モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、「大麻グミ」など新たな危険薬物の蔓延に対する日本社会のもろさを指摘する。

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いわゆる"大麻グミ"を摂取した人が体調不良を訴え、病院に搬送されたという報道が相次いでいます。

まず大前提となる基礎知識を確認しておきます。"大麻グミ"の主成分は大麻由来ではなく、HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)という合成化合物です。

"大麻様(よう)成分"と説明されることもありますが、その実態は、つい最近ラボで生まれたばかりの未知のケミカルドラッグ。そんなシロモノを、専門的な知識もモラルもない業者が「今のところ違法ではない」からといって堂々と販売してきたわけです。

世界各地で合法化・非犯罪化が進んでいる本家の大麻には、おそらく数千年にわたる人類の経験則と、現代の科学的な分析による付き合い方の"How to"が存在します。用法・用量を守るのが鉄則であること、摂取量の閾値は体質による個人差が大きく、その時々の体調にも影響されること。このあたりはアルコールとさほど変わりません。

ところがHHCHは、まだ誰も付き合い方がわかっていない。摂取することはなんの保証もない人体実験に参加するようなものです。多くのケースは「大麻だって世界でどんどん解禁されてるし、大丈夫でしょ」くらいの軽いノリだったのでしょうが、率直に言って無知のなせるわざとしか言いようがありません。

そして皮肉な話ですが、日本におけるドラッグ類の知識の欠如は、「ダメ。ゼッタイ。」型の法律と取り締まりであらゆる議論を封殺してきたことの帰結でもあります。覚醒剤かコカインくらいしかない時代なら"無知の統治"も有効だったかもしれませんが、もはや時代は変わりつつある。

最近、日本国内で覚醒剤や合成麻薬など大量の違法薬物が押収されたとのニュースをよく目にしますが、どうやらメキシコの麻薬カルテルのディストリビューション(流通)ルートにも、すでに日本が含まれているようです。

例えば、今年9月に富山県で押収された113㎏、末端価格約70億円もの覚醒剤も、"運び屋"や"受け取り屋"はロシア国籍やウクライナ国籍の人物で、メキシコから密輸されたものでした。

また、先日の米中首脳会談でも「薬物危機」が議題のひとつになりました。米社会では近年、鎮静剤としても使われる中国産の合成麻薬フェンタニルの依存症患者が激増しています。フェンタニルに動物用鎮静剤を混ぜ込んだ薬物が蔓延しているフィラデルフィアで、ボロボロになった過剰摂取者たちがゾンビのように街をさまよう動画を見たことのある人も多いのではないでしょうか。

世界の麻薬戦争はすでに次のステージに突入しており、日本も例外ではいられない可能性が高い。となると、今後はより "無知の統治"を続けてきたことの副作用が強く出るのではないかと私は危惧します。

日本も麻薬に寛容になれと言いたいのではありません。この現実を受け止め、どうすれば社会的なダメージを抑えられるかを本気で議論したほうがいいということです。

そのために必要なのは、これまでろくに行なわれてこなかった徹底的な知識教育と、その知識に基づいてあらゆる施策(大麻合法化から「ダメ。ゼッタイ。」まで)のメリットとデメリットをしっかりと議論のテーブルに載せることではないでしょうか。

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