【現地ルポ】停戦合意後もイスラエルが破壊し続けるレバノン南部の惨状と"希望の光"

取材・文・撮影/八尋 伸

イスラエル軍によって爆撃されるナバティーエの中心部。この日は早朝から激しい攻撃が続いていたイスラエル軍によって爆撃されるナバティーエの中心部。この日は早朝から激しい攻撃が続いていた

イランの出先機関「ヒズボラ」の拠点としてイスラエルから"報復攻撃"を受けるレバノン。死者が増える中、一般市民を中心としたボランティアの救急隊が負傷者の救出を担っていた。激戦区ナバティーエの救急隊に密着取材した写真家が見たものとは?

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【イスラエルによる一般市民を狙う攻撃】

イスラエルの攻撃・侵攻を受けるレバノンの情勢 イスラエルから特に激しい攻撃を受けているのが「攻撃エリア」で、首都のベイルートと南部に集中している。取材に行ったナバティーエは、すでに占領されている地域との境に位置する重要地区。今回、イスラエルが休戦ラインを越えて攻撃したことが問題視されているイスラエルの攻撃・侵攻を受けるレバノンの情勢 イスラエルから特に激しい攻撃を受けているのが「攻撃エリア」で、首都のベイルートと南部に集中している。取材に行ったナバティーエは、すでに占領されている地域との境に位置する重要地区。今回、イスラエルが休戦ラインを越えて攻撃したことが問題視されている

今年2月末に始まったアメリカとイスラエルのイラン攻撃をきっかけに、親イラン武装組織ヒズボラがイスラエルに報復攻撃を行なった。

それを受けたイスラエルは、国境を挟み北に位置するレバノン南部にヒズボラの拠点があるとして侵攻を開始。4月にはイラン戦争の停戦が発効され、その後延長されるもレバノン南部での戦闘は続いていた。

今月4日にはアメリカの仲介でイスラエルとレバノンが停戦に合意したが、イスラエルのカッツ国防相は南部地域への攻撃は継続すると表明しており、攻撃がやむ見通しは立っていない。多数の一般市民も犠牲になっており、レバノン国内の死者は3500人以上に上っている。

レバノンの上空を飛ぶイスラエル軍の戦闘機。ケガ人の救護に来た人を攻撃する「ダブルタップ」という手法で、多くの人命を奪ってきたレバノンの上空を飛ぶイスラエル軍の戦闘機。ケガ人の救護に来た人を攻撃する「ダブルタップ」という手法で、多くの人命を奪ってきた

その現地取材も終わりに近づいた5月末のある日、私はレバノン南部の町、ナバティーエ近郊の救急隊員の宿舎にいた。

そこからは、戦略的要衝「ボーフォール城」を巡ってイスラエル軍とヒズボラが激しい戦いを繰り広げているのを遠目に見ることができ、城の周りは爆発の粉塵や煙でモヤがかかっていた。イスラエル軍の空爆や戦車の砲撃の音、そして自爆ドローンで戦っているのだろうか、爆発音が時たま鳴り響く。

「また戦争が変わったなあ」と、そんなことを考えていたら視界の隅をハエのような小さな塊が「シュンッッ」とかすめ、その瞬間、「バガンッッッ!!」と爆発が起こった。

私がいた場所から50m横を走っていた車両をイスラエル軍のドローンが爆撃したのだった。油断していた私は、持ってきていた防弾チョッキとヘルメットを装着していなかったことを激しく後悔した。

なぜ後悔したのかというと、救急隊員など医療従事者を狙った「ダブルタップ」と呼ばれる攻撃が頻繁に行なわれていたからだ。これは、初めの爆撃で負傷した人を助けるため救急隊などが集まったときに時間差で再び爆撃するもので、1撃目をしのいでもまったく油断できないことを意味する。

早朝の激しい空爆の中でも寝ていた救急隊員たち。そのほとんどがボランティアの一般市民で構成されている早朝の激しい空爆の中でも寝ていた救急隊員たち。そのほとんどがボランティアの一般市民で構成されている

武力紛争下で医療従事者や医療施設を意図的に攻撃することは、国際人道法上の戦争犯罪として禁じられているが、イスラエルはお構いなしだ。レバノンの救急隊員は多くのボランティアで構成されており、一般市民が中心だが、取材したナバティーエの救急隊チームも戦争が始まってから3人が殺害されている。

ほかの街の救急隊員にも話を聞いたが、漏れなくどの隊も隊員をダブルタップで失っていた。この戦争での医療従事者の死者数は、5月の時点で110人以上と報告されている。

ある隊では初撃でシリア人が攻撃され、それを助けようとしたレバノン軍の兵士が攻撃され、またそれを救助しようとした隊員が再び攻撃される「トリプルタップ」により3人が亡くなったという。そしてなぜそこが爆撃されたのかもわからないそうだ。

レスキュー隊が救助に向かうときには、イスラエル軍に攻撃をしないよう要請を出すこともあるそうだ。だが、それは認められることもあれば、無視されることもあるという。レバノン国内なのに、イスラエル軍の顔色をうかがわなければならない不思議な状況が出来上がっている。

先ほどの話に戻ると、イスラエル軍のドローン攻撃によって車両が爆撃されたとき、車の破片が白い煙の帯を引きながら飛んでいくのがはっきりと見えた。いつもはすぐさま近づいて撮影するのだが、防弾チョッキを着ていなかったために、その車両へ近づくのをためらってしまった。

