
村上隆保
むらかみ・たかほ
村上隆保の記事一覧
編集者/ライター
『週刊プレイボーイ』では、特集記事のほかに爆笑問題、リリー・フランキー、ひろゆきの連載を担当。
公式X【@takapoda4】
2022年のW杯カタール大会、日本代表は決勝トーナメント1回戦でクロアチアと対戦。1-1の同点で延長戦が終了し、PK戦の末に敗れた
決めたらヒーロー!? 外したら"戦犯"扱い......。PK戦は選手も見る側も緊張する場面だ。しかし、その結果は運次第ではない! PKを高確率で成功させる技術があった!!
新人トヨタ お疲れさまです!
先輩T おう、お疲れ! 日本は負けちゃったけど、W杯は盛り上がってるよなあ。
新人トヨタ そうですね!
先輩T 決勝トーナメント1回戦のドイツ対パラグアイの試合見たかよ。PK戦の末、3-4でパラグアイが勝ったんだぜ。しびれるよな。
新人トヨタ しびれます!
先輩T トヨタも世界の舞台で活躍して、PKを決められるような男になってほしいな。要するに〝世界のトヨタ〟になってほしいってことだ! 頑張れよ!
新人トヨタ わかりました! じゃあ、早速取材に行ってきます!
先輩T えっ!? どこに取材に行くの?
新人トヨタ 世界の舞台でPKを外さないようにするにはどうすればいいか、専門家の先生に聞いてきまーす!
先輩T いや、そういうことじゃなくってさぁ......。
確実にPKを決めるため、専門家に話を聞きに行く週プレの新人トヨタ
* * *
ということで「PKは運」といわれることもあるけれど、本当に運なのか? それとも技術でカバーすることができるのか。作新学院大学で応用スポーツ心理学を研究している笠原彰(かさはら・あきら)教授に聞いた。
――早速ですが、PK成功は運ですか? 技術ですか?
笠原 メンタルも含めた技術です。高校の部活など、ある程度サッカーをやっていた人であれば、かなりの高確率で決められます。
――その成功率ってどれくらいなんですか?
笠原 研究にもよりますが、練習だとほぼ100%。試合中の反則によるPKだと80%。引き分け後のPK戦だと最悪60%以下まで落ちます。
2010年のW杯南アフリカ大会、決勝トーナメント1回戦のパラグアイ戦でPKを見守る日本代表の選手たち
――PK戦だと成功率が下がっていますが、何が影響しているんですか?
笠原 熟練者はPKを蹴る動きが体に染みついていて自動化されているので、練習だとほぼ確実に入ります。でも、試合だとプレッシャーがかかって考えすぎてしまい、自動化の動きが乱れる。それで成功率が下がるんです。
――自動化の動きが乱れるというのは?
笠原 例えば、普段よりも急いで蹴ってしまう。考えすぎたりプレッシャーがかかっていると、そこから早く逃れたいために慌てて蹴ってしまいます。そうすると外しやすい。
ですからPKを決めたいのであれば、審判のホイッスルが鳴ってすぐに蹴るのではなく、ゆっくりと間を取って蹴ったほうがいい。成功率が89%で〝PKの名手〟といわれた遠藤保仁(現ガンバ大阪コーチ)さんは、ホイッスルが鳴って助走をするまでに平均6.4秒かけています。
新人トヨタがつかんだPKの極意① 審判のホイッスルが鳴ってもすぐには蹴らない。ゆっくりと間を取る
――かなり長いですね。
笠原 また、PK戦になると、ハーフウエーライン付近に選手が集まって、そこからひとりずつペナルティスポット(PKを蹴る場所)に歩いていきますが、そこもゆっくり歩いたほうがいい。
かつて「イングランド代表はPK戦に弱い」といわれていました。そして、ある代表監督がPK戦の動画を見ると、選手がハーフウエーラインからペナルティスポットまで早歩きしていることに気づいたんです。
そこで、ゆっくりと歩くように指導すると成功率が上がりました。PKを決めるには、自動化された動きを乱さないために、ゆっくりと動くことが重要なんです。
――ゴールのどこを狙ったら、決まる確率が高くなるとかはあるんですか?
