
土居正英
どい・まさひで
土居正英の記事一覧
欧州在住10年の経営者。慶應義塾大学卒業後、P&Gスイス本部でグローバル市場を担当し、ファーストリテイリングなどでCMOを歴任。その後、英国で起業し、現在は年商5億円規模の眼鏡事業とコンサルティング事業の2社を経営する。大企業での海外赴任、英国での起業、永住権取得という自身の経験を生かし、現在は海外に挑戦する事業家の育成にも力を入れている。

「ビザを取り、海を渡れ!」と挑戦者を鼓舞。海外20か国でビジネスにチャレンジする300名近い日本人を成功に導き、その後も無期限で支え続けるコンサルタントがいる。土居正英(47)がその人だ。
P&Gスイス本部でグローバル市場を担当し、ファーストリテイリングなどでCMOを歴任後に自ら起業。
年商4億円以上を売り上げる眼鏡店をイングランドで経営する一方、自らのノウハウと人脈を惜しげもなく提供することで海外での起業に挑む日本人たちをサポートするコンサル業務に着手、月収200万のウェブマーケターや年商1億円超えの企業を輩出するなど、成功者を生み出し続けている。
土居の助言を受け、海外で羽ばたいた事業者たちの成功までの道のりを紹介していく連載の3人目は、法人を設立してアメリカに移住後、たった3ヶ月で日本企業に勤務していた頃の10倍を稼ぐようになったという江口瑠莉氏。もともとビジネススキルの高かった江口氏の成功をさらに後押しするために、土居が行った2つの大きな助言とは何だったのか?
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現在33歳の江口瑠莉が土居正英の存在を知ったのは、2025年3月だった。インスタグラムで見つけ、個別相談を申し込む。江口はその直前まで、世界中で広く利用されているクラウド型顧客管理の営業職に就いていた。4度の転職歴があった。
土居は振り返る。
「ご本人は、一つのキャリアが長く続かないということを悩まれていましたが、私は必ずしもマイナスとは感じませんでした。むしろ複数の会社や仕事、オンラインで商品やサービスを売買すること(ECビジネス)を経験していたからこそ、営業、顧客コミュニケーション、マーケティング、広告、数字を見る力など、様々な経験の蓄積がありました。ただ、それが"点"だったのです。
ですから私は、<続かなかった>という見方ではなく、これまでバラバラに見えていた経験をどう一本の強みに変えていくかという視点で共に整理していきました。自分の中で何を強みにし、どこに集中すればいいのかという部分が明確になっていなかった印象があります。<江口さんが最も成果を出せる場所はどこなのか>を見つけるところから始めました」
土居はコーチングする際、初回のセッションで必ずこれまでのキャリアや経験、得意だったこと、成果が出たことなどを細かく訊く。彼はこの行為を「棚卸し」と表現する。江口の棚卸しの中にECビジネスの経験があると知った土居は、「そのとき何をやっていたか」「どこが面白かったのか」「数字を見ることが苦ではなかったか」「どんな改善をしていたのか」など、質問を重ねながら深掘りした。
「そこで見えてきたのが、江口さんは単に広告に興味があるだけではなく、数字やデータを見ながら"なぜこの結果になったのか"を分析したうえで、改善策を考えられることでした。後々、江口さんの大きな武器になりましたね。クライアントと一緒に広告で成果を積み上げることに繋がりました。
彼女のアドバンテージは、媒体に広告を設定して運用することだけでは無いんです。導線設計、ランディングページ(LP)、広告クリエイティブまで含め、売上につながるまでの一連のプロセスを数字で考察できます。例えば、広告の数字が悪かったとき、一般的な広告運用であれば『広告クリエイティブを変えましょう』『ターゲッティングを変えましょう』という話になりがちです。しかし江口さんの場合は、そこで終わりません。
<広告自体に問題があるのか><広告からLPへの遷移に弱点があるのか><LPのどこで離脱しているのか><クリエイティブとLPの訴求にズレがないか><最終的な購入や申込みまでの導線に問題がないか>というように、様々な分析ツールを使いながらボトルネックを探していきます。そして仮説を立てて改善し、また数字を見る。このPDCAサイクルーー計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)の4つのステップ繰り返して、費用対効果を改善する。だからこそ、一度広告を運用して終わりではなく、クライアントの売上を一緒に伸ばしていく長期的なパートナーになれるのです」
土居にとって江口は、教え甲斐のある生徒だった。その成長ぶりに目を見張った。
「実際、これまでにも、航空会社の広告運用で売上を60倍にし、クラウドファンディングの事前集客で600人を集め、健康ドリンクの広告運用でも収益を3倍にし、投資用不動産の広告運用月間資料請求数が7倍となり、健康アプリの広告宣伝でもサブスクリプション会員を開始時の7倍に増加させるなど、様々な業界で成果を上げています。
