
ひろゆき (西村博之)
にしむら・ひろゆき
ひろゆき (西村博之)の記事一覧
1976年生まれ、神奈川県出身。元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
「『お米は石油じゃなかった』というのと、豊かなことが足を引っ張るというのもある」と語る藤井一至氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との11回目です。熱帯地域は作物がよく育つ環境なのに、アメリカのような食料基地になっていません。それはなぜか? アフリカは農業大国になれるのか? そんなひろゆきさんの素朴な疑問を藤井さんにぶつけてみました。
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ひろゆき(以下、ひろ) 農業って、外から見ているともっと合理化できそうに思えるんですよ。
藤井一至(以下、藤井) というと?
ひろ 例えばインドネシアみたいな熱帯の地域って、日照量は多いし、雨も降るし、暖かいから一年中作物が育ちそうじゃないですか。
藤井 日本だと米は基本的に年1回の収穫ですけど、ジャワ島なんかは三期作、四期作ができます。本来はものすごく豊かな地域です。
ひろ めちゃくちゃ農業に向いていそうなのに、意外と世界の食料基地にはなっていないですよね。
藤井 その理由のひとつに「お米は石油じゃなかった」というのがあるんです。
ひろ ん?
藤井 石油は採れたものを高く売って、国の産業にできますよね。でも、お米は人が毎日食べるものです。値段が上がりすぎると国民の生活が苦しくなる。だから「これで大儲けだ」とはなりにくい性質があります。また、石油と違って作物がたくさん取れると人口も増える。すると、1人当たりの農地は狭くなって、土地がどんどん細かく分かれていく。大きな機械を使って一気に作るという農業に向かなくなるんです。
ひろ 豊かなのに、かえって身動きが取れなくなると。
藤井 しかも、豊かであること自体が足を引っ張る面もあるんです。土が良くて気候に恵まれていると、昔ながらの循環をうまく回していけば毎年それなりに食料が取れてしまう。そうすると「今のままでいいや」という現状維持の発想になりやすい傾向があります。
ひろ わざわざ新しいことをやる必要がない、と。
藤井 そうなんです。だから、豊かな土地のほうがイノベーションは起こりにくい。
ひろ ドイツなんかは、逆に土が痩せているから科学の力で解決するしかなかった。
藤井 土が豊かではないから科学に頼るしかなくて「じゃあ化学肥料を作ろう」「土地利用を根本から変えよう」というイノベーションがどんどん起きる。毎年、水さえ張れば稲が実るアジアでは動機が少ないんです。
ひろ アメリカの大規模農業みたいな仕組みをまねできないんですか? 小型飛行機で種をまいて、巨大農場にしてしまうみたいな。
藤井 それを、ある意味でやったのがブラジルで、今やものすごい農業大国になりました。ただ、これが成功した大きな要因は平らな土地が広がっていることです。大面積を機械で管理できるから、多少利益率が低くても収支が合う。
ひろ なるほど。
藤井 ブラジルの土は赤土で、栄養が豊富というわけじゃない。でも、カルシウムやリンを入れて、きちんと肥料を投入すれば、ちゃんと収穫できる。
ひろ 東南アジアのような地域ではそれができないんですか。
藤井 まず、地形が違います。例えば、インドネシアは山がちで、平らな土地がどこまでも広がっているわけじゃない。アメリカやブラジルのように、大型機械を入れて同じ作物を一気に作るには不向きです。農業は土だけでは決まりません。土地が平らで広いか、機械を入れられるか、物流に乗せられるか。そこがものすごく重要なんです。
ひろ 日光と水があればいいという話ではないんですね。
藤井 そうです。しかも、東南アジアの土は若い土が多いんです。
ひろ 若い土? なんか栄養豊富で農業に適してそうですけど。
藤井 土にも年齢みたいなものがあるんです。南米やアフリカの古い土は、長い時間かけて栄養分が抜け、鉄の多い赤土になっている。栄養は少ないんですが、逆に悪さをする成分も抜けている。だから、人間がコントロールしやすい。
ひろ 栄養はないけどよけいなこともしない。
藤井 足りないものを人間が入れればそれなりに計算できる。ところが、東南アジアの若い土は粘土でネバネバしていて、そこに有害なアルミニウムイオンがくっついていることがある。これが、植物の根に悪さをするんです。例えば、トウモロコシみたいな作物を大規模に作ろうとすると、根がやられてうまく育たないことがある。「熱帯だからなんでも育つ」というイメージは、半分は正しいんですけど半分は違うんです。
ひろ じゃあ、次に農業大国になるとしたら、広大な土地が広がっているアフリカですかね?
藤井 本来は、その可能性はあるんです。アフリカにも南米と同じように平らで広い土地があるし、土も古い赤土が多い。理屈の上ではブラジル型の農業ができる場所ではあります。
ひろ 先生のその言い方だと、なかなかそうはなっていない感じですね(笑)。
藤井 そうなんです。アフリカは政治や社会の問題が大きい。政情不安もありますし、民族の複雑さ、土地の権利関係もある。
ひろ そういえば、ジンバブエは農産物の輸出国だったのに、政治的な混乱から自分たちでその産業を潰してしまいましたよね。
藤井 農業は土地を一回整えれば終わりではないということなんでしょうね。毎年、種をまいて、肥料を入れて、収穫して売る。その繰り返しなので、制度が安定していないと続かない。土が良くても、国の仕組みが壊れれば農業も壊れてしまいます。
ひろ そう考えると、世界の農業って合理的に配置できそうでできないんですね。世界の人口が増えているなら、一番効率よく作れる場所で大量に作って、あとは輸出すればいいという最適解は、理屈の上ではわかっているのに。
藤井 土壌学や農学から言える最適解は確かにあります。でも、そうはなりません。ひとつは、前にもお話ししたように「食料は安全保障でもあるため、自国生産をする必要がある」。それに加えて、人間の食へのこだわりという問題も大きいんです。「やっぱり自分のところで作ったものが一番うまい」とか「地元のものを食べたい」という感情です。
ひろ カリフォルニア米はまずいと思っている日本人も多いですからね。おせんべいにしたら味の違いなんてわからないのに(笑)。
藤井 日本の学校給食で「地元の野菜を使いましょう」と言うと、すごくいいことのように聞こえますよね。でも、日本は南北に長いから、季節ごとに一番旬で安く採れる地域のものを順番に食べていくのも合理的に聞こえます。
ひろ でも、そうはならない。
藤井 味や文化、安心感、土地への愛着......。そういうものが入ってくるので、どこで作るのが一番効率的かだけでは割り切れないんでしょうね。農業って、めちゃくちゃ現実的な産業なのに、同時に情緒的な部分が多分に影響する産業でもあるんですよ。
ひろ 条件がひとつでも欠けたら成立しないという意味では、足し算じゃなくてかけ算なんですね。
藤井 そうかもしれません。インドネシアは日差しも水もあるのに食料基地になれず、ブラジルは農業大国になり、アフリカはポテンシャルがあるのに進まない。その違いは、土の地図を広げただけでは見えないですね。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
■藤井一至(Kazumichi FUJII)
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など





