要もなかった」。冗談混じりのひと言に、会見場は笑いに包まれました。どんな場面でも手を緩めない選手たちの集中力の高さ、チームの規律の高さ、それを作り上げているマーフィー監督の手腕を象徴するコメントだと感じました。
初のシャンパンファイト。MILに関わるすべてのみなさん、初世界一おめでとうございます!
さて、少し個人的な話をします。帰国直後、予定していた引っ越し作業もろくに終えぬまま出発を決めてしまった計画性のなさに辟易(へきえき)とする一方で、我ながら「どれだけ野球が好きなんだ」とあらためて驚きました。どちらが勝っても球団史上初の世界一。「歴史的な瞬間を、これからの野球の最前線をこの目で見なければ」という気持ちに掻(か)き立てられ、気がつけば決断していました。
私は野球が好きですが、プレイヤーではありません。最近は日米の中継に出演・担当することも増え、 "野球ファンとしての自分"と"伝え手としての自分"、どんなバランスでいるべきなのか悩むこともありました。
しかし今回の渡米で、確信へと変わったことがあります。多くのものを目にし、触れてきて、お伝えしたいことがたくさん生まれました。その中には、例え同じものを見たとしても私だからこそ感じたものがあり、私だからこそ伝えられるものもあると思っています。そのひとつひとつを積み重ね、野球を愛する伝え手としてみなさんと共有していくことこそが、私のしたいこと、すべきことだと感じています。
これから先もこの連載が、野球を愛するみなさんとの交流の場であり続けますように! それでは、また来週。