NBAで新たな契約を控える八村 塁と無保証の契約でプレーする渡邊雄太NBAで新たな契約を控える八村 塁と無保証の契約でプレーする渡邊雄太

NBAで新たな契約を控える八村 塁(はちむら・るい)と無保証の契約でプレーする渡邊雄太(わたなべ・ゆうた)。共に今シーズンのスタートは上々だが、チームでの役割や評価はどうなっている? 現地からリアルな声をお届け!

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■来年の大型契約へ、八村は好スタート

八村 塁、渡邊雄太という日本バスケ界が誇る2大スターがNBAで重要なシーズンを迎えている。ワシントン・ウィザーズの主力となった八村は、NBA4年目となる今季がルーキー契約の最終年。

シーズン終了後(来夏)に初めてFAの権利を得る。そこでどれだけの契約を結べるかは、今シーズンの働き次第と言っても過言ではない。

一方、昨季終了後にトロント・ラプターズをFAになり、無保証の契約でブルックリン・ネッツのトレーニングキャンプに臨んだ渡邊は、オープン戦で結果を出すことで開幕ロースター入りを勝ち取った。

数々のスーパースターを擁し、上位進出が目標のチームで貢献を続ければ、ポストシーズンの大舞台でプレーすることも不可能ではない。そんなふたりの勝負のシーズンの先には、日本バスケ界の明るい未来が見えてくるはずだ。

八村は今季序盤戦、11月1日(現地時間、以下同)まで7試合連続2桁得点と好スタートを切った。スタメンからは外れているが、ベンチから出場して好成績を残す〝シックスマン〟として活躍。

八村本人の「出だしからアグレッシブに行こうと(いう気持ちで)やっています。それで、そういう結果が出ているんじゃないかなと思います」という言葉からは、重要な役割を託されたスコアラーとしての自信が感じられる。

NBAジャパンゲームズ2022で、ステフィン・カリー(右)擁するゴールデンステート・ウォリアーズと戦った八村(中央)。今季はシックスマンとして活躍NBAジャパンゲームズ2022で、ステフィン・カリー(右)擁するゴールデンステート・ウォリアーズと戦った八村(中央)。今季はシックスマンとして活躍

周囲からの評価も高い。オープン戦最後のゲーム前、「昨季終了時と比べて最も進歩した選手は?」と問われたウィザーズのヘッドコーチ(HC=監督)、ウェス・アンセルド・ジュニアは八村の名前を挙げ、次のように印象を語った。

「八村は昨季途中でチームに加わった頃と比べて、今は別の選手のようだ。自信に満ちているしアグレッシブ。その自信は私たちの戦術、チームメイト、スタッフのことをより好意的にとらえていることからきているのだろう」

確かに、過去3シーズンの八村のプレーには若干の遠慮が感じられたが、今季は積極的な姿勢が見て取れる。

思い返せば1年前の今頃、八村はコートに立ってすらいなかった。昨夏、日本代表の一員として東京五輪に出場した後、〝個人的な理由〟で2021-22シーズンのキャンプ、オープン戦、シーズン序盤戦をすべて欠場。

シーズン半ばの1月9日にようやく復帰したものの、存在感はやや薄かった。そんな昨季に比べれば、アンセルドHCの言葉どおり、今の八村はほとんど別人のようだ。

復調の理由としては、開幕前に休養の時間を手にしたことが大きかっただろう。19年のNBAドラフトでウィザーズから1巡目9位指名を受けて以降、NBAだけでなく日本代表での活動などが続き、八村は息つく間もない日々を過ごしてきた。そんな怒濤(どとう)の時間が、ようやく一段落したようだ。

「(今夏が)初めてのオフシーズンでした。自分のことに集中し、次のシーズンに向けていいオフが過ごせたんです」

そう語る八村は、久々に24歳の若者らしい屈託のない表情を見せるようになった。

来夏に制限付きFAの権利を得る八村は、そこで複数年の中型、大型契約を結ぶことが濃厚。今季の開幕前、多くのリーグスカウトは「3年3000万~4000万ドル(約44億2400万~58億9900万円)くらいの条件でウィザーズに残留する可能性が高い」と予想を話していた。

