アロー通り。163話の冒頭の写真と比べてもらえるとよくわかるが、雰囲気はタイ・バンコクのパッポンストリートにそっくり。しかしアロー通りの方が、客の数も規模も、パッポンストリートのそれより勝る感じ。要は観光地感がすごい。
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第183話
めまいを抱えながら臨んだ基調講演は、新たな研究ネットワークへの扉を開いた。学会の熱気とクアラルンプールの夜を通して、「G2P-Asia」の可能性を探る。
* * *
【基調講演とその後のリアクション】
翌朝。結局めまいは収まらず、フラフラする中でなんとか発表をこなした。
182話でも書いたように、質疑応答の時間がなかったせいもあるのか、発表の後には会場でたくさんのコンタクトがあった。
今回の出張は、マレーシアをはじめとした、まだ未開拓のアジア諸国の共同研究先を探ることを目的のひとつとしていた。めまいのせいで本調子ではなかったものの、「G2P-Asia」としての研究成果(175話)という名刺がわりの発表で、新しいつながりを作るいくつかのきっかけができた。
マレーシアからの参加者たちは、私を含めた招待演者たちに熱心に質問し、ツーショット写真を撮り、演者たちとの交流を画策していた。2024年の末に私が淡路島で主催した国際会議(159話)もそうだったが、自分の国で学術会議を開き、それに世界中の優秀な研究者を集めることによって、世界中の研究者たちと交流する機会が生まれる。実はこれはすごいアドバンテージである。
そして、これは最近気づいたことだが、サイエンスのレベルの高さと、世界の文脈におけるプレゼンスの程度は、必ずしも相関しない。つまり、良いサイエンスをしているからと言って、それだけで世界の文脈で認知されるとはかぎらない。
ヨーロッパウイルス学会(178話)は、世界の文脈で洗練されていた。一方で、このマレーシアでの「世界ウイルス学会」は、世界の最先端のサイエンスを吸収しようとするマレーシアの参加者たちの貪欲な意欲に溢れていた。
翻(ひるがえ)って、日本の「アカデミア(大学業界)」はどうだろうか。日本のアカデミアは、ヨーロッパウイルス学会のように、世界の文脈で円熟し、プレゼンスを示せているのだろうか? あるいは日本のアカデミアには、このマレーシアでの国際会議や、その参加者たちのような貪欲さはあるだろうか?
【体調改善策?】
閑話休題。この旅を続けるために大切なのは、なにより私の体調である。
しかし繰り返しになるが、胃腸の異常は感じないし、熱もない。
その原因を悶々と考えているうちに、なにかをきちんと見よう、読もうとするとフラフラする、ということに気がついた。特に、スマホやパソコンの画面を見ているとフラフラする。
――これはもしかして、眼精疲労?
そこで、スマホやパソコンを見るときには老眼鏡をかけるよう努めると、だいぶ改善した気がする。
62話でも書いたが、老眼が進むにつれて、薄暗い場所だと特にピントが合わなくなってしまっていた。そして、海外の学会場やホテルの照明は得てして、日本のそれらに比べて薄暗いことが多いのである。この疲労はもしかして、ピントが合わない目からくるものなのか?
そのようにして、老眼鏡を持って参加した「ガラディナー(最後の夜の晩餐会)」。マレーシアはイスラム教の色濃い国なので、こういう会食にはアルコールは出てこないようだった。その代わりにサーブされた甘いジュースで喉を潤し、マレー料理をつまみながら、ステージ上の伝統芸能を眺めた。
(左)ガラディナーでの催し。マレーシアの伝統芸能のお披露目。こういう催しは、海外の国際会議あるある。(右)アルコールの代わりに提供された、謎の甘い飲み物。地元の参加者いわく、「色をつけたただの砂糖水」らしい。
【クアラルンプールの夜】
そして、クアラルンプール最後の夜。めまいは相変わらず治らなかったが、老眼鏡という打開策は手に入れた。胃腸にも問題はない。そうであれば、念願の「アロー通り」である。
ひとりで繰り出す初めてのクアラルンプールの夜。むせかえる熱のこもった湿気や、時折どこからか香ってくるドリアンのにおい、ピロティの歩道など、ふと気を抜くとシンガポールにいると錯覚する。
ドリアンの露店。アロー通りで結構みかけた。3月にシンガポール(173話)で食べた「猫山王」という品種は特によく見かけた。日本のりんごの「ふじ」とかぶどうの「巨峰」のようにメジャーな品種なのだろうか?
しかし、シンガポールと比べて明らかに違うのは、街を歩く「ヒシャブ(イスラム教の女性が被るフードのような布)」を纏(まと)う女性の割合の高さと、遠くからたまに聞こえる「アザーン(イスラム教の礼拝の時間を告げる呪文のような音楽。73話や102話も参照)」。視覚と聴覚から、ここがシンガポールではなく、イスラム教の色濃いマレーシアであることを思い出す。
通りに並ぶ露店をひと通り冷やかした後で、適当な飲食店のテラス席に腰をかける。イカや牛肉の黒コショウ炒めをつまみながら、「アンカービール」というマレーシアの国産ビールをぐびぐび飲んだ。
晴れた夜、東南アジアのテラス席で、汗ばみながら冷えたビールをぐびぐびと飲むシーン。
これで、このマレーシアでの用務は完了である。
(左)マレーシア唯一の国産のビールであるという「アンカービール」とイカの黒コショウ炒め。(右)牛肉の黒コショウ炒め。経験上、「黒コショウ炒め」にハズレはない。
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