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「『私があなたのことを好きなのを知っているのはあなたと私だけです』みたいな〝秘密の共有〟が、この小説でやりたかったことなんです」と語るピンク地底人3号氏
昨年8月に発表したデビュー小説『カンザキさん』(集英社)で第47回野間文芸新人賞を受賞したピンク地底人3号氏。今年の1月には戯曲『明日を落としても』で第29回鶴屋南北戯曲賞を受賞するなど劇作家としても活躍しており、両ジャンルで注目を集める。
新作小説『おもちゃの指輪がほしいねん』は万引きGメンの女性、アカリの真っすぐな恋心を描いた「万引き恋愛小説」だ。
* * *
――なぜ今回は自身も経験された万引きGメンという仕事を題材にしたのでしょうか。
ピンク地底人3号(以下、ピンク) 1作目の『カンザキさん』が単行本になったときには、2作目は万引きGメンを主人公にしようと思っていました。
理由は単純で、今は僕の中にある「小説にできそうなものランキング」を消化していっているからです。そのランキングの基準は、人が聞いたことはあるけどあまり知らない仕事のような、なるべく食いつきやすいものかどうかという点です。
コンビニバイトの小説よりも、万引きGメンの小説のほうが「え、何それ?」ってなるだろうと思いました。
――万引きを発見して捕まえる場面の緊迫感が魅力的でしたが、こういった場面を書く上で何を意識していますか?
ピンク これは『カンザキさん』とも同じなのですが、体感型の小説にしたいと思っていました。世の中のほとんどの人は万引きGメンの仕事をしたことがないし、そもそも知らないと思いますが、この小説を読めば本当に万引きGメンをやっているときのドキドキ感が味わえるように書きました。
具体的に意識していたのはカメラワークです。映画がすごく好きなので、映画のカット割りのようなものを見えたまま書いているという感じです。前作の『カンザキさん』もそれが読みやすさや緊迫感につながっているのかなという気がします。
万引き犯を捕まえる瞬間は、呼吸ができなくなるくらいドキドキするので、その感じを表現したかったんです。
――今回の小説を、「主人公の書く手紙」という形式にしたのはなぜでしょうか?
ピンク 手紙をもらって、お返事を書く機会が増えたんです。その経験から手紙形式でやってみようかなと思いました。そもそも手紙は基本的に〝誰かひとり〟に向けて書いているんですよね。
つまり、その人にだけ、この作品でいえばカオルさんにだけ「私があなたのことを好きなのを知っているのは、カオルさん、あなたと私だけです」みたいな〝秘密の共有〟がこの小説でやりたかったことなんです。
それに加えて、単純に自分の中で、万引き犯を追いかけている感じが一方通行の恋愛と似ているなと思っていました。つまり、万引き犯を捕まえるのは片思いのメタファーなんじゃないかという予感があったんです。そういう意味で、ただ万引き犯を追いかけるだけの作品にするつもりはありませんでした。
――ご自身のアルバイト経験を基にしつつも、主人公が女性なのはなぜでしょうか。
ピンク あまり気持ちがわかりすぎると客観性がとれなくなってしまうんです。だから主人公を女性にすることで、もう少し客観性が生まれないかなという思いでそうしました。
それに、女性も男性もいろいろなタイプの人がいるので、「女性だから」「男性だから」というカテゴリーで考えて書くとおかしくなるんです。そうではなく、「こういう状況でこのコだったら何を考えるのか」に忠実に書いていくのが大事だと思います。
――キャッチコピーのひとつが「純文学×エンタテインメント」でした。この区分についてはどう意識されていますか?
ピンク その区分は全然わからないんです。一応純文学のつもりで書いていますが、改めて読むと「ほんまか?」と思います(笑)。そこは悩んでいますね。
僕は文章ひとつひとつも、展開も、とにかく面白くしようとしてしまうんです。1ページに一回はちょっとボケたいみたいな。あまりシリアスにしたくないんです。しんどくなってしまうので。
ストーリーというのは何か困難があって、それを解決するのが基本だと思います。今回の小説でいえば、アカリが順風満帆に万引き犯を捕まえるよりは、何か困難に直面する葛藤を書けたら面白くなるんじゃないかなと感じました。
そう考えると、書き方としてはエンタメ的だった気がしています。カオルさんが誰なのかも終盤までわからないように書いていますし、「次、どうなんねん」という謎で読んでいる人を引っ張っていくところもすごくエンタメ的だと思います。
――これまでは主に演劇で活動されてきましたが、小説と演劇を作る上での大きな違いはなんでしょうか?
ピンク 一番違うのは、小説では地の文を書かなきゃいけないところです。脚本は、途中でト書きによる俳優さんに向けての指示はあるものの、基本的には全部セリフだけで書いてあります。小説では地の文もゼロから立ち上げる必要があるので、そこは大変です。
今は、どうやったら文章だけで情景を描けるのか試行錯誤しながら一生懸命書いています。
ただ、小説だからできることはいっぱいあります。例えば、スーパーで万引き犯を追いかけるシーンは演劇ではなかなか難しいですね。
舞台上にスーパーを再現するのも大変ですし、いろいろな棚がある中でお客さんが行き交っていて、そのどこかに犯人が隠れて......というのを演劇で再現するのは難しい。こういったことは小説の地の文だからこそできることだなと思います。
――これまでの演劇活動が小説の執筆に生きている点はありますか?
ピンク けっこうあります。というか、演劇を作ることや戯曲を書くことの技術を流用して小説を書いているところがあります。「ここはこういう展開にしよう」とか「こっちにいったらおもろいんちゃうかな」みたいな。そういうことがまったくなしで小説を書くのは無理だったと思います。
少し前にデビューしたばかりだし、もう20代ではないので、使えるものは使っていこうという感じです。ごまかしながら裏で頑張って、一生懸命あがいています。アヒルみたいな感じです(笑)。
●ピンク地底人3号
1982年生まれ、京都府出身。同志社大学文学部文化学科美学芸術学専攻卒業。小説家、劇作家、演出家。地上侵略をもくろむ怪人。2019年『鎖骨に天使が眠っている』で第24回劇作家協会新人戯曲賞を受賞し、2022年『華指1832』が第66回岸田國士戯曲賞最終候補となった。2026年1月、『明日を落としても』で第29回鶴屋南北戯曲賞を受賞。小説家としてのデビュー作『カンザキさん』(集英社)で第47回野間文芸新人賞受賞
■『おもちゃの指輪がほしいねん』
集英社 1815円(税込)
「マイバッグには先ほどはなかった小さな膨らみ。ふっと全身の血圧が上がって、一瞬呼吸ができなくなりました。間違いない。こいつ、やっとるわ」 「他の誰にも知られんでいい、でもあなたへの想いはあなたにだけは知って欲しい。そしてうちはあなたのことが知りたい、どうしても」万引き犯を捕まえる場面の緊迫感だけでなく、主人公・アカリの恋心の真っすぐさにも引き込まれる作品