ただ今季に、これまで最高だった2年目の平均13.8得点という成績を引き上げれば、より好条件の契約を提示されても不思議はない。

「契約の年ということもありますが、僕の目標としてはチームが勝てること。昨季もプレーオフに出ていないので、それに向けてやっていくだけです。まずはこのシーズンに向けてしっかりと集中したいと思います」

開幕前にそう語った八村にとって、今季がキャリアにおける大きな分岐点のひとつであることは間違いない。自身のパフォーマンスを向上させることはチームの勝ちにつながり、選手としての評価向上にもつながる。そんな好循環を生み出せるのか、背番号8の活躍から目が離せない。

■渡邊は夫人のひと言でNBA挑戦を継続

一方で、渡邊が所属する今季のネッツはスーパースターぞろいのチームとなった。過去にシーズンMVPを1度、ファイナルMVPを2度受賞したケビン・デュラント、オールスター出場7度のカイリー・アービング、16年のドラフト全体1位で指名されたベン・シモンズ......。リーグ屈指の〝パワーハウス(強力な組織)〟だ。

そんなチームの中で、渡邊は持ち前のハッスルプレーと高い守備力で存在感を誇示。前述どおり、無保証の契約ながらロースター入りを果たし、開幕からローテーション選手のひとりとして奮闘している。

「ネッツにはなんでもできる選手がたくさんいる。だから僕は自分の仕事により集中しやすいというか、自分がやらなきゃいけないことだけにフォーカスすることができる。そういった意味でも本当にバスケットがしやすいです」

渡邊本人もそう話しているが、自らシュート機会をつくり出せる選手が多いネッツで求められているのは、ディフェンスと3ポイントシュート。渡邊はその両面で早々に首脳陣からの信頼を得た。

特にカギとなる3ポイントに関しては、10月26日からの4試合では7分の5の高確率で成功している。チームに足りないものを供給できる、いわゆる〝ロールプレーヤー(スターではなくとも特有の役割を果たす選手)〟として、渡邊は力を認められ始めている印象がある。

スーパースターぞろいのネッツで、守備力が高く評価されている渡邊。攻撃面では3ポイントシュートの確率を高め、出場時間を増やしたいところだスーパースターぞろいのネッツで、守備力が高く評価されている渡邊。攻撃面では3ポイントシュートの確率を高め、出場時間を増やしたいところだ

一見すると順調だが、渡邊はネッツからの無保証契約オファーを承諾する前に、Gリーグ(マイナーリーグ)からやり直すことも考えていたという。それを思いとどまり、最前線のNBA挑戦を継続する契機になったのは、今年5月に入籍したばかりの暁子夫人のひと言だった。

「NBAに行っても、去年のようにロースター14、15番目の選手になってしまうのであれば、Gリーグからスタートしてプレータイムをもらい、自信や力をつけた上でNBAからのコールアップを狙うのがいいんじゃないか、と思ったこともあったんです。

ただ、そこで妻に『今までやってきたことを、ここでやめていいの?』といった感じで言われました。確かにそういう考え方もあるなと考えるようになったんですよ」

オープン戦、シーズン序盤の渡邊の充実ぶりを見る限り、NBAのロースター入りに再挑戦するという渡邊夫妻の決断は正しかったのだろう。

もちろんシーズンは始まったばかりで、渡邊の立場が安泰になったわけではない。優勝候補の一角とされたネッツは開幕から2勝6敗(11月2日時点)と厳しい船出となり、チーム内の不協和音もささやかれ始めている。

ただ、これまでにさまざまな逆境を乗り越えてきた渡邊なら、さらなる試練にも立ち向かっていけるはずだ。日本が誇る〝努力する俊才〟が今後、優勝を目指して立て直しを図るチームの中で重要な役割を果たし、さらに評価を上げていっても、誰も驚くべきことではない。

●八村 塁(はちむら・るい) 
1998年2月8日生まれ、富山県出身。203㎝、104㎏。父親がベナン人のハーフ。高校卒業後に米ゴンザガ大学に進学。2シーズンの活躍の後、2019年6月のNBAドラフト会議で現所属のワシントン・ウィザーズから1巡目9位指名を受けた 

●渡邊雄太(わたなべ・ゆうた) 
1994年10月13日生まれ、香川県出身。206㎝、98㎏。高校卒業後にアメリカに留学し、大学、NBAサマーリーグを経てメンフィス・グリズリーズと契約。今季はブルックリン・ネッツの一員としてNBA5年目のシーズンを迎えた