元チュニジア代表主将が激白する「日本代表の急所」とは? 堅守からのカウンターを狙う"アフリカのイタリア"が襲いかかる!

取材・文/栗原正夫 撮影/ヤナガワゴーッ!

5月31日に行なわれたアイスランドとの強化試合でのスタメン。途中出場の小川航基(NEC)が決勝点を決め、1-0で勝利した5月31日に行なわれたアイスランドとの強化試合でのスタメン。途中出場の小川航基(NEC)が決勝点を決め、1-0で勝利した
21日、森保ジャパンがメキシコのモンテレイでチュニジア代表と激突する大事な第2戦。下馬評どおり日本優位で試合は進むのか、それとも......。

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【チュニジアの強みは中盤と守備】

6月21日(日本時間)、北中米W杯の第2戦で日本代表が対戦するチュニジアを、グループFの"最弱国"とみる向きは少なくない。オランダが本命、日本も有力候補とされる中、チュニジア戦は勝ち点3を計算したい試合―。そう考えるファンも多いだろう。

だが、そう言い切ってしまっていいのだろうか。前回のカタール大会を振り返っても、日本はW杯優勝経験のあるドイツとスペインに勝利しながら、格下とみられていたコスタリカに不覚を取ったことは記憶に新しい。

「チュニジアを甘く見ると、危険です」

そう忠告するのは、チュニジア代表として2002年日韓大会、06年ドイツ大会に出場し、同代表で歴代最多の105キャップを誇るラディ・ジャイディ氏(50歳)だ。

歴代最多キャップ数を誇る元チュニジア代表主将のラディ・ジャイディ氏。引退後も指導者として活躍している歴代最多キャップ数を誇る元チュニジア代表主将のラディ・ジャイディ氏。引退後も指導者として活躍している
前回カタール大会でチュニジアはグループリーグ敗退に終わったものの、第3戦では王者フランスを1-0で破るなど爪痕を残している。すでにフランスがグループリーグ突破を決めていた状況だったとはいえ、最後まで諦めない姿勢は鮮烈だった。

さらに昨年11月の親善試合では、フルメンバーに近いブラジルを相手に1-1のドローに持ち込んでいる。日本にとってチュニジアは、思っている以上に厄介な相手かもしれない。

ジャイディ氏は、チュニジアサッカーを象徴するレジェンドのひとりだ。04年には自国開催のアフリカネーションズカップ優勝に貢献し、英プレミアリーグでプレーした最初のチュニジア人としても知られる。引退後は指導者に転身し、サークル・ブルージュでコーチを務めた22-23シーズンには、日本代表FW・上田綺世(あやせ)を指導した経験もある。

その経験を踏まえ、ジャイディ氏は対戦国側の視点から森保ジャパンをどう見ているのか。

「日本はここ数年で印象的な成長を遂げてきた。テクニックに優れ、高いインテンシティがあり、戦術的な賢さもある。

グループFでは、素晴らしいサッカーの伝統があるオランダが最有力とみられているが、日本も国際舞台で安定して力を示す、競争力のあるチームなのは間違いない」

チュニジアのラジオ局「Mosaique FM」で代表取材をしているアフメド・アダラ氏チュニジアのラジオ局「Mosaique FM」で代表取材をしているアフメド・アダラ氏
同国のラジオ局「Mosaique FM」で代表を追う記者のアフメド・アダラ氏は、日本をこう評した。

「日本は選手同士の連係が素晴らしく組織化されていて、全員が何をすべきか理解している。過去の対戦成績(日本の5勝1敗)を考えても、日本はチュニジアから楽に勝ち点3を手にできるとみているかもしれない。それは自然な見方だと言えます」

アフリカ予選を10戦無敗、無失点で勝ち上がったとはいえ、チュニジアのFIFAランキングは45位(6月10日時点)とグループ内で最も低い。国内でも、グループリーグ突破が簡単でないことは理解されている。

それでも、彼らとて日本にやすやすと勝ち点3を渡すつもりなどないはずだ。では、日本から勝ち点を奪うために何を考えているのか。

アダラ氏は、チュニジアの強みは中盤と守備だとした。

「われわれは中盤と守備には自信があります。特に中盤には守備強度と戦術理解度の高いエリス・スキリ(フランクフルト)や、ハンニバル・メイブリ(バーンリー)のように推進力とテクニックを併せ持つ選手もいます」

スキリは中盤の柱であり、ハンニバルは推進力を備えた若い才能だ。さらに、14年にドイツ代表としてW杯を制したサミ・ケディラの実弟で、ウニオン・ベルリン所属のラニ・ケディラ、ノリッジ・シティのアニス・ベン・スリマンら実力者が名を連ねる。

「ただ、問題はどうやって点を取るかです」

絶対的なストライカーが見当たらないこともあり、得点力には課題が残る。それが、アダラ氏の率直な見立てだ。

一方で、チュニジアは今年1月にサブリ・ラムシ監督が就任したばかりだったが、先日のスウェーデン戦の大敗を受けて電撃辞任。フランス出身のエルベ・ルナール新監督が就任し、チームは移行期にある。メンバーの入れ替わりもあり完成度には不安が残るが、ジャイディ氏は、だからこそ何が起きるかわからないともみる。

