日本政府の弱腰? 米軍の隠匿体質? なぜ沖縄で駐留米兵による凶悪事件が繰り返されるのか?

文/安藤海南男 写真/photo-ac.com、古謝玄太公式X

高市総理、木原官房長官に再発防止の要望書を手渡す古謝玄太沖縄県知事高市総理、木原官房長官に再発防止の要望書を手渡す古謝玄太沖縄県知事
沖縄で地元女性が犠牲になった強殺事件は、沖縄県警が強盗殺人容疑で20歳の米海兵隊員を逮捕してから約1か月。米軍は、事件の再発防止策として部隊の夜間外出禁止の措置や飲酒制限を打ち出したが、地元からはその実効性を疑問視する声が相次いでいる。

その背景には、米軍が繰り返してきた「看板のすげ替え」や、10年以上にわたって続く米軍の「情報隠蔽」の放置など、人を食ったような対応を続ける日米両政府への根深い不信感がある。沖縄に負担を強(し)い続ける日米両政府の「罪」とは。

【米軍の素行を糾(ただ)せない日本政府の弱腰】

「私も、今米軍でとってもらっている措置の内容を見ながら、これでは十分ではないということは総理室でも指摘をしました」

高市早苗首相は13日の衆院予算委員会で、事件を受けた米軍の対応について問われ、こう述べた。米軍は、米海兵隊の上等兵が強盗殺人の疑いで逮捕されたことを受け、9日からの30日間を「反省期間」とするとした。期間中、午前0時から午前5時までの外出を禁止するとしたが、この措置について、高市首相は「十分ではない」と不満を漏らした格好だ。

一方で、実効性のある再発防止策に向け、「先週から日米間の事務のハイレベルで協議を始めたところ」とも明らかにしたが、その中身については明らかになっていない。歴代の政権が米国に対して極端に及び腰なのは、周知の通りだ。米兵らが公務中に事件を起こした際の「第一次裁判権」を米側に優先させるなど、その不平等な内容が問題視されている日米地位協定の改定が、1960年の発効以来いまだに実現していないことが、その現実を雄弁に物語る。

「そうした背景を踏まえると、高市首相の答弁は幾分か踏み込んだ内容にも聞こえますが、いつもの『遺憾砲』だけではおさまらないという政治判断も働いたからこそ出た答弁ではないでしょうか。米軍が発表したものは、人が亡くなった事件を受けた対応策としてはあまりにもお粗末なものだからです」

10月、20歳の米海兵隊員が30代の日本人女性を絞殺する事件が起きた那覇市若狭10月、20歳の米海兵隊員が30代の日本人女性を絞殺する事件が起きた那覇市若狭
そう指摘するのは、多くの米軍絡みの事件・事故を取材してきた沖縄のメディア関係者だ。

「というのも、今回、米軍が発表した『夜間外出禁止令』は、これまですでに行われてきた米兵の綱紀粛正策の焼き直しに過ぎないからです。2012年から始まった午後11時から午前5時までの基地外への外出を禁止する『リバティー制度』がそれです。

今回の事件に限らず、米軍は米軍絡みの事件が起こるたびにこの制度の緩和と強化を繰り返してきました。ただ、この制度の運用が始まってからも事件が絶えることはなく、有効性のある対応策とは言えないのではないか、という批判がつきまとってもいるのです」(前出のメディア関係者)

【実効性のない再発防止策】

米軍は、事件抑止に結び付いてこなかった対応策を今回も持ち出してきたというわけである。「これでは単なる看板の掛け替えだ」という声が地元から上がるのも無理のない話だが、こうした米軍のやり口は今に始まったことではない。

2024年、複数の米兵による性暴行事件が、公判日程が明らかになるまで沖縄県に通知されなかったことが問題になった際には、米軍が県や地域住民らと事件・事故の再発防止策を協議する「フォーラム」なる枠組みの創設を発表した。約1年越しに初開催された際には、当時の林芳正官房長官が「綱紀粛正と再発防止に向けた米側の真剣な姿勢を示すもの」と評価したことが大々的に報じられたが、こちらも「衣替え」によって"やってる感"を演出する今回の対応と重なる部分がある。

「『新たな枠組み』というぐらいだから何か新しい取り組みのように感じさせますが、実情はそうではない。実は、同じような協議体は、2000年に『米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム(CWT)』という名前でつくられているんです。

ところが、こちらは2016年、うるま市で女性が元海兵隊員に殺害された事件の後に行われたっきりで、9年近く開催されていません。1979年にも在沖米軍、国、県による三者連絡協議会が発足したが、2003年の開催を最後に自然消滅しています。CWTもフォーラムの創設で自然消滅する可能性が濃厚です。目先を変えていかにもやってる風を装うのは、米軍の常套手段ともいえます」(前出のメディア関係者)

これまで米軍が行い、日本政府が追認してきた事件の再発防止策に何らの実効性がないことは統計上も明らかだ。沖縄県警によると、在日米軍関係者(米軍人・軍属・家族)による刑法犯の検挙数は増加傾向にあり、2025年には、沖縄県内で101件(80人検挙)となり、2003年(112件)以来、22年ぶりに100件を超えたという。

【繰り返される隠蔽】

米軍の「隠ぺい体質」も、地元ではひんしゅくを買っている。

「地元警察や自治体にとって、有効な治安対策を講じるために入域者の把握は必要になります。これだけ問題を起こしている米軍ですから、県側としては当然、沖縄に入ってくる米兵の実数を把握しておきたいところです。

ところが、米軍はこの実数や内訳の公表を10年以上拒否しているのです。『セキュリティの方針』を理由にあげていますが、以前は公表していたものを明らかにしなくなっており、方針展開の明確な説明はなされていません」(前出のメディア関係者)

沖縄県のホームページを確認すると、沖縄が日本復帰を果たした1972年以降、「在沖米軍人・軍属・家族数の推移」として公表していた統計データは2011年を最後に途絶えている。

この統計によると、同年時点で陸軍、海軍、空軍、海兵隊を合わせた「四軍」と呼ばれる在日米軍の総数は3万6712人。うち在沖米軍は2万5843人で、特に海兵隊は日本に駐留する1万7585人のうち、沖縄駐留が8割超の1万5365人を占める。

今回、女性を殺害したなどとして強盗殺人容疑で逮捕されたのは、海兵隊の主要部隊のひとつである「第3海兵遠征軍」に所属する20歳の上等兵だった。戦場の最前線に駆り出される彼ら、海兵隊の部隊がいつどうやって沖縄にやってくるのかを知るすべは、地元自治体にない。

自前の軍隊が「同盟国」で起こす不祥事におざなりな対応を繰り返す米国。そして、自国の国民が犠牲になる構図を放置してきた日本政府。ツケを払わされるのはいつも沖縄県民だ。

  • 安藤海南男

    安藤海南男

    あんどう・かなお

    ジャーナリスト。大手新聞社に入社後、地方支局での勤務を経て、在京社会部記者として活躍。退社後は警察組織の裏側を精力的に取材している。沖縄復帰前後の「コザ」の売春地帯で生きた5人の女性の生き様を描いた電子書籍「パラダイス」(ミリオン出版/大洋図書)も発売中。

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