遺体の引き渡しをめぐる東京拘置所の対応は不可解そのもの。松本元死刑囚の遺骨は当面、拘置所が保管するというが...

麻原彰晃を含むオウム真理教元信者7名の死刑が執行された。その後、「麻原の遺体は四女に」と報じられたがほかの親族は反発。次女や三女が疑問視する、東京拘置所の不可解な対応とは......?

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■母親・三女側と四女側との対立構図

7月6日、オウム真理教の元代表・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚の死刑が執行された。各メディアはその後の遺体引き渡しをめぐる報道で、当局のリーク情報をもとに「関係者によると」という表現を用いて多角的な検証を放棄した。ここでは各社が伝えようとしなかった事実を書き残しておきたい。

松本元死刑囚の遺体を誰が引き取るかは死刑執行前からの焦点だった。執行後も、オウムの後継団体の信者などが遺体や遺骨を利用して「神格化」を図る恐れもあるとして、公安当局などは警戒を強めていた。そうしたなか、執行翌日の7日夕方から8日朝にかけて新聞・テレビ局各社は一斉に《遺体は「四女」に引き渡す方向で検討》と報じた。松本元死刑囚が執行前に、自らの遺体を四女に引き渡したいという意思を示したことが理由だと伝えたのだ。

NHKや共同通信をはじめ、このニュースの多くは「関係者への取材」でわかったと報じられていた。在京テレビ局の記者によると、「関係者」とは法務省の幹部だという。

松本元死刑囚は元教団幹部の妻との間に2男4女をもうけている。そのうち遺体の引き取り人として指名されたという四女は昨年会見を開き、両親とは縁を切り、教団との関係を断ち切っていることを印象づけ、父親の死刑執行を望む発言もしていた。

その一方、松本元死刑囚の配偶者である母親への遺体引き渡しを望んでいた三女にとって、この報道は寝耳に水だった。三女はオウム事件の真相はまだ明らかになっていないとして、次女と共に父親の精神的治療を求めていた。そして遺体引き渡しの報道後、母親やそのほかの兄弟と法務大臣宛てに要望書を提出。「(松本)元死刑囚の精神状態からすれば、特定の人を引き取り先として指定することはありえない」と主張する。

なぜなら次女や三女によると、2004年2月に死刑判決が下された頃から、松本元死刑囚の様子は不可解さを極め、支離滅裂な言動に加え、面会に来た弁護人や娘たちの前で失禁をしたり、自慰行為を繰り返すこともあったという。また、壁が震えるほどの大声で突然呼びかけても反応せず、拘禁反応が見られるとも語っていた。これは接見した複数の精神科医も、同様の見解を示している。

本当に松本元死刑囚は自らの口で四女を指名することができたのか? 法務省によるなんらかの意図が働いたのではないか? 検証する間もなく、遺体は7月9日、東京拘置所によって火葬された。この日、四女は代理人のブログを通じて「父親の最後のメッセージを受け入れる」などとする内容のコメントを発表した。また、11日には代理人を通し、遺骨を引き取れば海に散骨する意向を示した。

テレビのワイドショーは、この遺骨問題に「母親・三女vs四女」といった見出しをつけ、母親・三女側と四女側との対立構図をつくり出した。それは両親、教団とも縁を切った四女側のほうが遺骨の引き渡し先として妥当であるという刷り込みに近い。筆者はこの1年近く三女を取材で追い続けてきたが、これは印象操作だ。三女にしても、オウム後継団体との間で訴訟を起こすなど対立を続けていて、教団とは決別している。

■皆さま方のお気持ちは重々......

三女らと東京拘置所側のやりとりでも、不可解な点がある。死刑が執行された6日夜に、母親の代理人弁護士は拘置所側から遺体との対面を許可するという連絡を受けている。一夜明けた7日午前9時半、代理人、母親、次女、三女、長男、次男の6人で松本元死刑囚の遺体と対面している。一方の四女と代理人が対面したのは午後2時過ぎだった。そしてこの日の夕方、「遺体は四女へ」という報道が出る。この対面の順番に関して、三女は首をかしげる。

「執行前に父が四女を指名していたのなら、なぜ私たちが先に呼ばれたのでしょうか。遺体の引き渡し人は本当はまだ決まっていなかったのではないでしょうか」

三女たちは翌8日午後4時過ぎにも拘置所を訪ね遺体と対面し、父親の死を悼んだ。15分ほどだったという。このとき、次女が拘置所職員にこう問いただしている。

次女 父には意思表示は絶対にできなかった。そんなのは客観的な証拠からも明らかです。それなのに四女が指名されたと拘置所は言います。わたしにはそれがとても信じられません。何か隠さなければいけないことがあるのですか。なぜこういうことになっているんですか。なぜ本人がしゃべれないのにしゃべったことにされているんですか。

拘置所側 そういったことは、わたくしは説明しておりませんが。

次女 いえ本人の意思だということを、昨日おっしゃいました。なぜなんですか。

拘置所側 お気持ちは......。

次女 いえ、お答えください。どうかお願いします。もしわたしたちの気持ちを少しでもわかってくださるなら、どうかお答えください。

拘置所側 皆さま方のお気持ちは重々......。

次女 いえ、わかっているなら、どうかお答えください。なぜしゃべれもしない父が指定したというふうに拘置所側はおっしゃったのですか。

拘置所側 お答えできません。

次女 お答えできませんって、どういう根拠に基づいて答えられないのですか。

このやりとりは結局、最後は沈黙で終わっている。そして翌9日午前11時36分、三女の代理人が拘置所側に電話で問い合わせたところ、「火葬場に送り出しました。東京拘置所は、親族間で解決するまで遺骨をお預かりします」と語り、遺体引き取り人の指名の有無や詳細についての言及はなかった。

一連の遺骨問題をめぐって三女に直接取材に訪れた報道機関は数社。三女は取材の際に、四女よりも先に呼ばれたことや拘置所側の対応について話したが、ほとんど取り上げられなかったという。報道各社が当局のリークを垂れ流し、真相究明への使命感を失っているのであれば、それはジャーナリズムの自死だ。

●堀 潤(ほり・じゅん)
1977年生まれ。元NHKアナウンサー。市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」主宰。TOKYO MX『モーニングCROSS』MCなどを務める。「オウム事件真相究明の会」賛同人