6月2日に行なわれたオーストリアとの親善試合で選手に指示を出すチュニジア代表のサブリ・ラムシ監督(現在は辞任してエルベ・ルナール新監督に)。相手に途中退場者が出たが、1-0で敗れた(写真/ロイター/アフロ)6月2日に行なわれたオーストリアとの親善試合で選手に指示を出すチュニジア代表のサブリ・ラムシ監督(現在は辞任してエルベ・ルナール新監督に)。相手に途中退場者が出たが、1-0で敗れた(写真/ロイター/アフロ)
「チュニジアはサッカーに情熱的な国です。たとえ不利な状況であっても、勝つためにベストを尽くします。チャンスは多くはないかもしれません。だからこそ、一回のチャンスを確実にものにしなければならないのです。

それにW杯のような大舞台では、その日のパフォーマンス次第で何が起きても不思議ではありません」

初戦のスウェーデン戦も、日本戦の意味を左右する。

「オランダや日本と比べ、スウェーデンは少し力が落ちるとみています。もしスウェーデンに勝てれば、日本戦では全力で勝ち点を取りにいくことになるでしょう。

ただスウェーデンに負ければ、日本戦で思わぬほころびが出る可能性もあります。コンディション次第でどんなチームにも勝てるし、どんなチームにも負ける。それがチュニジアなんです」(アダラ氏)

元代表主将のジャイディ氏も、アダラ氏のこの言葉に共感し、チュニジアのパフォーマンスは感情に左右されることが多いと明かした。

「チュニジア代表は情熱的なぶん、感情的でもあります。自信を持てれば、どんなチームにも勝てる。逆に気持ちが切れれば、簡単に負けてしまう。だからこそ初戦が大事ですし、その結果次第では感情のコントロールが大切になります」

【堅守速攻がカギ】

日本攻略の具体的な道筋について、ジャイディ氏はこう話す。

「まずは日本に多くのスペースを与えず、簡単に試合を支配させないことです。日本はライン間でダイナミックな動きをつくり、そこから一気にテンポを上げてくる。それをさせるのは非常に危険です」

日本がボールを持つ時間は長くなるかもしれない。だが、チュニジアが中央を締め、ライン間のスペースを消すことができれば、日本は思うようにテンポを上げられない。そこで重要になるのが、セカンドボールとトランジション(攻守の切り替え)だ。

「チュニジアにとっては、守備をコンパクトに保つこと、セカンドボールを勝ち取ること、敵陣のゴール前で効率的に動くことがカギになります。

日本にボールを持たせながらも背後にスペースが空くのを待ち、こぼれ球を奪ったら素早いトランジションをして、そのスペースを使ってカウンターを狙うのです」

日本がボールを支配していても、それが優位を意味するとは限らない。チュニジアにとっては、守備で耐えながら、日本が前がかりになった瞬間を突けるかが勝負になる。

「日本は非常に組織的なチームですが、時に"ロボットのよう"に見えることがあります。だからこそ、どこか一ヵ所でペースが崩れると、全体にほころびが生まれることがある。

日本にいつもどおりの形でプレーさせず、デュエルに勝ち、個人のミスを突けばチュニジアにも勝機はあります」

日本戦のキーマンとして期待が集まるチュニジア代表のハンニバル(バーンリー) (写真/AFP/アフロ)日本戦のキーマンとして期待が集まるチュニジア代表のハンニバル(バーンリー) (写真/AFP/アフロ)
チュニジアに際立ったスター選手がいない点は、どう考えているのか?

「チュニジアの強みは、集団の力にあります。ただ、もし中盤のハンニバルが自由にプレーすれば、攻撃に変化をつけられるキーマンになるかもしれません。彼が良いプレーをすれば、チーム全体が良いプレーをするでしょう」

日本側の脅威として、ジャイディ氏が名前を挙げたのが上田だった。

「チュニジアとしては、特にペナルティエリア内で彼に仕事をさせないことです」

ジャイディ氏が日本側の脅威として名前を挙げた上田綺世(フェイエノールト)ジャイディ氏が日本側の脅威として名前を挙げた上田綺世(フェイエノールト)
チュニジアは本番を目前にした2日のオーストリア戦で、相手に退場者が出ながら0-1で敗れると、6日のベルギー戦では自軍に退場者を出し、0-5と大敗。最終調整の2試合をいいところなく終えた。

だが、ふたりが言うように、強さと危うさが同居し、やってみなければわからないのがチュニジアでもある。

「テストマッチの結果は散々。それでも、チュニジア代表は時に"アフリカのイタリア"と呼ばれるほどの守備力がある。私は、チュニジアがサプライズを起こしてくれることを願っています」(アダラ氏)

最弱視される相手だからこそ、油断は禁物だ。勝ち点3は欲しい。だが、侮れば思わぬ落とし穴にはまる危険もある。森保ジャパンには、最後まで隙のない戦いで、この難敵を乗り越えてほしい。

  • 栗原正夫

    栗原正夫

    くりはら・まさお

    1974年生まれ。埼玉県出身。ノンフィクションライター。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、2006年独立。得意ジャンルはスポーツ。週刊誌やWEBを中心にインタビューやレポートを寄稿する。サッカーW杯は98年フランス大会から22年カタール大会まですべて現地観戦、取材。そのほかオリンピック、サッカー欧州選手権、女子サッカーW杯、ラグビーW杯など多数の国際大会を取材し、訪問国は約60ヵ国を数える。近年はスポーツに限らず、俳優やアーティスト、タレントなどのインタビューも多数。

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