ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

近ごろ無性に、もりもりとスパゲティをほおばりたい欲が湧いている。

40数年の人生において、「今日のランチはパスタの気分♪」とか、「駅前にできた話題のパスタ屋さん、いつ行ってみようかな?」なんて思ったことは皆無だから、その理由はあやふや。強いて言えば、仕事で短期間に何度かパスタを食べる機会があって、その良さにいまさら気づいたということだろうか。パスタ好きの方からしてみれば「は? なにを言ってんの?」という話だろうが、僕の食の好みは極端なので、そういうことはよくある。

さて、もりもりとスパゲティをほおばりたい。ある日、その欲がマックスに高まった。しかも、味はだんぜん、ミートソース! ひき肉たっぷりの、味の濃いぃ~ミートソーススパゲティを、無心でズバズバとすすりまくりたい。地元エリアにおいて、その気持ちを満たしてくれる店、どこだろう? と考えをめぐらせていたら、ひとつ思い出したことがある。

先日妻が、「最近、こんなのやってるらしいよ」と見せてくれたチラシだ。そこにはおなじみのファミリーレストラン「ガスト」が、新しく、いわゆるメガ盛り系のメニューを提供しだしたという情報が記載されていて、いくつかのメニューに混じってミートソーススパゲティがあり、その写真を見て、ごくりとのどが鳴ったのだった。今こそ! と、僕は地元駅前のガストに向かった。

「ガスト」 「ガスト」
席に着き、すでに目的は決まっているものの、一応すべてのメニューに目を通す。するとやはり、ガストってこんなにもだったっけ!? という幅広い品揃えに目移りしてしまう。特に「お値打ちガスト」と銘打たれたシリーズの、直径約24cm、税込み500円だという「たっぷりマヨコーンピザ」や、期間限定で博多の「やまや」とコラボした「博多明太もつ鍋」(なんとごはんつきで1200円)には心を揺らがされたが、やはり初志貫徹。ここはお目当ての「富士山大盛りミートソース」(950円)を選ぶことにしよう。

こんど食べに来よう こんど食べに来よう ガストのがっつりごはんシリーズ ガストのがっつりごはんシリーズ
タブレットで選択するとさらにトッピングメニューが表示され、「ミニハンバーグ」「うすカツ」「目玉焼き」など魅惑の品が並ぶが、今日頼むのは、そもそも食べきることができるかどうかすら不安な大盛りスパゲティ。そのあたりは様子見にして、味変用に「粉チーズ」(50円)のみ追加する。

ちなみに説明不要かもしれないが、ガストは飲み屋としても超優秀。特に平日の10時半~夕方6時までのハッピーアワーは天国で、つまり今。当然、「甘くないレモンサワー」(300円)もつけてしまおう。

「富士山大盛りミートソース」 「富士山大盛りミートソース」
数分後、レモンサワーと富士山大盛りのミートソーススパゲティが到着。目の前にしてみると、あれ? いわゆる TV番組などで見る、とてもじゃないけど素人が太刀打ちできる感じじゃないメガ盛り料理ほどじゃないな(当たり前か)。むしろなんだか、これくらいならぺろっといけてしまいそうな気がする。ではでは、いただきま~す!

で、まず、自家製だという太麺パスタ。その、もちもちぷりぷり、さらに表面のつるつる感がとてもいい。これは確実に、専門店に引けを取らない絶品だ(専門店の味もたいして知らないくせに言ってるけど)。それから、麺が大盛りなので目立ちづらいけれども、たっぷりのミートソースがまたいい。濃厚でほんのり甘酸っぱく、そこにひき肉の旨味ががつんと加わる。そうそう、この直球さ。あぁ、求めていたのはこの体験!

食べても食べても、麺! 食べても食べても、麺!
と、序盤は実に快調に食べすすむが、半分くらい食べたところで、近年めっきり食の細くなった僕は、当然お腹がいっぱいになってくる。この時点ですでに確信している。こりゃあ、今日の夜はなにも食べられないな......。

とはいえ、その後をただ惰性で食べきったわけではない。というか、さすが天下のガスト。この富士山大盛りミートソースには、最後まで飽きずに食べられる工夫がきっちりと用意されているのだった。

まずは当然、トッピングの粉チーズや、タバスコ。粉チーズは最初からかかっていたものの、ザザッと追いチーズをすると、味も食感も変わり、やっぱりうまい。

粉チーズをどさりとかけ 粉チーズをどさりとかけ タバスコをふって タバスコをふって
さらに麺を食べすすめると、実はその下に、珍しくも、たっぷりのゆでキャベツが隠れているのだった。

ん? キャベツ!? ん? キャベツ!?
しゃきしゃき食感がしっかり残り、とても甘いこのキャベツが、ミートソース一辺倒気分をリフレッシュさせてくれる。 パスタ、キャベツ、パスタ、キャベツと交互に食べるのもいいし、終盤戦、こいつらを思いきって混ぜてしまうと、「キャベツミートソーススパゲティ」という、まったく新しいメニューに生まれ変わってしまうくらいの新鮮さがある。いける! これなら、まだ食べられる!

新しい美味しさ 新しい美味しさ
というわけで、食べはじめ当初の勢いはすっかりなくなってしまったけれど、ちびちびとこのスパゲティをつまみつつ、おかわりした「グラスワイン(赤)」(200円)をやる時間も、また優雅なのだった。

大満足 大満足
大好きでありながら、かなり久しぶりに訪れたガスト。気になるメニューがまだまだあったし、なにしろ、昼飲みの満足度をいかに高められるかの組み合わせを考えるのがあらためて楽しそうだ。次回は、もつ鍋かマヨコーンピザを中心に攻めてみようかな。

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パリッコ

パリッコぱりっこ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X【@paricco】

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