重要なのは、単に広告運用が上手だから数字が伸びたわけではないということです。広告を入口として、導線、LP、クリエイティブ、コミュニケーションまで分析対象を広げ、<クライアントの事業のどこを改良すれば、最も売上へのインパクトが大きいのか>まで考えられるようになったことが大きいです。その結果、クライアントから見た江口さんの役割も、単なる広告運用代行者ではなくなっていきました。
現在では最高マーケティング責任者(CMO)やマーケティングディレクターのような、より上流の立場での関わりを求められるケースも増えています。つまり、広告を運用する人から、売上を修正する人となり、さらにマーケティング全体を任せたい人へとステップアップして、顧客から見た価値が変化した訳です。継続的に案件の単価を上げながら、長いスパンでクライアントと関係を築けている大きな理由だと感じます」
日本企業に勤務していた折、月収およそ20万円だった江口は、法人を設立してアメリカに移住。たった3カ月で、10倍を稼ぐようになった。
彼女は土居に向かってこんな風に漏らしたことがある。
「アメリカに移住するなんて生涯無理だと思っていました。いつも旅行での滞在だけだったので。海外移住するには、雇用では無理だと悟りました。だから、思い切ってフリーランスになる道を選んだんです。実際のところ、それしか術が無かったですし。広告運用を学んで、法人に提供を開始してここまできました。これからアメリカの企業にも広告運用の仕事を提供します。人生って、半年で大きく変わりますね」
江口が上昇気流に乗り始めた頃、土居は2つの大きな助言をした。
「1つ目は、<誰と仕事をするかを選ぶ>です。江口さんは能力が高い分、当初、色々なクライアントの仕事を受けていました。ただ、どれだけ有能でも、すべてのクライアントに同じ時間を使っていたら、自分の時間が分散してしまいます。そこで私からは、仕事を増やすことよりも、どのクライアントに時間を投資すれば、江口さんの強みが最大限発揮され、相手の売上にも大きなインパクトを与えられるのかという基準でクライアントを選ぶよう伝えました。つまり、<案件数を増やす>のではなく<良い顧客に集中する>という方向です。質の高いクライアントに時間を集中できれば、当然、改善の深さも変わります。成果が大きくなれば、継続や紹介、単価アップにもつながります。これは売上を伸ばすうえで非常に重要だったでしょう。
2つ目は、江口さんにとって本質的だった分析力に関してです。本人は当たり前だと感じていたようですが、明確な武器として認識してもらいました。江口さんと話している中で、『この人の強みは広告を設定する技術だけではない』と理解しました。数字を見て、<なぜこうなっているのか?><最も処理能力が低く、全体の進行やスピードを妨げている部分はどこか?><何を変えれば数字が動くのか?>と仮説を立てて改善していく力が非常に高かったんです。ですから、その分析力を広告運用の中だけに閉じ込めない方がいいと伝えました。コミュニケーション、導線設計、広告、LP、広告クリエイティブまで分析対象を広げていく。すると、広告の成果を改善できる人から、マーケティング全体の成果を改善できる人に変わります。ここはかなり意識して伸ばしていきました。
私のコーチングは、何か新しいスキルをゼロから身につけてもらうこと以上に、その人がすでに持っているのに自分では価値に気づいていない強みを把握し、市場で高く評価される形に変えていくことを大切にしています。繰り返しになりますが、江口さんの場合、それが分析力でした。分析力を徹底的に伸ばしながら、活用する領域を広告からマーケティング全体へ広げ、さらに力を発揮できるクライアントに集中する。
私としては、江口さんに『これをやりなさい』と型にはめたというよりも、江口さん自身もまだ気づいていなかった強みを共有し、その強みが最も高く評価される戦い方を設計した、という感覚が近いですね。たった3カ月で月収が200万円を超え、そのスピードには驚かされましたよ。事業はさらに拡大しています。躍進の鍵となったのは、彼女が単なる作業者ではなく、<戦略を考える側>になったことです。また、江口さんは英語が堪能なので、海外の企業からも案件を取れる。日本の単価よりも高くなることも多いですね。
提案できるマーケティング参謀になることを、私は<上流スキル>と呼んでいます。AI時代になるほど作業は自動化されますが、戦略を設計し、意思決定を行い、クライアントを導くディレクションは、人間だからこそ価値を生むことができます。ですから、下請けではなく、"売上を設計できるパートナー"になったことが、高単価・長期契約・収益拡大につながった最大の要因なのです」
江口もまた、土居の手で現代のシンデレラとなったのだ。




