
ひろゆき (西村博之)
にしむら・ひろゆき
ひろゆき (西村博之)の記事一覧
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など
「老化細胞を除去する、老化の根本原因を減らす。ふたつの方向で研究が進んでます」と語る小林武彦氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。生物学者の小林武彦先生との対談の9回目です。小林武彦先生の専門は「老化の研究」です。そこで、老化研究の最先端を聞いてみました。すると、マウスの実験では老化細胞を除去できたり、ある程度寿命が延びたりしているようです。
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ひろゆき(以下、ひろ) 先生の本業は老化の研究ですよね。最近は「老化細胞を除去する」みたいな話も聞きますが、結局、老化ってどこまで止められるんですか?
小林武彦(以下、小林) その研究には大きくふたつの方向があります。ひとつは「老化細胞を除去する」。もうひとつは「老化の根本原因を減らす」です。
ひろ そもそも、老化細胞って年齢を重ねると突然できるものなんですか?
小林 いえ、老化細胞は赤ちゃんにもあります。私たちの細胞は、常に入れ替わっているんです。例えば、皮膚なら古い細胞はあかになって落ちる。ですから、細胞が老化すること自体は普通です。
ひろ 老化細胞ができることは問題ではないと。
小林 はい。問題は「年を取ると老化細胞を捨てられなくなる」ことです。若いうちは、免疫細胞が古くなった細胞を捨ててくれます。ところが、年を取ると免疫細胞の力が落ちて老化細胞が体の中に残るようになる。
ひろ ということは、老化ってゴミが増えるというより、ゴミの収集ができなくなる感じですね。
小林 そうです。しかも、老化細胞はただ残っているわけではなくて、「自分は古いから片づけてくれ」と炎症に関わる物質を出して免疫細胞を呼ぶんです。
ひろ つまり、炎症って本来は悪いものじゃないんですね。
小林 生きるのに必要な反応です。若いうちはシグナルが出るとすぐに免疫細胞が片づけてくれる。でも、年を取ると炎症反応は出ているのに、免疫細胞がなかなか来てくれない。理由は免疫細胞の量が減ったり、処理能力が落ちたりするからです。
ひろ なるほど。
小林 そのため老化細胞は炎症物質を出し続けることになる。すると肝臓、腎臓、肺、脳など、体のあちこちで小さな炎症が慢性的に起きるようになります。
ひろ そういう体の中で起きている炎症って、検査でわかるものなんですか?
小林 ある程度はわかります。血液検査では「CRP」という体内にどれくらい炎症が起きているかを見る指標があります。感染症になったときなどは、若い人でもこの数値が上がりますし、年を取ると慢性的な炎症が増えて高くなる傾向があります。
ひろ そうなんですね。
小林 そして、老化細胞が周りの元気な細胞に炎症物質をまき散らして臓器全体の機能を下げます。また炎症が続くと、がんができやすい環境にもなります。
ひろ だったら、老化細胞を取り除けばいいんじゃないですか?
小林 そうですね。実際、マウスでは老化細胞を除去すると若返るし、寿命も延びるんです。でも、人間はそれほど単純にはいきません。老化細胞にも役割があって、例えば皮膚は古い細胞を捨てるときに一緒に不要な菌なども排出しています。
ひろ 老化細胞も人間には必要なものである、と。
小林 そうです。わかりやすいのが小腸です。表面の細胞は数日程度でどんどん入れ替わります。そのときに病原体やウイルスなども一緒に便として捨てています。
ひろ 数日で入れ替わるって、めちゃくちゃ早いですね。
小林 しかも、小腸はあれだけ長い臓器なのに、がんが非常に少ない。その理由として、古くなったり傷ついた細胞をどんどん捨てているからではと考えられています。
ひろ 老化しないというより、老化したものを抱え込まないっていうことですね。
小林 ただ、脳や心臓みたいに簡単に細胞を入れ替えられない場所もある。だから今は、老化細胞をなくすより、老化細胞が出す炎症物質を抑える方向が注目されています。実際、100歳くらいでも元気な人は、CRPの数字が若い人並みに低かったりするんですよ。
ひろ でも、それって細胞が老化した結果の話ですよね。そもそも細胞の老化を抑えることはできないんですか?
小林 そこがふたつ目の話です。これは私が主に研究している分野ですが、DNAがだんだん傷んでくるという問題があります。細胞は新しく入れ替わりますが、DNAは新しい細胞をつくるための遺伝情報なので、ずっと受け継がれていく。特に幹細胞という新しい細胞をつくる細胞は、DNAを使って次の細胞をつくり続けます。
ひろ 新しい製品は作っているけど、基になる設計図はずっと使い続けていると。
小林 細胞は新しくなっても、その基になる設計図はコピーされ続ける。そして、長く使っていると紫外線などによって少しずつDNAに傷やエラーが入ります。すると、新しくつくられる細胞の働きもだんだん悪くなっていくんです。
ひろ 昔のコピー機でコピーした紙をさらにコピーすると、少しずつ文字がかすれていく感じに似ていますね。
小林 近いですね。細胞そのものは新品でも基になる情報が劣化していれば、出来上がる細胞の質は落ちます。がんはそのわかりやすい例ですし、認知症などもDNAの損傷が関係していると考えられています。
ひろ でも、老化や寿命のメカニズムといえば「DNAの端にあるテロメアが短くなると寿命が尽きる」という説が有名ですよね。
小林 細胞が分裂するたびにテロメアが短くなって、あるところまでいくと分裂できなくなるという「テロメア仮説」ですね。ところが、今ではそこまで単純ではないと考えられています。例えば、幹細胞には短くなったテロメアを戻す酵素があります。それにテロメアを戻せないようにしたマウスは、最初の世代では寿命はほとんど変わりませんでした。
ひろ なんでですか?
小林 マウスはテロメアを使い切るほど長く生きていないんですよ。何世代もその状態が続いて、ようやくテロメアが短くなって早死にする。つまり、普通のマウスはテロメアが短くなる前に別の理由で死んでいるんです。
ひろ テロメアは残っているのに、別のところが先に壊れると。
小林 人間の細胞でも、試験管の中では赤ちゃんの細胞が50回くらい分裂するのに対して、高齢者でも40回くらいは分裂する。実際の人間の体内でも、その回数を全部使い切っているわけではありません。「テロメアの長さがそのまま人間の寿命を決める」というほど単純ではないんです。
ひろ じゃあ、どうすれば老化は抑えられるんですか?
小林 そこで私たちが注目しているのが、「傷ついたDNAを修復する能力」です。DNAが傷つくこと自体はゼロにはできない。だから、壊れたらきちんと直せる状態を保てるようにする。
ひろ 壊れない体をつくるんじゃなくて修理能力の高い体をつくる。
小林 そこが今、私たちが研究しているところで、しかもマウスではある程度結果が出ています。
ひろ じゃあ、もう解決しているじゃないですか。
小林 ただ、マウスではできても、そこから人間に持ってくるのが難しいんです。人はもともと寿命が長いですから。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。著書に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(中野信子氏との共著、集英社)など
■小林武彦(Takehiko KOBAYASHI)
東京大学定量生命科学研究所教授。生物科学学会連合前代表。著書に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』『なぜヒトだけが幸せになれないのか』(すべて講談社現代新書)などがある





