日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 音を鳴らしたら死ぬ!大人気ホラーシリーズの第3弾は、世界崩壊の初日を描く!&認知症になってしまった父の謎の半生を追うヒューマンミステリー!

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『クワイエット・プレイス:DAY 1』

評点:★4点(5点満点)

© 2024 PARAMOUNT PICTURES © 2024 PARAMOUNT PICTURES

爽やかな読後感を残す珠玉の娯楽映画

「音」に反応して襲いかかる狂暴なエイリアンが大量に地球にやってきた! ちょっとでも音を出すとたちまち飛びかかられて殺されてしまうので、とにかく静かに息を潜めて過ごす以外にサバイバルする術はない。

『クワイエット・プレイス』シリーズはこのシンプルな設定だけで進行しており、シリーズ3作目となる本作を観るにあたっても、それ以上のことを知っておく必要は一切ない。

この異常エイリアン事態の発端を描く本作は大都会ニューヨークが舞台とあって、これまで以上のスペクタクル場面も盛り込まれているが、末期がんでホスピスに入院していた女性(ルピタ・ニョンゴ)と、ロースクールに通うためイギリスから留学していた男性(ジョセフ・クイン)が偶然知り合い、やがて心を通わせ合うドラマにグイグイと引き込まれる。

監督はニコラス・ケイジ主演の異色ドラマ『PIG/ピッグ』を手がけたマイケル・サルノスキで本作は長編2作目ということだが、ジャンル映画の楽しさを散りばめつつ、確固たるキャラクター造形をベースに心揺さぶるドラマを構築した手腕は突出している。100分という尺も丁度良く、爽やかな読後感を残す珠玉の娯楽作品である。

STORY:音に反応して人間を襲う「何か」によって人類滅亡の危機に瀕した世界を描いたシリーズ3作目。ある日、空から多数の隕石が降り注ぎ、その中には「何か」がいた。ニューヨークでサミラとエリックは街からの脱出を計画する。

監督・脚本:マイケル・サルノスキ
出演:ルピタ・ニョンゴ、ジョセフ・クイン、アレックス・ウルフほか
上映時間:100分

全国公開中

『大いなる不在』

評点:★3.5点(5点満点)

© 2023 クレイテプス © 2023 クレイテプス

どこまでもビューティフルな「認知症の物語」

非常に真面目に作られた、ビューティフルで端正な認知症エクスプロイテーション映画である、と書くと語弊があるのでお断りすると、通常「エクスプロイテーション映画」という言葉には作り手側の(もっぱら下世話な意味での)目論見が前提とされるが、本作を筆者がそのように考えているということでは全くない。

そうではなくて、いかにシリアスな意図や問題提起のもとに作られた作品であっても、それが一種のエクスプロイテーションとして機能してしまうことはある。

これは全くそのような意図なしに作られたシリアスな悲劇が「ティアジャーカー(お涙頂戴)」として機能してしまうのと似ている。

本作の場合でいえば、超高齢化社会を生きる観客にとって認知症は極めて身近で切実なテーマであるにも関わらず、それを巡るやりきれなさや悲劇性を極めてビューティフルな語り口で描いてしまったがゆえ、そう受け取る余地が生まれてしまったということなのではないかと思う。

これを端的に受け手(=筆者)の問題だと言うことはもちろん可能だが、夢想的なまでにビューティフルな「認知症の物語」を前に、一体これをどう受け止めたものか当惑させられてしまうのだ。

STORY:幼い頃に自分と母を捨てた父が逮捕された。連絡を受けた卓(たかし)が、妻と共に久々に九州の父の元を訪ねると父は認知症で別人のようであり、父が再婚した義理の母は行方不明に。卓は、父と義母の生活を調べ始めるが......。

監督・脚本・編集:近浦啓 
共同脚本:熊野桂太 
出演:森山未來、真木よう子、原日出子、藤竜也ほか
上映時間:133分

テアトル新宿ほかにて全国順次公開中

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