攻撃がないと判断して近づいたときには、救助作業はほとんど終了していた。ただそれは救助というよりは、炎上した車両の消火活動と遺体の後処理だった。

担架には、運転席に座っていたであろう人物の下半身だけが、焼け焦げた靴を履いたまま乗せられていた。なんともいえない空気が現場に漂っていた。帰着後は隊員が使用した担架を洗っており、それに付着した体液にはすでに大量のハエがたかっていた。

イスラエル軍のドローンに爆撃されて燃えた車両。救急隊が消火したが、運転席にいた人物の遺体は下半身しか残っていなかったイスラエル軍のドローンに爆撃されて燃えた車両。救急隊が消火したが、運転席にいた人物の遺体は下半身しか残っていなかった

【ボランティアによる献身的な救助活動】

ナバティーエの救急隊員は、全員がボランティアだ。彼らの職業は銀行員、大学生、薬剤師、理容師などさまざま。救助活動のほかに住民の食料支援や避難援助の活動も行なっている。

なぜこんな危険な任務に当たるのか。彼らは皆一様に、「こんな状況で人のためになるならば」と答える。いつ爆撃されるかもしれない中、無償で命がけの救助活動を続ける彼らのその言葉に嘘はない。隊員たちの中には自分の家が爆撃で破壊された者や親類を失った者も多くいた。

ひょっこり来た外国人の私に、そんなことをみじんも感じさせず笑顔でもてなしてくれた彼らには、尊敬の念しか湧かない。私は「そんな状況で同じように振る舞えるだろうか?」と自分に問うた。

ナバティーエの街から避難してきた住民たちが、別の街へ移送されていた。住民の避難や食料配給も救急隊が担っているナバティーエの街から避難してきた住民たちが、別の街へ移送されていた。住民の避難や食料配給も救急隊が担っている

自前で作った夕食を食べる隊員たち。厳しい状況の中でも、「困っている人がいるから」という理由で救助活動を続けていた自前で作った夕食を食べる隊員たち。厳しい状況の中でも、「困っている人がいるから」という理由で救助活動を続けていた

ある日、救急隊の宿舎で一晩過ごした。連日の取材に疲れて眠りに落ちていると、私のスマートフォンからけたたましいアラート音が鳴り響いた。退避しろというイスラエル軍からの警告が表示されていた。その瞬間、衝撃で窓がビリビリと揺れるほどの砲撃が始まった。イスラエル軍が攻撃を始めたようだ。

ヘルメットをかぶり、伏せながらテラスに出ると、暗闇の中にボウッと燃える炎が確認できた。自分がいる場所から300mくらいの所に着弾していた。

その後も朝になるまで激しい空爆が続いたが、それも昼前には落ち着いた。すると、普段は姿を見せないイスラエル軍のドローンが低空飛行で宿舎の周りを旋回し始めた。今思えばこれは攻撃対象を捜索していたのだろう。

昼頃、私は防弾チョッキを着直してカメラをセットして昼食をかき込んでいた。すると、かすかに「シューン」と音が聞こえてきて、皆が察し静かになった瞬間に再び「バガンッ!!」と近い距離で爆発した。

距離は近いがどこを爆撃されたのかわからずにポイントを探していると、再び「シューン」と聞こえ、その瞬間に2発目が着弾した。すでに2発のミサイルが近距離に発射されたのでダブルタップの可能性は低いと判断したのか、レスキュー隊は出動した。次のミサイルを積んだドローンが来る前に猛スピードで現場に向かう。

現場にはふたりの男性が倒れており、街路樹の葉や土が散らばっていた。遠目で見たところ肉体の激しい損傷は見当たらないが、爆撃の衝撃や破片の被害を受けたことは見てとれる。ケガ人なのかもうすでに事切れているのかわからないが、隊員たちは爆撃の恐怖を押し殺すかのような必死の形相で、急いで男性を救急車に乗せた。

上空ではさっきまで聞こえていなかった戦闘機の飛翔音が響き渡っている。男性ふたりはバイクで走っていたところをドローンで爆撃されたようで、ひとりは負傷、もうひとりは亡くなっていたそうだ。

バイクを運転していたところ、イスラエル軍のドローンに爆撃された男性を救助する隊員たち。上空では戦闘機の音が響いていたバイクを運転していたところ、イスラエル軍のドローンに爆撃された男性を救助する隊員たち。上空では戦闘機の音が響いていた

【未来への希望】

レバノンは多様な宗教・宗派が混在する〝モザイク国家〟であり、その地政学的な位置から、常に近隣諸国の利害対立や地域紛争の舞台となり、レバノン人たちは絶えず翻弄されてきた。取材では政治的な質問もしてきたが、政治的な意見を表明するにはそれなりの覚悟が必要で、答えを濁す人が多い印象を持った。

救急隊員たちはそんな問題とは関係なく、困難な状況にある人々を助けたいと集まった。私はそんな彼らにレバノンの未来への希望を感じ、彼らのためにも一刻も早く戦争が終わることを願ってやまなくなった。

  • 八尋 伸

    八尋 伸

    やひろ・しん

    1979年生まれ、香川県出身。タイ騒乱、エジプト革命、ミャンマー民族紛争、シリア内戦、東日本大震災、福島原発事故、香港騒乱などアジア、中東の社会問題、紛争、災害などを取材、発表。2022年春にも2ヵ月近くにわたってウクライナ取材を行なう。

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