笠原 ゴールキーパーがゴールの真ん中に立っていた場合、両サイドの上部は届かない場所です。ここに確実に決められるなら100%でしょう。しかし、ゴールポストの上に外してしまうリスクがある。そうなると両サイドの下部ということになります。
ここは両サイドギリギリに蹴ることができれば決まりますが、少しでも内側に入ってしまうと止められる可能性がある。
PKでキーパーが左右のどちらに跳んだかというデータがあり、右が44.4%。左が49.3%です。そして、真ん中で待っていたのはわずか6.3%。90%以上の確率で決まります。
ゴールキーパーは90%以上の確率で、左右どちらかに跳ぶ。動かずに真ん中で待つことは10%以下だ
キーパーからすると、真ん中で待っていて左右のどちらかに決められると、仲間から『なんで跳ばないんだよ』と批判されることがあるので、どうしてもどちらかに跳んでしまいがちです。
ただ、一方のキッカーも、真ん中に蹴ると仲間から『なんで隅を狙わないんだよ』と言われかねない。プレッシャーに負けず、普段どおりに蹴れる人なら左右の上部(図1、4)を狙ってください。自分がプレッシャーを受けやすいタイプなら、ど真ん中(同9)がいいかもしれません。
ゴールを9つに分割した場合、どこに蹴るのが一番決まりやすいのか? あなただったらどこを狙いますか?
――よく、目の動きで蹴るコースをキーパーにわからせないように下を見たり、後ろを向いたりする選手もいますが、あれはどうなんですか?
笠原 表情や姿勢とメンタルは連動しているといわれています。ですから、キーパーを見なかったり、後ろを向いていたりすると、視線回避といって少し消極的になってしまいます。
逆にポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドなどは、キーパーに向かって仁王立ちのような姿勢で対峙しています。これはパワーポーズというのですが、この姿勢を取ることで、自信を持って蹴ることができるのです。
新人トヨタがつかんだPKの極意② 左右のコーナー上部ギリギリに決める自信がなければど真ん中に蹴る
――じゃあ、正面を向いてキーパーをにらみつければいいんですね。
笠原 いや、にらみつけるのはダメです。顔と自律神経は連動していて、目に力が入ると、首や肩が緊張して、全身に力が入ってしまいます。すると、本来の動きができなくなってしまう。ですから、目の力は抜いてリラックスした状態にしておきたい。そのためには、ボヤッとした感じでキーパーを見ておいてほしいです。
――わかりました。ボヤッとするのは得意です!
笠原 そうなんですね(笑)。アスリートは試合で動いているときはよけいなことを考えたり、プレッシャーを感じたりすることは少ないんです。待っているときや歩いているときによけいなことを考えてプレッシャーを感じてしまう。
だから、そんなときはボーッとしたり、歌を歌ったりするといい。歌は副交感神経の働きを高めてリラックスできます。鼻歌でも効果があります。
――じゃあ、待っている間はみんなで鼻歌を歌っていればいいんですね。あと仲間からPKを蹴る選手にかけたほうがいい言葉とかありますか。「ぶちかましてこいよ!」とか。
笠原 この言葉をかけるとゴールが決まりやすくなるという魔法の言葉は残念ながらありません。「決めてこいよ!」などと言うと不安になってしまう選手もいるでしょう。
「絶対に優勝するぞ!」などという未来のことよりも、今、この瞬間にできることを言ったほうがいいと思います。例えば「自分のルーティンをきっちりやろう」「ペナルティスポットまではゆっくり歩こう」などです。そうしたプロセスにフォーカスさせると選手はゾーンに入りやすく、PKの決まる確率が高まります。
新人トヨタがつかんだPKの極意③ ゴールキーパーをにらまない。笑顔で鼻歌でも歌ってリラックスする
――重要なのは、自分の普段の力を出せればPK戦では高確率で決まるということですよね。そのためにはPKの練習をきちんとしておけばいいんですよね。
笠原 まあ、そうなんですけど、PKって練習の最後にちょっとだけ、それもひとりだけでやったりしますよね。そうじゃなくて、できるだけ試合と同じような状況でやってほしいんです。
2チームに分かれて、ハーフウエーラインで待つところから始めてほしい。そして、観客の声などを流して、PKの練習の様子を動画に撮ってコーチが評価するとか、本番とまったく同じでなくてもいいんですが、ある程度のプレッシャーをかけておかないといけない。
そういうトレーニングをすることで、本番では普段の実力が出せるようになるはずです。
――なるほど、わかりました。ありがとうございます!
* * *
新人トヨタ あはははは。せんぱ~い。取材に行ってきましたよぉ~。♪~ふん、ふん、ふん、ふん。
先輩T なんか鼻歌なんか歌っちゃって楽しそうだな。
新人トヨタ えへへへへ。PKを決めるには笑顔と鼻歌が大切だって言われました。これで僕も〝世界のトヨタ〟になれます!
先輩T なら、良かった......。ちなみにトヨタは、学生時代サッカー部だったからPKに興味があったのか?
新人トヨタ いえ、ラクロス部です。サッカーはやったことありません。
先輩T なんでやねん! もういい、終わりだ!