
ひろゆき (西村博之)
にしむら・ひろゆき
ひろゆき (西村博之)の記事一覧
1976年生まれ、神奈川県出身。元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
「アイガモロボや種を鉄でコーティングしてまく方法などの技術は積み重なってます」と答える藤井一至氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。土壌学者の藤井一至先生との9回目です。工業に比べて、農業はロボット化などの技術が遅れていると感じているひろゆきさん。実際はどうなのか? 藤井先生に聞いてみました。すると、そこにはいろいろな問題があるみたいで......。
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ひろゆき(以下、ひろ) 今、工業の世界は、すごい速度でロボット化が進んでいるじゃないですか。一方で、農業はあまり進化していないように見えるんです。
藤井一至(以下、藤井) もちろん、農業も便利になった部分はありますよ。昔の稲作は苗を育ててから植える移植栽培が普通でした。でも、今はドローンで上から種を直接まく技術やGPSで自動操縦の農機もあります。あっという間に種をまける光景を見ると、けっこう感動しますよ。
ひろ 感動するくらい便利なのに、農法として日本中に広まっている感じはしないですよね。
藤井 そうですね。なぜ広まらないかというと、種がカラスなどに食べられるからなんです。
ひろ カラス?
藤井 直まきは地面に種をまくので、カラスやスズメに狙われるんです。移植栽培なら苗をある程度育ててから植えるので食べられにくいのですが。
ひろ 水路の水をセンサーで監視するとか便利なものもあるのに、全体として利用されていない感じがするんですよね。
藤井 田んぼのあぜ塗り(田んぼと田んぼの間にある土を盛り上げたあぜの部分で、崩れた所を直したり、モグラの通り道をふさぐなどで水漏れを防ぐこと)とかはありますが、用水路の泥上げ(清掃作業)とかは機械がないですね。開発しても需要が少ないと価格が高くなりますから。
ひろ 高くてもコスパが合うならいいんじゃないですか。トラクターなんて、めちゃくちゃ高いのに買っているわけですから。
藤井 確かにそうですね。あと、アイガモロボみたいに水田を泳ぎ回って雑草の繁茂を抑える機械もありますけど、手で雑草を抜いているおじいちゃん、おばあちゃんも多いんです。
ひろ 稲作農家の平均年齢は70代前後といわれていますよね。すると10年後にはもうロボットでなんとかするしかなくなりますね。
藤井 はい。ただ、すでに稲作にもイノベーションはけっこう起きているんです。例えば、稲の種を鉄でコーティングしてまく方法があります。これだと鉄の重さで種が水に沈み、鳥に食べられにくくなる。さらにモリブデンという成分を塗っておくと、硫化水素という有害なガスを出す微生物がモリブデンと硫酸を間違えて吸って、硫化水素を作る活動が阻害される。そのため稲がダメージを受けずに済む。そういう地味な技術は、ちゃんと積み重なっています。
ひろ へえ、面白い!
藤井 でも、これって鳥対策だったり、有害な微生物への対策だったりするわけです。本来、産業として向き合うべきなのは、どうやって農産物を高く買ってもらうかです。それなのに、現場ではカラスや微生物、雑草との闘いに追われている感じがある。
ひろ 確かに。
藤井 私の研究室の後輩に、宮崎県でマンゴー農家をしている人がいるんですけど、彼はマンゴーは「温室をいくつ作れば、何年で投資額が回収できる」と計算が立ちやすいというんです。そういう分野だと安心して投資できるし、イノベーションも起きやすい。
ひろ マンゴーは1個1万円で売れたりしますもんね。
藤井 そうなんです。初期条件がいい。逆に、お米でイノベーションを起こそうとすると、お米の値段がある程度高くならないと難しいんですよ。
ひろ でも、お米が高くなることってなさそうじゃないですか。
藤井 令和の米騒動が落ち着いて、今年の米価は下落傾向です。米価は政府がかなりコントロールしますけど、本来は「稼げるときに稼ぐ」べきものです。
ひろ 若い人たちが「米は儲かるから参入したい」という気になればよかったと。
藤井 白菜は、普段はあまり利益が出ないらしいんです。でも、何年かに一度、大凶作になると白菜の価格がドーンと上がって稼げる。農家というと牧歌的なイメージを持たれがちですけど、ビジネスチャンスをしっかり生かすのはどの産業も同じだと思うんです。
ひろ お米もそう割り切れればいいのにと。でも、去年の米不足の際に備蓄米を放出してまで価格を抑えたわけですから、米農家はなかなか儲からないという結論になっちゃう気がします。
藤井 そこで白菜とお米の違いが出てしまう。お米は主食なので、安く提供しなきゃいけないという話になる。だから、大きく稼ぐ方向に行きづらいんです。
ひろ じゃあ、お米はもう打つ手がないんですか。
藤井 いや、それでも稲作は技術が確立されているだけに、コストを下げる技術次第でチャンスはあります。お米1kgを作るのに約300円かかるといわれていますが、ドローンの直まきなら100〜150円くらいでできる。
ひろ へー。半額くらいになるんですね。
藤井 たとえ種をカラスに食べられて、収穫量が6~8掛けに落ちても、コストが半分なら成り立つはずです。若い人が「やりたい」と思える仕事になるかもしれない。
ひろ でも、種を食べるカラスは毎年増えていきますよね。
藤井 そうですね。カラスは学習能力が高くて、「あそこに米がある」と覚えちゃう。すると被害が増える。そうなったらまた移植栽培に戻す。直まきと移植の二刀流がいいと思います。
ひろ でも、カラス対策ができたとしても、次は病気とかまた別の問題が起きる気がしますけど。
藤井 はい。害虫や微生物だって進化しますからね。だから「次の準備をしている農家が生き残る」という時代は変わりません。
ひろ 身もふたもないことを言うと、農業を進化させ続けるより、人間の側が「おいしいものを食べたい」と思わなくなるほうが、長期的には持続可能なんじゃないですか。
藤井 面白いですね。実際、1等米ってカメムシ被害の斑点米が0.1%未満じゃないといけません。これはとても厳しい。逆に斑点米を「生物多様性が高い」とか、「複雑な味わい」ということでブランド化したいくらいです。
ひろ ペルーだと菌に感染したトウモロコシが、めちゃくちゃ高く売られてたりしますよね。
藤井 だから、お米も必ずしも1等米である必要はなくて、いろんなお米をどうおいしく食べるかという方向性もあると思います。
ひろ 「安かろう悪かろう」も産業としてはちゃんと成立しますからね。農業の進化って、ロボットやAIを入れるだけではないってことですね。
藤井 農業は工業のように単純な最適化では進みにくいんです。相手は土であり、天気であり、カラスであり、微生物であり、消費者でもある。だから、新しい技術を取り入れるだけでは足りない。消費者の価値観ごと変えていくくらいの進化が必要なのかなと思っています。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。中野信子氏との共著に『脳科学が教える日本社会で賢く生き残る方法』(集英社)など
■藤井一至(Kazumichi FUJII)
1981年生まれ。土壌学者。福島国際研究教育機構・土壌ホメオスタシス研究ユニット・ユニットリーダー。主な著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)、『土と生命の46億年史』(講談社ブルーバックス)など





