
ひろゆき (西村博之)
にしむら・ひろゆき
ひろゆき (西村博之)の記事一覧
1976年生まれ、神奈川県出身。元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
「アメリカ中西部からカナダにかけての 肥沃な土は、半分の厚さにまで減っています」と語る藤井一至氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との対談も最後になりました。そこで今回は「土の未来」について聞いています。どうやら、世界の土は減っているらしいです。では、どうすればいいのでしょうか?
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ひろゆき(以下、ひろ) 先生との対談も今回がラストです。そこで、今回は「土の未来」について教えてください。
藤井一至(以下、藤井) 今、世界では土がどんどん失われています。ビル・ゲイツが以前「オイルだけでなくソイル、つまり石油だけでなく土の話をしたほうがいい」と言っていたくらいです。
ひろ ゲイツが言うと急に説得力が増しますね。
藤井 同じことを私が言うとポジショントークに聞こえるんですけどね(笑)。
ひろ でも、日本では土が減っている感覚ってあまりないです。
藤井 より実感しやすいのは、北米でしょうね。アメリカ中西部からカナダにかけて、プレーリーと呼ばれる大草原地帯があります。その草原の下には、もともと黒くて肥沃な土が分厚く積もっていました。ところが今はその黒い層が半分の厚さにまで減ってしまった。
ひろ どうして減っちゃったんですか?
藤井 大きな理由は土を耕すからです。トラクターのような重い機械を入れると土が押し固められます。それを軟らかくしようとして耕すと、今度はほぐれた土が風で飛んでいってしまうんです。
ひろ でも、土って耕したほうがよさそうな気もしますけど。
藤井 そこが難しいところで、耕すこと自体が悪いわけではありません。土によっては耕さないと作物が育ちにくい場合もあります。例えば、ガチガチに固まった土や、ネバネバ、ベチャベチャした土は、そのままだと水や空気が中に入っていきません。植物の根にとって大事なのは、土の粒そのものよりも粒と粒の間の水と空気の通り道です。日本や東南アジア、アフリカには、そういう手を入れなければいけない土がたくさんあります。
ひろ 北米は事情が違うんですね。
藤井 そうです。北米の乾燥地の土は、もともと軽くて風に飛ばされやすいんです。氷河期に削られた細かい砂が風で運ばれて積もったような土なので、最初からフカフカしている。だから、耕してほぐす必要があまりない。
ひろ じゃあ、なぜ耕していたんですか?
藤井 理由は水です。日本は年平均で1700mmくらい雨が降ります。しかし北米の乾燥地は500mmくらいです。どれだけ肥料を入れても品種を工夫しても、水が足りなければ作物は育たない。つまり、食料生産の上限を決めているのが水なんです。そこで生まれたのが、畑を1年休ませるという発想です。
ひろ どういうことですか?
藤井 作物を植えなければ、その年に降った雨を土の中に残しておける。翌年、その水を使って作物を育てれば、1年分の雨だけで育てるより収穫が安定するわけです。
ひろ でも、畑を1年休ませるといっても、ただ放っておけばいいわけではないですよね。
藤井 そうなんです。作物を植えなければ、その年に降った雨を土の中に残せますが、何もしないと雑草に水を取られてしまう。そこで、土の表面を削って雑草を抑えたり、地下から水が蒸発して逃げないようにしたりする。これが「サマーファロー」という技術で、150年ほど前には画期的なイノベーションでした。
ひろ でも、雑草を抑えるために土を削ったら、今度は土が飛びやすくなりますよね。
藤井 まさにそこが問題でした。その反省から、今アメリカで広がっているのが不耕起栽培です。要は土を耕さない農業。硬くなった土を機械で耕し、飛ばしてしまうくらいなら、最初から耕さないほうがいい。その延長に「リジェネラティブ農業」、つまり環境再生型農業があります。
ひろ 土を守るために、耕さない方向へ進んだと。
藤井 この環境再生型農業が注目されている理由は、土を回復させるだけではありません。もうひとつ大きいのが、温暖化対策につながるかもしれないという点です。もともと森林や草原だった土地を畑に変えて耕すと、土の中に蓄えられていた炭素が二酸化炭素として大気中に出ていきます。だったら逆に、植物や家畜のふんなどの有機物を土に戻していけば、その炭素をもう一度、土の中に蓄えられるのではないかという考え方です。
ひろ なるほど。
藤井 しかも、この仕組みはビジネスにもなっています。企業には、自分たちが出した二酸化炭素をできるだけ減らしたい、あるいは実質ゼロに近づけたいという需要があります。でも、経済活動をしている以上、自社の努力だけでは減らしきれない。そこで別の場所で二酸化炭素を吸収してもらい、土に固定した分をクレジットとして買う市場があるんです。
ひろ つまり、農家が土に炭素をためるとその分が企業に売れる。
藤井 そうです。例えば、農地で二酸化炭素を固定できたと認められれば、それがお金になる。アメリカの農家は1000ヘクタール単位で土地を持っていますから、規模が大きいぶん、ビジネスとしても成立しやすい。
ひろ かなり良さそうなアイデアですね。
藤井 アメリカの乾燥地では、かなり合理的な考え方だと思います。土を守れるし、水も逃がしにくい。さらに炭素を土に戻せるなら、環境対策にもなる。ただ、それはあくまでアメリカの土と気候を前提とした話です。それが、アメリカで「土を耕さないほうがいい」という話が出ると、日本でも「まだ耕しているのか」と言われる。そうやって日本に不耕起栽培が〝直輸入〟されると話がおかしくなるんです。
ひろ 土も気候も水の豊かさも、だいぶ事情が違いますもんね。
藤井 そうです。さっき話したように、日本には耕さないと水も空気も入らない土があります。田んぼなんて毎年きちんと土を耕して、平らにしなければいけない。それなのに「耕すのは遅れている」とは言えません。
ひろ 気をつけないと、不耕起栽培がいつの間にか「意識の高い農業」みたいになって、技術じゃなくて思想になっていきそうですね。
藤井 そうなんです。不耕起栽培という言葉はキャッチーですから、「土を耕すのは愚かだった」「これからは自然に任せるべきだ」という話になりやすい。でも、単純にそういう話ではありません。
ひろ 不耕起栽培そのものが、いい悪いではない。
藤井 日本でも、火山灰の土のように、もともとフカフカで無理に耕さなくてもいい場所はあります。省力、省コストの意味でも、不耕起には可能性がある。農家にとって機械代は大きな負担ですから、耕さずに成立するならそれは十分に有益なんです。
ひろ ただし、土に合っていれば。
藤井 そこが大事なんです。農業の厄介なところは、土が同じではないということです。どこかの国で成功した方法をそのまま輸入してもうまくいきません。自分たちの足元にどんな土があり、そこで何を作ってきたのかを見ることです。土の未来は、そこからしか始まらないと思います。
ひろ 藤井先生、長い間ありがとうございました。
藤井 こちらこそ、ありがとうございました。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
■藤井一至(Kazumichi FUJII)
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など





