お笑い芸人「マシンガンズ」として活動するかたわら、「ゴミ清掃員」としても日々働く滝沢秀一が、ゴミの捨て方を指南する連載「ベンキマンの捨て方」がスタート！ ただし、ここで扱うゴミたちは架空のものばかり。あの漫画で出てきたあの道具や、映画で見たあんな機械など......。実在しない架空のゴミを、現実世界ではどう捨てればいいのか？ 前代未聞のファンタジーゴミ連載！
【捨てるもの第１回】ベンキマン
『キン肉マン』に登場する和式便器のボディを持つ超人レスラー。対戦相手を転がして強引にボール状に丸め、腹部の便器に水洗式で流しこむ必殺技「恐怖のベンキ流し」の使い手。流した相手がどこへ行くかは本人にもわからない。身長１８５ｃｍ、体重８７ｋｇ、古代インカ出身。
まず、ベンキマンが何者か考えるところからはじめましょう。もしベンキマンが道端で完全に生命活動を停止して倒れていた場合、人間だとしたら当然警察に連絡ですよね。「ペッパーくん」みたいなロボットだったら、粗大ゴミになる。ベンキマンは人でもロボットでもない「超人」なので特殊です。人と同じように火葬するのも難しそう。よって、今回は「動物」のカテゴリと仮定しましょう。
ツチノコのような未確認生物だとしたら学者を呼んだほうがいいと思うんですけど、通常の動物なら清掃事務所に連絡を入れて下さい。我々清掃員が軽自動車などで引き取りに行きます。連絡先は、近所のゴミ集積場の看板に書いてあるはずです。ちなみに清掃事務所って、死んだペットの引き取りもやっています。
清掃事務所にはでっかい冷蔵庫があって、動物の死骸を１体ずつ箱に入れて安置しています。それをペット専門の葬儀社に引き取ってもらって、火葬するんです。ゴミと一緒に燃やされるわけじゃないので、そこは安心してください。清掃員の仕事を始めたばかりの頃、何も知らずにその冷蔵庫に肘をついてタバコを吸っていたら、「それダメだよ！」って、すごい怒られた。よく見たら、冷蔵庫にはお札がいっぱい貼ってあるんですよ！
でもベンキマンの場合、胴体部分は便器だから、きっと陶器でできてるんですよね？ 陶器は燃えないし、やっぱり分別するしかないですね。手は人間と同じっぽいんで燃えるから、かわいそうですけど分別の必要がありますので、切り落としましょう。胴体の陶器の部分は不燃ごみ。お茶碗や皿くらいだったら普通に回収して、処理場のでっかいハンマーが回ってる機械で粉々に砕きます。でももし便器部分がレンガや石のような硬さだったらダメですね。ごみを砕く機械が壊れちゃうので、その場合は専門業者に頼んで下さい。
ベンキマンは身長１８５ｃｍ？ だったら通常の回収では持っていけないので、粗大ゴミ扱いになりますかね。清掃事務所に連絡して、粗大ごみ回収の申込みをしてもらうのがやはり現実的でしょう。住んでる場所によって値段は違うけど、でっかいタンスぐらいの大きさだったら２千円ぐらいです。
全体的に何の物質でできているかわからないから、リサイクルは難しそうですよね。回収したら処理場で粉々に砕いて、最終処分場に埋めるしかないと思うんです。有害物質かもしれないし、アスベストとかと同じ扱いになると思います。処分場の穴の底にシートを敷いて、雨が降っても有害物質が流れ出ないようにする。そこまでしないとダメかもしれないですね。
あと怖いのは、ベンキマンって戦いに勝利すると、ファンがウンコを投げつけて祝福するじゃないですか？ ウンコがたくさん付いてる場合は、僕ら清掃員じゃなくてバキュームカーを呼んでほしいな。もしくは、ちゃんと流してきれいにしておいてほしい。我々はゴミを回収する仕事であって、お掃除屋さんじゃないんです。ベンキマンにとってウンコは嬉しいかもしれないけど、収集する側の気持ちも考えてほしいところです。
おむつは回収するけど、ウンコはゴミに出しちゃダメです、トイレに流してください。たまに牛乳パックにおしっこを入れてゴミに出す斬新な輩がいるんですけど、最悪ですね。水分は基本的に回収しません！ ベンキマンって、便器から水が出てきますよね？ だったらちゃんと水抜きもしておいてほしいです。食器洗浄機を粗大ごみに出すときと同じです、しっかり乾かしてから出してください。
そういえば、ベンキマンは物質を異空間に飛ばせるじゃないですか、キン肉マンを糞尿の魔境に送り込んでましたよね？ これ、ゴミ処分場として活用できないですかね？ 今、各地でごみの最終処分場が足りなくて問題になっているので、結局ベンキマンは捨てずに、死後も正義の超人として世の中のために役立ってもらうのが正解かもしれません。
滝沢秀一（たきざわ・しゅういち）
１９７６年９月１４日生まれ、東京都出身。
お笑いコンビ「マシンガンズ」として活動するかたわら、ゴミ清掃員としての仕事もこなす。
著作はゴミ清掃員の体験を書いたエッセイ『このゴミは収集できません』ほか多数
